2003.09.17 水曜日
対決!追い出し屋G 対
元アイドル!
−第一話− はじまりの話し。
人生には−、いいときもあれば悪いときもある。
明るく笑っていたいときもあれば、
独りで泣いていたいときもある。
喜びも楽しみも怒りも悲しみも苦しみも…、
様々な想いが複雑に何層にも積み重ねあって、
ひとつの人生が形成される。
誰のどんな人生であっても、その人その人の想いが込められ、
そしてそこにはドラマがある。
それが人生ってヤツよ−。
・・・・・・。
九月ももう半ば。
すっかり秋めいてきましたね、と言いつつも、
まだまだ暑いじゃねーか、このヤロウ!!
…などと、意味もなく暴力的な発言を繰り広げ、
無理矢理な感じでワイルドさを醸(かも)し出そうとし、
見事大失敗なワタシこと追い出し屋Gが、
誰にも呼ばれてもいないのに、ここに見参!!みたいな。
何が何だかどうでもいい、前フリにもなってない、
前フリをかましつつ…。
今回は、ワタシが初めて関わった占有者交渉の話をしよう。
ワタシが始めて関わった、占有者との交渉は、
「占有者退去交渉」というある意味、特異な仕事を行う上で、
知らなければならない要素がたくさん詰まったケースであった。
それ故に、これは占有者交渉の応用編というべきものであり、
まだ入社して間もない、というか入社後半月も経たない内に、
お前の担当だとばかりに任されたこの案件は、
その当時のワタシにとって、非常に荷の重いものであったことは、
最初から誰にともなく、独りごちておく。
ただ、この案件を最初に扱ったからこそ、
その後の追い出し屋Gがあるのかもしれない−。
それは暑い夏も終わり、残暑厳しい9月のことだった…。
都心にある、その築浅3LDKのマンションを競落したときの、
社内の反応といったら、それはそれは大騒ぎであった。
当時、ウチの会社が競売で落札する物件といったら、
小さく古い物件に、最低売却価格の少し上乗せで入れ、
これで取れたら儲けモノと言わんばかりの入札ばかりであった。
それが入札のすべてである、と言い切ってもいい。
だが、仲介業者から転職してきたワタシが入社したこともあり、
今まで家族経営でやってきた不動産部を更に盛り立てよう、
とでも思ったのか−。
ここは一発デッカイ花火を打ち上げようや、
と言わんばかりに、思い切って、ええい、どうだ!!
と入札したその築浅マンションが、落札したのだ。
社内での騒ぎようは、競売に多少でも関わる人だったら、
ご理解して頂けるだろう。
そう、初落札のときの、あの喜びだ。
ワタシは、まだ入社したての頃である。
実務の「じ」の字も知らない頃。
ただケーバイで落札するのって、こんなに嬉しいんだ、
と純粋な気持ちで思ったあの頃。
ああ、喜びを感じるまま、時間が止まればいいのに。
…だが、喜びも束の間、この後には、
占有者との長く厳しい戦いの日々が待ち受けているとは、
夢にも思わなかった−。
…続く。
<追記>
さあ、始まりました。
対決!占有者・セカンドシーズン。
さあ、どんな感じになるのか。
一体何回続くのか、それは神のみぞ知る、ってな感じで。
2003.09.18 木曜日
対決!追い出し屋G 対
元アイドル!
−第二話− 仲介の話し。
だいたい、入社したばかりの人間なんだぞ、俺は!!
ワタシの憤りたるや、紛々(ふんぷん)たるものであった。
ワタシはウチの会社に入社するまでに、仲介で働いていた。
仲介とは何か?
もしかしたら、これを読んでいる人のなかで、
そう思う人がいるかもしれない。
そんなアナタのためにジェントリーなワタシがご説明すると…、
仲介ってのは、簡単に言えば、不動産の営業のことだ。
右へ行っては、売主様の「オマエんところに任してやってるのに、
何で売れないんだ、このヤロー!」という有難い言葉に、
「オマエの腐れ家なんぞ、売れるかボケ!」
と言いたいところをグッと堪えて、
「ここは頑張って、価格を下げましょう!!」
などと笑顔で値こなし。
左へ行っては、買主様の「えーと、渋谷から歩いていけるところで、
四駆の入る4LDKの戸建。予算3000万で探して」
という有難い言葉に、
「オマエはひとりで何時代に生きてるんだ!?江戸時代か?単位は両か?
