それではこれからも宜しくお願いします。
2004.08.26 木曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百五十七話−
最後のチャンスは永遠になくなった…の巻。
ワタシは言った。
静かに――。
ワタシ
「……もう、言いたいことは、
すべて言い終わりましたか?」
風船男は問い掛けにも無言のまま、
答えようとしなかった。
呼吸を荒げ、無駄にたわわな胸を上下させているだけで、
たった一言たりとも、言葉を発しようとする、
片鱗すら見せなかった。
ワタシ
「まあ、所有者Yさんの話は終わったということで。
長々とご苦労様でした。
……そんなことはさておいても、
何はともあれ――、勘違いするのは止めましょうよ。
ワタシがアナタに嘘をついても、
何ひとつ得することはないんですよ。
今まで言ったことは全部真実。
本当のこと。
だから、このまま行ったら、確実に強制執行になる。
アナタがワタシに何と言おうが、です」
彼はやはり、黙ったままだった。
先程の怒りは相当のものであり、
力も相当、使い果たしたのか。
彼の口は僅かながら動いていたが、
それがはっきりとした声として伝達されることなく。
彼の眼だけが、無言の抵抗を示すように、
相手方を睨みつけていた。
ワタシは彼のことなど、お構いなしに話し続ける。
ワタシ
「いいですか、所有者Yさん。
事態は今、最終局面まで来ています。
この事実はきちんと把握していて下さいよ。
それでは何が最後か?
そんなことは決まっています。
ウチの会社と話が出来る最後。
これは最後のチャンスなんですよ!?」
所有者Y
「……何が、最後のチャンスだ」
彼は呟くように言った。
小さく、声を震わせて。
所有者Y
「そんなチャンスなどいらない」
そういうと彼は首を横に振った。
そんな彼の言葉を受けたワタシは、
手振りを加え、大げさに答える。
ワタシ
「えっ、本当にいらないのですか?
たった一度しかない、チャンスだと言うのに……」
ワタシはさも驚いたかのように目を開き、
彼を見据えた。
ワタシの目に映るのは、最早、
感情のコントロールが利かなくなった機械の彼、だった。
ワタシは肩をすくめた。
ワタシ
「……仕方ないですね。
それでは――チャンスはこれでなくなりました。
最後のチャンスはこれで永遠になくなった、
ということです」
ワタシは冷たく言い放ったのであった……。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
社内営業も営業のうち。
8/26 15時
>債務者が執行費用を負担するてことは,
>A子が債務者なんですか?
>債務者はてっきり風船かと…。
この場合の債務者は、引渡命令や
それに基づく強制執行の相手方を示します。
実際にマンションを占有しているのは、
所有者Yではなく賃借人を称する占有者A子ですので、
彼女が相手方(債務者)になります。
要するに不動産競売事件と引渡命令やら強制執行は、
別の事件であり、別けて考えなければならない、
ということです。
2004.08.28 土曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百五十八話−
キン消しと風船男の悲痛な叫び…の巻。
ワタシ
「最後のチャンスはこれで永遠になくなった、
ということです」
ワタシがそう冷たく言い放った、後――。
お互い、沈黙、そして静止。
キーンと耳鳴りがする程の、重苦しい沈黙が場を支配した。
重い空気の圧迫感は、蟻でも踏みにじるかの如く、
ワタシと風船男に容赦なく襲い掛かるのであるが、
それに抗うこともなく、対抗できる訳もなく、
重圧にただただ身を任せていた。
風船男に至っては、苦悩の表情で額から脂汗を流している。
ワタシ
「……」
所有者Y
「……」
ワタシ
「……」
所有者Y
「……」
そんな沈黙は一分程続いただろうか。
長く苦しい時間の経過は、
重いコンダラでも引き摺る亀のようなものだ。
いつまで経っても同じ時を歩んでいるとしか思えない。
その時間が、まさしくそんな状況であり、
ワタシは無限ループへ陥る錯覚を覚えた。
耐え切れないくらいの重圧――。
ワタシはもうそろそろ限界、
これ以上の沈黙には耐え切れないというところで、
立ち上がった。
熱風の暑さ極まりないサウナから飛び出すかのように、だ。
風船男を上から見下ろすように一瞥して、一言、「残念です」。
ワタシは彼に小さく会釈すると、
脇に置いていた自分のショルダーバックを肩にし、
帰ろうとした、その時――。
所有者Y
「……あ・あ・あ・あ・あ」
風船男は声にもならない、かすれた声を上げ、
ワタシの方へと腕を伸ばした。
一瞬、ワタシは首でも絞められるのか、と思ったが、
いやでも、こちらは立っていて風船男はといえば、
ゴミの中に埋もれるようにして座っているのだ。
位置関係からして、腕を引っ張られたキン消しよろしく、
風船男の手が余程ビヨーンと伸びなければ、
ワタシの首にまで届くあろうはずもない。
……そういや、小学生の頃、
キン消し――キン肉マンの消しゴムを、
躍起になって集めたなあ。
消しゴムなのに、使ってみたら、文字が消せなくて。
それどころか、こすればこするほど、
鉛筆で書いたものが広がるようにして紙を黒くする。
それでも、力を入れてタワシみたいにゴシゴシこすると、
最後は紙を破いちゃう、アレだ。
それにしても、キン消しを集めた、
あの情熱は一体、何だったのだろう。
あ、そうだ。
キン消し大事にしまったのはいいものの、
あまりにも厳重に封印し過ぎて、結局どこに行ったのか、
分からなくなったんだよな。
多分、今頃、キン消しのゴムが固まって、
一体化しているのかもしれないな。
……。
あれ、今、何やってるんだっけ?