3000万で駐車スペースのついたマトモな家が買えるんだったら、
俺が買うわ、ボケ!!」
と言いたいところをグッと堪えて、
「それでしたら、八王子行きますか?都内で30坪ついて予算内ですよ。
そうでなかったら、都内でマンション探しましょうよ!」
などと笑顔で軌道修正。
顔で笑って心で泣いて、売主様と買主様のご機嫌を伺いつつ、
騙し騙しの営業で売る方買う方、橋渡しの役目を果たす。
−それが不動産仲介営業の生き様ってヤツよぉ。
ちなみに以前の職場で付き合いのあった売主業者のひとつが、
ワタシが入社した競売業者だ、という繋がりがあって、
何の因果か知らない間に転職、と相成った。
それがよかったのか、悪かったのか−。
ワタシはワリと運命論者なところがあるので、
それは成るように成る、というところか。
とにもかくにも−。
当時のワタシは、この世の憤りを一身に背負う様な感覚を味わった。
その憤りの理由となったのは、こんな経緯からだ…。
…続く。
2003.09.22 月曜日
対決!追い出し屋G 対
元アイドル!
−第三話− 憤(いきどお)りの話し。
ワタシは憤っていた。
その理由は−。
入社して間もなく落札できたその築浅マンション。
今までとは系統がいい意味で違ったマンションを落札できた、
という喜びも落ち着き、そういや落としただけでは商売にならない、
なんて当たり前のことを社長以下の社員が思い立った落札の次の日、
社長からこう言われたのだ。
社長
「追い出し屋Gくん。この物件、君が担当して」
正直、ハア?といった感じだった。
えー、担当も何も、つい先日入ったばっかりのこのワタシを捕まえて、
担当とか言われてもー。
即戦力たって、確かに不動産仲介はやってたけど、
ケーバイなんてやったことないし。
つーか、入社前に本を読んだっきりだし…。
まあ、そんな四の五言っても仕方が無い。
どんな業界でも一日入ったら、プロになりきらなければならない。
レストランのホール係がお客さんの注文をオーダーし忘れたとしても、
昨日入ったばかりでわからないんですー、
なんて言い訳が通用しないのと、同じことだ。
客からしてみれば、一日だろうが、百年やっていようが、
ホール係はホール係だ。
経験なんぞ関係ない。
そう思ったワタシは参考にするべく一冊の本を片手に、
落札後の占有者交渉を始めることにした。
その本の名は「プロが教える競売不動産の上手な入手法」。
何といっても「プロ」が教えてくれるのだ、
蛇の道は蛇、ってな言葉もあるし、
その道はその道に通じるプロが一番よい方法を知っているはずだ。
プロが言うとおりやってみようじゃないか。
よーし、やったるでえ!!!
人間、何事もポジィティブ・シンキングや!!
テンションが高いときはかなりのテンションを保って、
仕事に臨めるワタシであった。
まずは何すればいいのかなあ、っと。
えーと…(といいつつ、ページをペラペラとめくるワタシ)。
ここに物件明け渡しまでのケーススタディがあるな。
この通り、動いてみようか。
何々…(マーカーで赤線を引っ張るワタシ)。
売却許可決定(裁判所から売却の決定が降りる)一週間は、
執行抗告(簡単に言えば、裁判所に異議を訴えること)の期間で、
執行抗告がないことを祈りつつ、期間の経過を待つ、と。
なるほどねえ。
とりあえず裏を返せば、執行抗告の期間が過ぎるまでは、
神様やら仏様やらアラーの神にお祈りするくらいしかないってことだな。
んじゃあ、お百度参りでもしておくか。
その時のワタシは、まだまだ呑気(のんき)なものであった。
…続く。
<追記>
掲示板にも書いたのですが、今回の裏テーマは「じらし」です。
なかなか本題には入りません。
それが面白いんだか、面白くないんだかは、
読んでる人が判断してください。
あ、でも、マンネリ化になる?
それは、そうかも…。
2003.09.23 火曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第四話− 続・憤(いきどお)りの話し。
入社間もないワタシを捕まえて、オマエが担当だ、
と任命されてから早一週間。
本にある通り、執行抗告期間が過ぎるのを待っていた。
♪ふんふんふん。
と・り・あ・え・ずっ!