ワタシが夢遊状態に陥っているホンの僅かな時間に、
風船男はその太く短い腕を伸ばし、
ショルダーバックの脇を掴んでいた。
彼が狙ったのはワタシの首ではなく、
カバンだったということだ。
ワタシ
「な、な、どうしたんですか?」
一瞬、目の前の男に引ったくりされるかと思ったが、
別にワタシのカバンには、
貴重品と言える貴重品などなく――。
しかも、こんなところで引ったくりされても、
それこそ今度はこちら側が警察呼ぶわ、といった具合で。
まあ、そこまで風船男も馬鹿ではなかろう。
彼はワタシのカバンの端を掴みながら、
焦るように声を出した。
所有者Y
「……ちょ、ちょ、ちょっと待って。
ちょっと座ってよ」
彼の口から飛び出してきたのは、
悲痛な叫びであった……。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
人間、思っている程、食えない。
8/27 17時
>だんだん面白くなってきました。
>ネタ切れとか言ってすみません。
面白かったら、それはそれでよかったです。
他にもネタはあるのですが、
それはいずれ別の機会にでも。
ネットかどうかは分かりませんが。
8/27 22時
>おーなるほど!執行法の勉強になりましたm(__)m
法律は難しいです。
しかし、多少でも知っていると知らない人間より、
有利になることは間違いありません。
それではこれからも宜しくお願いします。
2004.08.30 月曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百五十九話−
風船男の打って変わった姿…の巻。
所有者Y
「……ちょ、ちょ、ちょっと待って。
ちょっと座ってよ」
彼の口から飛び出してきたのは、
悲痛な叫びであった……。
所有者Y
「……も、もう駄目だ。
ボクには駄目だ。
わ、分かった、話を聞こう。
キミの話を聞こう。
だから、座ってくれ」
……もうボクは駄目だ、と彼は言った。
何が駄目なのだろう。
それにしても――。
今までとは打って変わって、神妙なまでに神妙な彼。
この豹変振りや、如何に。
何か魂胆があってのことだろうか、それとも……。
しかし、その表情を見る限り、何事か企んでいるような、
いわゆる悪い顔をしてはいなかった。
表面上を取り繕うのではない。
心の底からにじみ出るかのように観念しているのだ。
少なくとも、ワタシはそう感じた。
所有者Y
「……ねえ、座ってよ」
その顔色たるや、先程までの紅潮は消え失せ、
どこに行ったか、という風だ。
風船男の顔は今や、怒りで赤く染めていない。
むしろ、額に縦線が引かれているように、蒼ざめていた。
ワタシは頭の片隅で思った。
赤い風船から、青い風船――。
そのうち、誰も知ることなく、割れちゃうんだろうな。
跡形もなく、パーンと。
必死にすがるような彼を下目に、ワタシは言った。
冷ややかな眼差しで。
この時のワタシの目の冷たさは並みのものでは、
なかったのだろうと、思う。
ワタシ
「……でも、話が終わってもいい、って言ったのは、
そちらじゃないですか」
所有者Y
「そんなことは言ってない!
……いや、話は終わるのはいいのだけれども。
話がそういう風に進んだら、困るんだ」
ワタシ
「困るって言われても、もう、ねえ」
ワタシはここで再度、帰ろうと後ろを振り返った。
本心を言えば、彼との線が首の皮一枚で繋がったみたいで、
ワタシは彼と話すべく、ゴミの中でもドブの中でも、
どこでもいいから飛び込んでもよかった。
だが、今はそうやってほいほい相手側の方に行くのが、
得策ではないような気も同時にしたのだ。
それに、また同じことの繰り返しになるのではないか。
……。
後ろを振り返らず、このまま行こうか、
それとも、戻って、またひざを折るか――。
刹那過ぎる程の刹那の思考後、
ワタシは、前者を選択した。
――そうだ。
もう後戻りしても意味はないのだ。
これも選択。
彼が下した選択なのだから。
ワタシはそのまま、振り返りもせず、
玄関へ続く階段へと、ゴミを掻き分け、掻き分け進んだ。
そして、あと数歩で階段へと辿り着く時――。
ワタシの耳に心の叫びが届いた。
風船男の、悲しみにも似た叫びだ。
所有者Y
「本当に困るんだ!
……た、た、頼む!
頼みます!」
風船男はかすれた声を搾り出すように上げた。
彼は必死だった。
今までワタシに丁寧語など使わなかった彼が、
すがるようにして言ったのだ。
頼みます、と――。
所有者Y
「……頼みます!」
……。
ワタシは階段へと向かう歩を止めた。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
自分で思っているほど、晴れ男じゃない。
8/28 19時
>あんちゃんです。
>肩掛けカバンか〜僕の所は田舎なので車のトランクの中に
>図面等すべて入れて倉庫のようにな
車がないと行動出来ない程、エリアが広いってのもあるでしょうし。
でも、本当、物件は見に行かないと駄目ですね。
それがいいのか、悪いのかすら分かりませんし。
8/29 10時
>もう、キン消しって別のもの連想しちゃったよ(^o^)
何を想像したのですか?
それではよろしくお願いします。
2004.09.01 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十話−
形勢逆転! その理由とは…の巻。
所有者Y
「……頼みます!」
風船男がそのような言葉を使うとは思いも寄らなかった。
彼はそれだけ、切迫した状況に陥っているということか。
その言葉を受け、ワタシは立ち止まった。
彼の方を振り向くと、
重そうな風船頭を垂れるようにしてうずくまっていた。
床に放置された新聞紙やらカップ麺の空だとかに、
まさに頭をこすりつけんとする勢いである。
ワタシは少し離れたところで、うずくまり、
まるで象が寝ている姿のような彼を上から見下ろし、言った。
ワタシ
「それだったら――。
本当にそういう風にされるのでしたら、
最初から、話し合いの土俵に乗って貰えれば、
良かったのですがね」
ワタシは所有者Yに噛んで含めるように、
ゆっくりと伝えた。
少々嫌味が入っていたかもしれない。
でも、だからといって、
所有者Yがワタシに反抗してくることはなかった。
ワタシ
「やっぱり――。
チャンスは二度と戻って来ないのですよ」
所有者Y
「そ、そ、そこを何とかっ!
何とか!」
十分前の風船男に今の変貌振りを見て貰いたい程、
彼はうろたえていた。
ワタシに話し合いの機会を乞うていた。
こんな彼を切り捨てるかの如く、
ワタシはこの場を立ち去ることが出来るだろうか。
話し合いを続行するのは、ワタシの本心でもある。
それとも、彼をそのまま捨て置き、
そのまま強制執行への道筋をつけていくべきか。
それとも、しばしの冷却期間を置いた上で、
所有者Yや占有者A子との、
再度の交渉に臨んだ方がいいか――。
……考える時間もない。
ええい、思ったまま考えたままよ。
口は動かすためにあるのだ。
ワタシ
「……分かりました」
ワタシは――彼と再度、話し合うことを選択した。
その選択が当たっているのか、はたまた間違っているのか。
答えは後になって分かるというもの。
一度決断したからには、選んだ選択肢を全うするのみ。
ワタシは彼の方へと近づいていき、
さっきまで座っていた定位置にドカッと腰を下ろす。
肩に掛けていたショルダーバックを脇に置くと、彼に言った。
ワタシ
「……これが本当に、最後の話し合いです。
最後のチャンスともいえます」
まずは釘を刺しておかなければならないだろう。
風船男は重そうな頭をコクンとひとつ頷かせた。
どことなくホッとしているようにも見えたが、
いずれにせよ、痛々しいくらいに弱々しかった。
人間、短時間でこうも変身出来るものだ。
いや、むしろ、クスリの効き目が切れた、
ドーピング選手のようであった、というが適切か。
所有者Y
「それは――分かっています。
ボクも今の自分の現状については、
分かっているのです。
知らない振りをしたところで、
現実は現実ですから」
……何とも殊勝な言葉だ。
彼の変わり振りは、本物である。
本当に一体、彼はどうしたのだろう。
何か悪いものでも食べたのだろうか。
ワタシがここに来る前に、食べていたカップ麺にでも、
今頃になって当たったのだろうか。
それはともかくとして、さっき風船男はひとつ、
気になる台詞を吐いていた。
「ボクはもう駄目だ」、と。
一体全体、何が駄目だというのだろう……。
ワタシ
「その通りです。
でも、それだったら何度も言ってます通り、
最初からそのような方向性で、
話し合いをさせて頂ければ――。
まあ、これ以上言うとクドイですので、
もう言いませんが……」
風船男はワタシの顔をまともに見ようともせず、
横を向き、ひとつ小さな溜め息をついた。
所有者Y
「……分かります。
出来ることならボクもそのようにやりたかった。
でも――」
ワタシ
「――でも?」
所有者Y
「でも、これには理由があって……」
何故、所有者Yはワタシに対して、
当初、話など聞く耳持たない態度を持っていたのか。
彼は、彼に起きていた事実を切々と語りだした。
その理由とは――。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
エアコンの利かない車の中は、地獄だ。
8/31 23時
>不動産コンサルティング技能試験って
>合格したら意味有りますかね?
将来的にはワタシも取ろうと思ってはいますが、
これを取ったからといって、
即どうだ、参ったか! とまでは行かないでしょう。
2004.09.02 木曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十一話−
アドバイスをしたのは誰だ?…の巻。
ニセ仙人がワタシが訪れてから、
三、四杯目となるお茶を持ってきた。
もちろん、ご飯をよそう茶碗に、
薄い出がらしを量だけたっぷり入れたもので、
風船男に差し出されたのは、ピンク地に花柄の茶碗で、
ワタシには、ブルーの柄なしのそれであった。
風船男は、何も言うことなく、
ニセ仙人から受け取ったまだ熱さの残る茶碗を、
両手に持ち、くるくると回していた。
くるくると猫の目のように回る茶碗を見つめ、
彼は段々と言葉を吐く気分になったのか。
ようやく、ポツリポツリと話し出した。
所有者Y
「……もし誰かが訪ねて来たら、
まずは相手を突き放すように話せ、と。
そう言われたのです」
風船男はガックリと肩を落とし、
うな垂れたままである。
所有者Y
「とにかく話をする相手はプロだろうから、
ボクのような素人が何も分からないまま、
そんな相手と話を進めてしまったら、
それこそ、一方的に不利になること間違いない――」
風船男はそこで話を切ると、
手にした茶碗をぐいっと一気に煽った。
この男の特技は、熱い飲み物を苦にする事無く、
飲み干せること、である。
猫舌のワタシからしてみたら、
非常に不思議な光景であった。
一気に茶を飲み干した彼は、
ひとつ大きな溜め息にも似た吐息をつくと、
話の続きをした。
所有者Y
「……相手が話をしに来ても、相手にするな。
もしくは仮に話を聞くことはあっても、
その話に安易に同意をするな、ということで。
ボクはハッキリ言ってこんなこと、初めてだし、
何が何だか分からない。
大体、素人ですし――」
風船男は、そういうと顔を僅かに上げ、
すがるような目でワタシを見た。
彼のこのような目は、初めて見るものであった。
所有者Y
「ボクは素人だったし――いや、今でも素人ですけど。
それに他に誰も相談する人がいなかったので、
彼らに頼るしかなかった。
それにボクはこんな状況が怖かった。
彼らのアドバイスを聞く以外、道はなかった」
またも大きな溜め息をつき――。
それでも彼は結論を述べた。
所有者Y
「……だから、ボクは交渉に来たアナタに対して、
まともな対応を取ろうとは思わなかった。
取れなかったのです」
――結局、所有者Yは自分の意思ではなく、
あくまでも第三者からのアドバイスを受け、
それが正しいと思い込んだだけ、ということなのだろう。
それにしても――。
ここで気になるのは、それでは一体、
誰がそのような愚にもつかないアドバイスをしたのか、
という点だ。
彼らという言葉から、少なくとも複数だということは分かる。
ワタシは彼に尋ねた。
ワタシ
「――彼らというのは誰です?」
所有者Yは答えた。
それは予測の範疇にあった、的確な答えであった。
所有者Y
「――ルリカワさんとマスウラさんです」
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
最近、トマトが旨いと思えるようになってきた。
セロリはまだだが。
9/1 14時
>土壌に乗る。。。土俵に乗ってみては どひょ〜
ああ、間違い、間違いです。
直しました。
ありがとうです。
9/1 19時
>>その理由とは――。
理由は徐々に明かされます。
2004.09.04 土曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十二話−
あの気色の悪いコンビ、再び…の巻。
所有者Y
「――ルリカワさんとマスウラさんです」
やっぱりというか、当たり前というか、モチのロンというか……。
所有者Yの相談を受ける相手など、彼ら二人組しかない訳で、
答えを聞く前から、ある程度想像することは出来たが、
それでもワタシは両腕に鳥肌が立つのを感じた。
こいつら、また登場するのか、と――。
――ルリカワとマスウラとは、説明するまでもなく、
新宿歌舞伎町に事務所を構えた二人組である。
占有者A子との交渉にも出張ってきた、
あの気色の悪いコンビだ。
中途半端なオネエ言葉を吐きつつ、
ワタシの方へと迫り来るルリカワと、
心もとない髪の毛がべったりと頭にへばりつかせ、
ワンカップを旨そうに呑んでいる酒臭いマスウラ――。
そんな地獄絵図みたいな光景が思い浮かぶ。
彼ら二人のことを思い出すだけでも、虫唾が走った。
死に際に垣間見る走馬灯において、
たった一コマであっても、
彼らが登場するシーンに費やされたら、
それこそ、死んでも死に切れないと思う程、
ねっとりとした嫌悪感を感じていた。
背中にひとつ寒気を覚えたワタシは、
鳥肌を収めるかのように、右腕を左手で、
左腕を右手で交互にさすりながら、言った。
ワタシ
「うーん……。
彼ら、ですか……」
ワタシの短い答えに対し、
何故だか少し驚いたかのように、彼は反応した。
所有者Y
「あれ?
その口ぶりだと、
ルリカワさん達を知っているのですか?」
ワタシ
「……知ってるも何も、先日、あの人たちとは、
占有者A子さんと一緒に会ったじゃないですか。
彼らの入れ知恵だか、何だか分かりませんが、
結局、ウチとも話がつかないし、それどころか、
占有者A子さんとも決裂しましたよね――?」
コイツ、何をトンチキなことを言っているんだ?
あの、へっぽこコンサルタントはオマエが頼んだのだろうが!