祈っておきましょ、執行抗告でませんよーに♪
でませんよーに♪
なんて鼻歌歌いながら、呑気に構えていたワタシであったが…。
そんな気さくに呑気な父さんぶりを発揮していたワタシに対し、
いきなりカウンターパンチが入ったのである。
それは、爽やかな朝のミーティングでの出来事。
社長
「オマエ、何やってるんだ!?もう一週間も経ってるじゃねーか!」
ワタシの顔を見るなり、我らが社長はワタシを怒鳴りつけた。
一週間経っている。
それは例のワタシが担当を任されていた案件のことだろう。
だが、ワタシは何もしなかったワケではなく…。
いきなりのカウンターにワタシは、それこそ、
冷や水をぶっ掛けられたジジイみたいな想いを禁じ得なかった。
ワタシ
「え、あ、あの…」
戸惑いながら、何とか言葉を発しようとするが、
なかなか上手いこと表現出来ないもどかしさ。
そんなワタシを尻目に、俺が正義だとばかりに、
とめどなく溢れる言葉をぶつける社長。
雇い主の怒りは収まらない。
そして、色々といい続けた挙句−。
社長
「オマエ、やる気あるのか!?」
非常なる怒り、ここに極まれり、と言った感か。
それに対して、ワタシ。
えー!?
俺ってば、この本にある通り、執行抗告の期間が過ぎてから、
占有者と本格的にアタックしようと思ってたのにぃ…。
ワタシ
「え、あのぉ、お言葉を返す様ですが、モノの本によりますと、
執行抗告期間が終わってから…」
ワタシの話しなど聞くに値しない、とばかりに言葉を遮る。
社長
「言い訳はいい!!早く片付けろ!!」
えー!?
そんな激怒されても…。
大体、早く片付けろって言われても、
俺は今までこんな仕事やったことないし、
別にやり方もわからんし…。
だから本を参考にして、問題解決に当たろうとしたのに…。
だが、そんなワタシの気持ちを理解するそぶりなど、
微塵もみせることなく−。
社長
「何、さっきから黙ってるんだ!早く動け!!」
顔を赤く上気させ、雇い主はそう言い放つばかりであった。
この時、ワタシが感じたのはただただ憤りだけであった。
まさしく、そんなこと言われても…の心境。
例えるなら、水に入ったことのない人間に、
100mのプールを泳ぎきれ!と言ってるのと同じことだぞ。
まずは顔に水をつけるところから始めるだろうに。
ただこの場で、そんなことを言ったら、どうなるか。
事態は、そりゃあもう如何なものかといわんばかりに悪化する、
誰がどう考えてもそんな状況になること確実だ。
とりあえず、そのときのワタシの想いを一言で表すのならば、
この言葉に尽きる−。
えー!?
…続く。
2003.09.24 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第五話− ポジティブ・シンキングの話し。
何故、ワタシが憤っていたか−。
簡単なことだ。
会社に無茶なことを言われた。
ただそれだけのことだ。
ただそれだけのこととは言え、
ワタシにとっては非常に納得のいかないことであり、
もやもやと鬱蒼(うっそう)とした気分は、
晴れることなくワタシの心にまとわり付いていた。
なんか、単純にムカつくわぁ。
だが、しかし、だ。
こんなことを幾ら考えて、悶々(もんもん)としても仕方が無い。
何がどうであれ、この会社の社員である以上、
やれと言われたらやるしかない。
それをやらないとあくまでも拒否するのだったら、
会社を辞めるしか道はない。
でも、何の知恵も知識もスキルもない今の状態で、
はい、理不尽なんで会社辞めます。
不動産売買の営業マンに戻ります、というもの、
ある意味、シャクに触るのも事実だ。
そんな多少の理不尽で会社をすぐ辞めるなんて、
それこそ根性なしくんだろう。
ここは一つ踏ん張り時だ。
頑張るんだ!
空元気かどうかは分からないが、無理矢理やる気を振り絞る。
そんなワタシは霧中で、一筋の光を見出した様な気がした。
それは、ポジティブ・シンキングの光だった。
そうそう、人間悪いこともあればいい事もある。
次にあることはいい事でっしゃろ、旦那はん。
人間、何事も前向きでっせ。
そうそう、世の中、上手いこといかんから、
自分の思った通りいかんから、楽しいんやで。
右も左もわからんと、手探りで探しているからこそ、
人生楽しいって話ですわ。
最初から答えを知っていたら、なーんも楽しくないでっせ。
……。
どうやらワタシの中には物事の見方を左右する、
よく漫画でありがちな天使と悪魔の声が聞こえる代わりに、
ポジティブシンキングを信条とするエセ関西人がいるみたいだ。
時たま、彼はワタシの頭に直接、話し掛ける。
そして調子のいいことばかりを言う。
いいんだか、悪いんだか分からないが、
とりあえず今の今まで自分が生きていく上で、
彼という存在は非常に重要なポジションを占めているのは、
間違いない…。
−なんて書くと、怪電波垂れ流しのアヤシイ人間みたいだな。
まあ、実際もアヤシイんだけどな!!<自分
って、そんなこと偉そうに言って、どーするよ!!