……などとワタシは思ったが、心のツッコミに抑える程度で、
ワタシはそこまで口に出して言わなかった。
呆れた声を出したくらいである。
ワタシ
「その辺りのことは、聞いていないのですか?」
所有者Y
「はあ、聞いていませんが……」
少々、間の抜けたやり取りである。
このまま、こんなやり取りをし続けるのも、愚の骨頂だ。
方向転換する合図のように、咳払いをしたワタシは、
話題を代えた。
ワタシ
「まあ、いいです。
それより問題は過去を振り返ることよりも、これからのこと。
――そうですこれからどうするかが、一番重要な訳ですから」
風船男は顔を上げ下げしていたものの、
結局、また俯(うつむ)き加減に俯く位置で落ち着いた。
ワタシは少し、間を空けて続けた。
ワタシ
「――それで、所有者Yさんは実際のところ、
どうなんですか?
占有者A子さんを助けたいのですか?」
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
休みがないのも嫌だが、毎日が夏休みなのも嫌だ。
9/2 23時
>マスさん久々!
>フラフープやりながらワンカップ呑む人ですよね〜?
はい、そうです。
といいますか、そんな細かい話よく覚えてますね。
って、それだけ長いこと書いてるんだな、と思ってしまったり。
9/2 23時
>いやーやっと核心に入ってきましたねー。
>我慢した甲斐がありました。
これは核心に入ったのか、どうかは、
ご自分の目でお確かめ下さい。
といいますか、我慢は体に毒です。
9/3 11時
>いよいよクライマックスですか?
所有者Yだけを詰めてのクライマックスはありえないでしょう。
9/3 23時
>マ、マ、マスカワ
>キタ━━━( ´∀`)・ω・) ゜Д゜)゜∀゜)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)−_)゜∋
名前が混ざってますよ。
ちょっと面白かったです。
2004.09.06 月曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十三話−
所有者Yの苦悩と選択…の巻。
ワタシ
「――それで、所有者Yさんは実際のところ、
どうなんですか?
占有者A子さんを助けたいのですか?」
所有者Yは黙ったまま、頷いた。
それは当然であり、
それ以外の目的はない、と言わんばかりに。
そして、脇の段ボールの机の上に、
彼が手にする茶碗を置くと、決意を表するが如く言った。
所有者Y
「ルリカワさん達からは、この件で自分達以外とは、
誰とも話すな、と言われていたので……。
もし、こちらがだんまりしているのに、
あまりにも相手がうるさかったら、
怒って追い返すのが一番だ、と」
所有者Yは、粗野なゴミ屋敷の主のイメージから、
打って変わって意外な程、しっかりとマトモに喋っていた。
先程とは一転、キャラ変わり過ぎ、だ。
でも、もしかしたら今の風船男の方が地の彼であるのだろう。
意外に真面目な人間なのかもしれない。
所有者Y
「だから、最初はアナタの話なんて聞く耳を持ちませんでした。
聞く耳など持っちゃいけない、聞いちゃいけない。
そう念じながら、ボクはアナタの話を聞き流していた。
でも――」
彼は伏せていた顔を上げ、ワタシの目を見据えた。
汗を垂れ流すままに垂れ流し、苦悶に満ちた表情であった。
夏などとっくに過ぎたというのに、
彼の体温のせいなのか、心なしか、
この部屋の温度まで高くなっているように思った。
ワタシの方まで暑くなって来る。
じっとりとした蒸し暑さを感じた。
所有者Y
「アナタの話を聞き流しながらも、
それでも、やはりアナタの言葉というのは、
ボクに届いて……。
このままで本当にいいのか、
とボクは思い始めました。
ルリカワさん達の言葉を信じていいのか。
彼らが言う通り、それが本当に、
A子のためにもなることなのか、と。
ルリカワさん達と、アナタ。
一体、どちらのいうことを信じればいいのか。
ボクは悩みました――」
そういうと、風船男は脂ぎった髪の毛を掻き毟った。
まるで頭の中にこびりついた煩悶という名の垢を、
掻き落とすように――。
だが、実際に目に見えて落ちているのは、
雪のように舞い落ちるフケばかりであった。
所有者Y
「アナタの目に、はたしてボクはどう写ったのか。
それは分かりようもありません。
ボクの苦悩を理解してくれ、とも言いませんし、
分かって貰いたくもありません。
でも、ボクはアナタと話している内に、
A子にとって、何がいい道なのか――。
ルリカワさん達とアナタ。
はたしてどちらの言うことが、
ボクにとって正しい選択なのか――」
――そして、ボクは選んだのです。
彼ら二人ではなく、アナタと話す道を……。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
週休三日制希望。
2004.09.07 火曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十四話−
彼女を守るのはボクしかいない…の巻。
所有者Yは天を仰ぎ、大きな溜め息をした。
その意味は達観の極地なのか、それとも諦めの心境なのか。
いずれにせよ、彼はもう一方的に、
話を打ち切る素振りを見せることはなかった。
そのようなことをする必要もないと言うことだろう。
またもや、大きく息をつくと、彼はまた話し出した。
所有者Y
「ボクは――。
ボクは、彼女を守らねばならないのです。
ボクしか守る人間はいないから。
だから、彼女にはボクが必要なんです……」
風船男の長い長いモノローグはそうやって始まった。
ワタシは彼の心境の吐露など聞く必要はないとは思ったが、
それでも彼が喋りたいという話を止めてまで、
こちらの話を聞かせるというのも、大人げないことだ。
それに先程までの間、
彼よりワタシの方が喋っている時間が長かった。
休憩の意味を含め、ワタシは黙って彼の話を聞くことにした。
どこか遠くを見つめる眼差しで彼は言葉を連ねた。
所有者Y
「……彼女と出会ったのは、もう十年近く前ですか。
ボクはその頃、現役の医者をやっていまして、
それはそれは、忙しい日々を送っていました。
その頃、ウチの病院は、こことは少し離れたところにあって、
ここは――今は、見る陰もなく、
荒れ果てているように思われるかもしれませんが、
本院の離れ、分院として使っていました。
ボクは医者の息子ということで、
将来は医者だと、あの人からも期待され、
親の期待に沿うよう、浪人と留年を繰り返したものの、
何とか三十近くになって医大を卒業し、
あの人の病院に医師として、仕事をするようになったのです。
ウチの病院は、それなりに繁盛していました。
とにかく忙しかった時期でした。
心の休まる暇がない、
というのはまさにこのことなのでしょうね。
ボクの人生の中でこれほどまでに忙しかったのは、
やはりこの時を置いて他にはなかったように思います。
時間的にも精神的にも……です。
ボクの商売は人を診ることが商売ですから、
自分の知らない、
色んな人との係わり合いをしなければなりません。
それこそ、人の生き死にへの係わりです。
それに疲れていたのでしょうね。
元々、ボクは人と接するのが苦手な方でしたし。
そんなボクが外科の医師なんてやっていたのは、
ひとえに親の期待というのが大きかったからなんでしょう。
ボクへの期待は大きかった。
大き過ぎました。
医者になることの期待。
それが叶ったと思ったら、
今度は跡継ぎを残すことへの期待。
次から次へとボクに向けられる期待の目。
期待の目、期待の目、期待の目……。
それはそれは息苦しい程でした。
でも、色んなことを期待されていたボクですが、
向いていなかったのですよ。
外科医師なんて仕事には……」
そういうと、彼は自嘲気味に笑った。
悲しい笑いだった。
所有者Y
「ボクは医師として人と付き合う、
あくまでも仕事として接しなければならない時以外は、
極力ひとりでいました。
ボクが心休まるのは、ひとりの時だけだった。
ひとりというのは、親も例外ではありません。
しかしながら――。
放っておいてもらいたいボクに、
親――あの人は次々と干渉してきました。
結婚相手はいないの、って。
うるさかった――本当にうるさかった。
言葉が適切かどうかは脇においといて、
親に居なくなって貰いたいと思った程です。
ボクが徐々に壊れていきました。
崖から石が転がり落ちるように。
暗く深い、どこまでも落ちていくように。
それこそ、医師の転落とはよく言ったものです」
彼はちっとも面白くない駄洒落で笑う。
やはり悲しい笑いであった。
所有者Y
「ボクが暗い闇の中に落ちていったその時、
一筋の閃光が見えました。
……そうです、ボクは彼女に出会ったのです」
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
いろんな意味で忙しい。
そんな中でも物語は更新。
でも、やっぱり更新は度々遅れるかも。
その時はごめんなさいね。
2004.09.08 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十五話−
ボクだけのために存在する彼女…の巻。
所有者Y
「ボクが暗い闇の中に落ちていったその時、
一筋の閃光が見えました。
……そうです、ボクは彼女に出会ったのです」
男と女が出会った。
風船男は、ワタシに占有者A子とのなれそめから遡り、
今までの経緯を事細かに話そうとしているのだろう。
過去の思い出を懐かしむでもなく、
淡々と事実を列挙していく彼の話を、
ワタシは黙って聞いてた。
彼が話したいというものを遮ってまで、
自分の話のみを押し通す必要はない。
そう感じていたからだ。
それに……。
個人的でに、彼と彼女の関係について、
どんな流れがあったのだろうと、
女性週刊誌的興味があったというのも、
正直なところだ。
所有者Y
「彼女は、輝いていた。
ボクの心の暗澹とした深淵の闇を、
切り裂くようにして差し込む光でした。
ボクだけに微笑を振りまく彼女。
ボクだけに手を振る彼女。
ボクだけに、他の誰にでもない、
ボクだけのために存在する彼女――。
ボクだけのためにブラウン管に写る彼女は、
それはそれは輝いていて――」
ワタシ
「……はあ?」
ワタシは思わず、声を漏らした。
話の腰を折るつもりは毛頭なく、
彼が話し終わるまでじっと耳を傾けていよう。
そう思っていた矢先ではあったが、
彼の言葉に交じる、あからさまな違和感に、
その決意も破られるというものだ。
彼の真面目さが見出せたモノローグであるが、
それと同時に彼の内なる狂気の一角を、
ワタシは垣間見たような気がした。
その象徴たる、「ボクだけの」という台詞の連呼もさておき、
風船男がさらりと述べた、
「ブラウン管に写る」とは一体、どういう意味だ?
ワタシ
「話の途中、水を差す気は全くないのですが。
ブラウン管ってのは……」
だが、所有者Yはワタシの漏らす言葉を意に介せず、
黄金の国ジパングを目指す、
マルコポーロよろしく、遥か遠く、彼の地を向いていた。
所有者Y
「ブラウン管っていうのは……。
テレビの画面ってことですよ」
事も無げに答える彼。
そんなんは分かってるっつーに!
流石のワタシも、それくらいは分かっている。
馬鹿にされた気がして、ちょっと腹がムカムカしたが、
グッと感情を押し殺した。
それどころか、ちょっとした愛想笑いを浮かべ、
ワタシは言う。
ワタシ
「……そうですよね。
テレビのことですよね」
いきなりヨワッちいところを見せたワタシであったが、
風船男はその点をワタシの弱みだとばかりに、
襲い、付け入ることもなく、またもや自分の話に戻った。
ワタシと闘う士気はもう残ってはいないということか。
所有者Y
「ただひとつ言えることは、
ブラウン管から見せる彼女の笑顔は、
ボクだけのモノだったということです」
……彼の回想は続く。
……続く。
<おまけ日記>
長いこと続いていた連載ですが、
最後の周回へとようやく、
最初の一歩を踏み出したといったところです。
今まで続けて読んで貰った人が、
時間を損したと思わないようなラストランに向けて、
物語は進んでいきます。
とはいえ、一周が大分長いですがね。
自分でいうのもなんですが、
ネットで連載しているモノだから、こんな程度だろ、
なんて思われないようなモノを書いていきますので、
時間に余裕のある人は、まあ、読んでみて下さいませ。
ただし、基本的には書き捨てな勢いで書いてますので、
誤字脱字が多用されると思います。
その際はご指摘お願いしますです。
9/7 11時
>忙しくてGさんも転落したら困るのでマイペースで更新下さい。
>世の中が必要としてるGさんだから。(^^ゞ
ワタシが世の中から必要とされているのか、
どうかは分かりませんが、
自分のペースで進めますので、大丈夫です。
9/7 12時
>いい感じ!になってきましたよ〜。応援してますよ〜。
こーゆーのがいい感じなのですね。
文章書く勉強になりますね。
まあ、勉強したくないですけど。
9/7 12時
>ここに来て人物像が深く彫り込まれてきた感じがします。
そうですか。
人物像の掘り下げをしようとか意識して書いていないので、
なるほどなあ、と思う次第です。
9/7 19時
>風船の変わりようにびっくりしました。
>ちゃんとしゃべれるじゃん!
でも、徐々に喋っている内容が……。
2004.09.09 木曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十六話−
彼女はアイドルなんかじゃない!…の巻。
遥か彼方、永遠より遠くを見つめる彼の眼差しの中に、
妖しく蠢(うごめ)く、蝋燭の炎を灯していた。
彼女の名を口にする度に、
炎の形は揺ら揺らと揺らめいている。
唇を舐め、そして、風船男の話は途絶える事無く……。
所有者Y
「……彼女は最高に輝いていた。
それこそ、まばゆいばかりでした。
アイドル――。
世間では、彼女はそう呼ばれていました。
でも、だけれども……。
彼女のその様は、一口にアイドルという、
安易で安直な枠組みに括って貰いたくない。
アイドルなんて、所詮は偶像。
ボクは偶像なんて、
そんなものを崇拝しているのではないからです。
彼女の輝き、彼女の光は、
アイドルという存在を存分に超えていて……。
彼女はアイドルなんかじゃない!
言葉に出すのも躊躇(ためら)われる程の――、
彼女の存在とは、それ程のものです。
そうなのです。
彼女とは、誰もが認める、ボクだけの天使なのです!」
ワタシ
「……」
……誰もが認めるって、
一体どこの誰がどれだけ認めるというのだ。
少なくともワタシは認めてはいない。
でも、ワタシは反論する気にもなれなかったし、
彼もその間を相手に与えることなく、話を進めていた。
所有者Y
「ボクはこの出会いによって、
ボクと彼女との永遠の縁を確信したのです。
愛とも言い換えてもよいかもしれません。
でも、それよりももっともっと大きなモノ。
だから、彼女との縁をもっと強くするために、
彼女ともっともっと近くなるために、ボクは――」
しばらくの間。
その後、風船男は、熱い吐息をついた。
まるで恋の熱病に冒された乙女だ。
夢見る乙女は――。
今やひとりの薄汚れたオッサンの姿をしている。
そんな乙女チックを気取っている彼に、
ワタシは途切れた言葉の続きを促した。
ワタシ
「――それで、ボクは?」
彼はワタシの言葉を受け、堂々と答える。
所有者Y
「ボクは――。
彼女のファンクラブに入ったのです」
ワタシ
「……はあ?」
真面目に語る彼に、ワタシは目が点になり。
次いで、笑いがこみ上げて来た。
思わずプッと噴出した。
給食の時間なら、間違いなく、
ピューっと牛乳を噴射していたことだろう。
何だよ、ファンクラブって!
だが、風船男は至って真面目であり、シリアスであった。
彼はふざけて話しているのではない。
本気でワタシに語っているのだった。
彼は本気になって、
自分の気持ちを吐露している。
だからこそ、そこには狂気があった。
無邪気で子供染みた狂気だ。
そんな狂気の人を、遠くの安全圏ではなく、
自分の間近にして置きながらも、
後先考えずに、笑いの対象に出来たワタシも、
どこかしらの毒気に呑み込まれていたのかもしれない。
ワタシが少し笑ったことに対し、細い目を更に細くし、
殺気を隠さなかった彼であったが、
自らの話を進めることの方が重要だと思ったのだろう。
真剣な表情で語る彼の話は、占有者A子接近編へと、
否応なく向かっていく……。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
とりあえず、年端の行かない子供を巻き込むのはいかん。
どんな大義名分を掲げたって、
そこには正義も減ったくれもない。
あるのは恨みつらみだけだ。
9/8 10時
>風船男、やばーい感じになってきましたね。こわっ。
風船男さんについてですが、
この物語が終わった後、
一体どんな評価が待っているのでしょうか。
ただの狂人としての評価でしょうか、それとも――?
2004.09.12 日曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十七話−
ファンクラブ時代の話…の巻。
所有者Y
「……ファンクラブに入ると言っても、
勘違いしないで貰いたいのです」
風船男はこのように昔話を切り出した。
ファンクラブ時代の話だ。
所有者Y
「別にミーハーな気持ちで入会した訳ではなく。
それに入会しただけで彼女に近づくことが出来る――。
そんな甘いモノだとは思ってはいません。
大体にして、ただ人の作り上げた組織に入って、
ワタシは満足出来るか、目的が達成出来るか――。
その答えには、ノーとしか言えません。
何故、組織に入ったかといえば、という前提に立ち返れば、
その理由は自ずと分かることでしょう。
ボクにとってはファンクラブ入会というのは、
スタートラインであってゴールではなかったからです。
まずは上に上がらなければならない。
目的地に到達するためにも……」
その努力を思い出し、少し目を潤ませる風船男。
余程辛かったことなのか。
余程人に話したかったことなのか――。
所有者Y
「もっとも、下から上へ這い上がるには、
それ相当の努力は必要でしたが――」
彼の感情の吐露は熱く、今にも肩から熱気が上がりそうだ。
彼の話は止まる事無く、進む。
今に続く過去の話を――。
ワタシは黙って聞いていた。
彼によるとファンクラブとは、占有者A子が所属していた、
アイドルグループのファンクラブ――当時、
雨後のタケノコのようにポコポコと量産され、
作り上げられたアイドルグループのひとつであり、
その中でも彼女の所属していたグループは、
有象無象の存在であった。
事実、ワタシはそのグループ名を聞いても、
全くといっていい程、ピンと来なかった。
そういえば、そういったアイドルユニットがあったのかな、
といった程度のものだ。
別にアンケートを集計した訳ではないが、
一般的な認識としても、
それくらいのものであろう――であり、
彼女単独のそれでは、なかったということだ。
ファンクラブに入会した彼であったが、
入会者には当然のように年功序列による上下関係があり、
ファンクラブ結成後、入会の遅かった彼の上には、
数多くの上の人間がいたという。
グループのファンクラブ一般会員から始まった彼であるが、
だが時には辛酸を舐め、時には懐柔し、時には恫喝し……。
組織の中で、這い上がっていく。
血がにじむような努力の様を彼はつぶさに語った。
そこには紆余曲折様々な出来事があり、
グループファンクラブから、彼女単独のファンクラブを創設。
彼はとうとう、その会長になった。
ファンクラブという小さな世界での、
ちょっとしたサクセスストーリーである。
彼の夢はこれで叶った、のか?
所有者Y
「……そして、ファンクラブの会長になるというのも、
同じくまたゴールではなかったのです。
あくまでも、それは手段であって目的ではない。
当たり前の話です。
ボクは別に上に立つことが望みではないのだから。
望みはただひとつ――」
――彼女と会うことだけです。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
最近、忙しい。
9/9 13時
>いやーいいですねー本当に良い感じになってきました。
>このペースでまとめ上げて下さい!
ペースはどうだろ。
いつもどおり、遅いかも……。
9/9 19時
>さっき殺気を感じた…なんちゃって…あぁごめん!
駄洒落好きですか。
ワタシも大好きだったりします。
しょうがないです。
2004.09.13 月曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十八話−
ファンクラブ会長までの道のり…の巻。
占有者A子と出会うためだけに、
ファンクラブに参加したという所有者Y。
紆余曲折の後、
彼は占有者A子のファンクラブの会長になったという。
だが、自身のサクセスストーリーを語る上で、
それだけでは相手に苦労が伝わらぬ、
言葉が不十分だと思ったのだろう。
ファンクラブの会長になるまでの道のりを語るべく、
彼は話を巻き戻し、再開させた。
所有者Y
「……他人には分からないかもしれないけれども、
ボクにとってそこは地獄でした。
毎日が地獄とはまさにこのことです。
だけれども、ボクは毎日ファンクラブに参加していました。
何故なら、地獄の中に天使がいたからです」
風船男はファンクラブ時代の話を真面目な顔で、
振り返っていた。
真剣なまでに真剣な表情だ。
彼は語りに語る。
ファンクラブ内での年功序列による、
幹部や先輩からの容赦ないイジメ、イビリ、などなど。
彼らからアレをされた、コレをされた、ナニをされた。
そんな仕打ちを受けた彼にとって毎日とは、
まさしく地獄の日々である、と。
彼の話には、ところどころに、思い違いや逆恨み、
被害妄想的な部分が少なからずあるように思えた。
はっきり言って彼が思っているよりかは、
その行為はイジメでもイビリでもないと感じざるを得ない、
たわいのないモノであったが、
それでもそれをイジメと受け取ったのは、
彼にとっての真実なのだろう。
要するに真実とは、
それを見る人間のバイアスが掛かった事実である。
故に、人それぞれに真実がある、ということだ。
ただ彼にとってはファンクラブは地獄であるのと同時に、
それでもそこに入会したことにより、
彼女と接する時間が増え、
また彼女との距離が近くなったことは、天国であったという。
それも真実である、と彼は熱弁した。
延々とファンクラブについて熱を持って語る彼を余所目にし、
ワタシは心のツッコミを入れる。
……でも、オマエはその当時、学生や無職ではなく、
医者をやってたんだろうに!
ワタシは門外漢だから実際のところは分からないが、
それでも医者の仕事ってのは、
片手間で出来るようなものではなく。
だから、毎日毎日地獄だと思えるくらい、
ファンクラブ活動に精を出すことなんて、
出来ないだろうに――!
他人の話を聴く上で、
それにツッコミを入れられるようになったのは、
それだけ心のうちに余裕が出来たということかもしれない。
もっとも、この業界にいること早幾年、今のワタシが、
この手のダラダラとした生ぬるいエピソードを語られても、
即、話を打ち切ってしまうが。
その時分のワタシは、
まだまだピュアだったということなのかもしれない。
ま、どうでもいい話だ。
何だか少し話がそれてしまったので、元に戻す。
しかしながら、彼の話が進むにつれ、
毎日ファンクラブ活動に参加したという話は、
まんざらウソでも誇張でもなく、
文字通りの意味だというのが分かった。
彼は自分の本業など放り出し、
毎日毎日ファンクラブ活動にのめり込んでいたようだ。
医者としての職責など関係ない。
病院のことなどお構いなしに、
毎日のように活動に参加していたとのことだ。
医者としての仕事と、
全くの遊びともいえるファンクラブ活動を天秤にし、
後者を選んでしまう風船男の脳内構造は、
常人には考えられぬことであるが、
それを傍目に嬉々として語る彼の顔に迷いはなかった。
献身的なまでの活動参加の甲斐あってか、
彼は組織の内で当初は日陰の存在だったのにも関わらず、
段々とクラブ内での地位と序列が上がって行った。
そして――。
所有者Y
「様々な出来事があって、入会して一年後には、
彼女の個人ファンクラブの会長になりました――」
彼は組織での地位を得た。
しかし、それに伴い失うものも多く――。
組織の地位を確固たるものとするのと比例し、
彼の社会的地位は格段に落ちて行った。
這い上がるよりも、落ちていくのは造作もなく、
簡単なことであったという……。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
人を育てるというか、
人に教えるのは自分でこなすよりも大変。
9/13 13時
>クライマックスが近づいてきた感じですかね。いいですねー。
風船男も別人のようになってキター。
クライマックスはまだまだもう少し、
待ってて下さいな。
多分、涙なくしては見れないものになる、と。
あ、それは言い過ぎですね(笑)
2004.09.14 火曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百六十九話−
ボク会長万歳っ!…の巻。
風船男の人生における転落過程については、
他人が聞いたら自業自得であると思われる部分と、
彼には止めようにもない不可抗力の部分が合わさったものであり、
その状況たるや、不幸は不幸だが、
完全なる不幸だと一方的に同情は出来ぬ程度の不幸だった。
要するに不幸は不幸だけれども、
不幸の一端を担っているオマエも悪いんだろ、といった具合に。
だけれども、とはいえ不幸には代わりないことも事実であり、
落ち行く様に同情を禁じえない部分もやはり多分にあった。
彼の転落人生についての真相は、
また後程、存分に語られることとなる――。
所有者Y
「……会長になるのも大変でしたが、
それになったらなったで、また大変なことばかりでした」
ファンクラブ会長時の自分の姿を語る彼の眼には、
ねっとりとした熱さを帯び、またうっとりと、
自身に対する陶酔も交じっていた。
……そうだ、ボクはカイチョーなんだ!
カイチョーだからエライんだ!
ボク会長万歳!
ボク会長万歳っ!
彼は言い訳がましく幾度も、会長になったのは、
占有者A子を射止めるという目的の為の過程に過ぎない。
――なんて、語っていたのだが、
実際、丁寧語で語られる話の節々に、
会長であったことを誇る意識の起伏が見え隠れしていた。
でも――。
ここでひとつ疑問が浮かび上がる。
純粋な疑問だ。
ワタシのような常人にとってみたら、
占有者A子みたいに、芸能人としてマイナーな女の子の、
個人ファンクラブ会長になるくらいだったら、
仮に浪人や留年を繰り返していたといえども、
彼が実際に就いていた医師という、
職業ジャンルに誇りを持った方が、
いいのではないのだろうか。
それに医師といっても、花形で目立つことこの上ない、
外科医をやっている。
ある意味、ブラックジャックだ。
少なくともワタシだったら、
外科医である点を十分にアピールし、
どうよ、俺様のショーバイは?
なんて言ってみたりしたい、そんな勢いだ。
しかし彼の態度や話の中に、
自分は外科医だということを誇る素振りすら見せない。
ファンクラブ会長の話は嬉々としてしているのに……。
それには何らかの理由があるのであろうか。
とにかく――。
風船男は占有者A子個人のファンクラブ会長になった。
その経緯には、自分の仕事を放り投げた、
彼自身の努力も大いに貢献したが、
それと同じくらい、時期的な要因もあったのだという……。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
ファンクラブの話、くどいぞー、と思う人多数でしょうが、
まあ、それなりに意味がある訳で。
9/14 1時
>偶然来て、一話から一気読み、さすがに疲れた
まあ、偶然とは何かの縁。
確かにこれを一気読みしたら疲れるだろうな、と。
ワタシもそう思いますです。
2004.09.15 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百七十話−
沈没船から逃げなかった風船男…の巻。
所有者Yがファンクラブの会長になった、時期的な要因――。
それは、彼女の所属するアイドルグループの、
人気の下落に大きく依存する。
元々、そのグループの知名度といえば、
ワタシが微かに名前を知っている程度であり、
とてもではないが、
世間的に知れ渡っているというものではなかった。
占有者A子に至っては、
彼女の名前を知っていると言えるのは、
アイドル好きだと自認出来る人間以外、
彼女の親戚縁者と友人くらいなものであろう。
だが、捨てる神あれば拾う神あり。
一般社会での認知度は低かったものの、
彼女達のグループに金をぶち込むファンの数は、
意外と多かった。
そのアイドルグループは狭い世界の中では、知る人ぞ知る、
というより、知っていて当たり前だ、という存在だったという。
しかし、何事にも流行廃りがある。
彼女達の特定男子による、ちょっとしたカルト人気も、
年月の経過とともに廃れて行き――。
中でも彼女達のリーダー的存在であった、
グループのエースの結婚脱退により、
人気の下落は加速度的に激しくなった。
ああ、拾う神あれば捨てる神あり。
逆もまた真実なり、といったところだ。
地震を予知し、集団で逃げるネズミのように、
アイドルグループから離れ行くファンの群れ。
それでも、風船男は沈没船の如き、
アイドルグループのファンを辞めることなく、
占有者A子への一方的な愛を深めて行くのであった。
所有者Y
「……状況としていえば、
特にそのグループなんかどうでも良かったのです。
そこが人気があろうがなかろうが。
ボクとしては彼女を愛していた。
ただそれだけですから――」
そう語る風船男。
彼の額からは絶え間なく汗が流れ、落ちて行くが、
汗の流れる先は妙に自信ありげな口元があった。
人気下落し、廃れ行くアイドルグループ。
しかしその状況は彼にとって追い風となる。
彼女達のファンクラブ活動にのめり込む人間など、
彼の他には数える程しかいなくなってしまったのだ。
これまで彼の前に立ちはだかり、イジメを受けていたという、
人間も他のアイドルの元へと去って行った。
彼はこうも言った。
所有者Y
「……結局、アイツらは駄目なヤツらなんですよ。
言うなれば、屑の根性なしです。
ま、ボクとしては清々した、といったところですが」
嘲りを含んだ笑みで彼は言い切った。
目の上のタンコブとも言える輩がいなくなったのだ。
最早、組織内で彼の敵となる人物はいなかった。
ファンクラブでは一、二を争う程の発言力を持つに至った。
その彼が占有者A子の個人ファンクラブを結成したのは、
当然の成り行きともいえよう。
大体、彼からしてみたら、
占有者A子のみを愛の対象としているのであり、
グループ自体には興味がなかったのだから……。
所有者Y
「ボクが彼女のファンクラブを作って。
そしたら急激に彼女はボクの近くに来たんですよ。
そうだなあ……。
彼女はボクのモノだ――。
それはすでに確信していたことなのですが、
その確信はボクの心の中で、
ますます堅固な確定となったのです」
彼のファンクラブ会長までのサクセスストーリーは、
かのようなものであった。
彼が会長になったのは分かった。
それでは具体的な彼女との係わり合いはどうだったのだろう。
ワタシが疑念を口にするまでもなく、
彼はそれについても語っていくのであった……。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
今日は涼しかった。
もう秋だなあ、と思う次第だったり。
9/14 1時
>くどくても良いですが、毎回最後の所で
>次回に期待を持たせる終わり方をするともっと良いのかも。
毎回毎回、次回へのひきはやってるんですがね。
最近はそれが弱いかなー、と思う次第。
2004.09.18 土曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二百七十一話−
ボクと彼女は相思相愛だから…の巻。
彼と彼女――。
所有者Yと占有者A子の話は、
彼女に対する盲目的なまでの愛を中心に語られている。
もっとも語り手が彼――所有者Yであるから、
彼女への想いが溢れるままに綴られているのは、
当然の帰結といえよう。
それだけ彼は彼女を愛していたのだ。
そして彼は彼女に近づくための手段として、
ファンクラブに入会し、会長にまでなった。
ファンクラブといっても商業ベースのそれではなく、
ただその対象を好きな人間が集まって出来た、
本来の意味の位置付けであるファンクラブであった。
人気の下降線が止まる事のないアイドルの、
その時期に就いたファンクラブにおける頂点の座。
落ちぶれ行くアイドルである彼女にとっても、
彼という存在は少なからず心強い存在であったことは、
容易に考えられる。
かくして外堀は埋められた。
後は内堀を越え、本丸へと攻め込むだけ――。
所有者Y
「……ボクは彼女に近づくために、
ファンクラブに入会しました。
それは何度もお話ししている通りです。
それで、入会後、ステップを上がっていくうちに、
ライブとかイベントとかで、
実際に彼女に会う機会が増えました。
会長になったら、彼女と会う回数は激増しました。
打ち合わせの機会とか多かったですしね。
彼女との時間を作るという点では、成功したといえます」
ワタシ
「はあ……。
じゃあ、そんな感じで付き合い始めた、と。
所有者Yさんの方から彼女にその思いを伝えた、
ということですね」
所有者Y
「いや、それは違います」
彼は身振りを加え、大げさに否定した。
なんかちょっと腹立たしい仕草だ。
所有者Y
「ボクからは、そんな想いを伝えませんよ」
間接的な行いには、
無用なまでの行動力を発揮していた彼であったが、
いざ直接的なアタックをするにあたって、
躊躇(ためら)いを覚えていたのだろうか……。
所有者Y
「ボクと彼女は相思相愛だから……。
そのような言葉は男から吐くものではありません」
妙に自信に満ちた表情で彼は宣言した。
やはり腹立たしい。
ワタシ
「はあ……。
それじゃあ、彼女から申し出みたいなものがあった、と。
そして、その頃からですか。
彼女とそーゆー関係になったのは」
風船男と占有者A子の話は、
ワタシにとって興味あるものであったが、
流石に長過ぎで、しかも濃い話である。
これでは話の消化不良を起こしてしまいそうだ。
ワタシはじりじりと続く彼の話を、
早回しさせるべく、結論を急がせた。
だがしかし、彼の方はといえば……。
ワタシの胃のもたれ的な思いを考慮することなく、
あくまでもマイペースに愛のメモリーを語り続ける。
所有者Y
「……そーゆー関係とは、どういう関係なのか、
分かりませんが。
まあ、男女の関係というのだったら、まだアレですね。
時期的に後の話なのですが……」
とにかく、男女の関係はまだだということだ。
彼はその辺りの話もするのだろうか……。
彼の話はどこまでも続く。
……続く。
<おまけ日記>
今日のひとこと。
今日から三連休。
近くで祭りがやっていました。
お囃子が聞こえて来ます。
9/16 13時
>でも本当に面白くなってきているのでこのまま行って下さい。
>かなり良い感じですよ。
面白ければそれはよかった、よかった。
そんな感じです。
9/16 14時
>ところで、Gさんのフ