どちらかといえば、怪しい人間より、妖しい人間になりたい、
今日この頃。そして二十七の秋。
もう、話が脱線に脱線を重ね、復旧作業に手間取りまくり。
話を元に戻して−。
何だか先程までと打って変わって、
全面的に鬱蒼とした気分が晴れたとまではいかないが、
今はもう、自分なりに仕事をこなそう、と思い立った。
ようし、早速、担当マンションに巣食う占有者を、
この手で追い出したるで!!
やったるでえええ!!!
妙にテンションが高いワタシであった。
…続く。
2003.09.26 金曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第六話− 占有者はいるか?の話し。
ようし、早速、担当マンションに巣食う占有者を、
この手で追い出したるで!!
やったるでえええ!!!
妙にテンションが高いワタシであった。
が…。
ハタと思いついた。
思いついてしまった。
だから、思いついたって言ってるんだよ!!
意味も無く、無駄にブチ切れ。
カルシウム不足が原因。
とりあえず、牛乳のんでおけー。
毎日五リットル。
そんなことはともかくとして。
−ワタシは何を思いついたのか?
それはこんなことだ。
もしかしたら…。
占有者なんて、もういないんじゃないか?
確かにこのマンションの競売入札に参加する前に、
現地調査として現地に赴き、電気メーターやらガスメーター、
ポストの中なんかをチェックした。
その時は、電気メーターはくるくると勢いよく回り、
ガスメーターも止められている気配は全くない。
ポストもちゃんと手紙やチラシが取られていて、
それらがゴミタメの様に溜まっていることはない。
つまりは、占有者がめちゃめちゃ居る気配満載だということ。
だが、しかし、だ。
自分がその立場になったとして考えよう。
もう競売になったことだし、フツーの感覚だったら、
こりゃあ住み続けることは出来ないだろ、って思うよな。
いやはや世間体も悪いだろうし…。
少なくとも、ワタシだったらそう思う。
だから、もう占有者は自ら退去したのではないだろうか?
なんだかその考えが正しいように思える。
というか、それが正しいだろ。
そうだ、もういないんだ。
それだったら、追い出しなんてやらなくていいんじゃん。
そうだ、そうだ!!
占有者など、いるわけないじゃん!!
そうだ、そうだ!!
…などと自分の中で自己完結。
競売の実務を多少積んだ、今となっては、
それが非常に甘過ぎる考えだと思えるが、
その時の自分にとっては、まさしくそれが自然の道理。
人間としての、当然の成り行きだ、と確信していた。
それは幻想であり、そんなものはすぐ壊れるとは知らずに…。
そんなこんなで、自分の都合のいい展開を頭の中で組み立て、
占有者などいないと断定的に思い込んだワタシは、
勢い勇んで社長に注進申し上げた。
ワタシ
「社長!もしかしたらもう占有者はいなんじゃないですかね?」
ワタシの話に社長は静かに一言。
社長
「なんでだ?」
社長の言葉に対し、ワタシは多少躊躇(ちゅうちょ)し、答えた。
ワタシ
「いえ・・・。なんとなく、人としてそうなんじゃないかと−」
社長
「・・・・・・」
上司と部下の間に一瞬の沈黙の時が流れる。
そして−。
社長
「バカ野郎!!オマエはバカか?どこの世界に何も確かめもせず、
いい加減なことを上司に報告するバカがいるんじゃ!!」
社長の怒りは雨あられとなってワタシに襲い掛かった。
怒号の中、覚えきれない位のあらゆる単語が飛び交う。
ワタシはたんまりと説教を食らわせられた。
そして、魅惑の説教ショーは小一時間続き、
やっとのことでそこから解放されたときには、
もう精神的にワタシはズタズタであった…。
ああ、ワタシの考えは甘かったのか…。
…続く。
2003.09.28 日曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第七話− 自己暗示の話し。
ああ、ワタシの考えは甘かったのか…。
ああ、無情。
ワタシは落ち込んでいた。
その落ち込み具合といったら、
それこそ、深度何万マイルもの暗く静かな海底にいるかと同じく。
ワタシは外見からはそう見えないかもしれないが、
割と精神的に脆弱(ぜいじゃく)なのだ。
怒られたり、なにか予期せぬハプニングがあると、
途端に自分の弱さを露呈してしまう。
その弱さはこの商売をやってしばらく経つ今でも、
なくなることは無かった。
それで追い出しなんてやっていけるのか、自分!?
と思うこともしばしばであるが、まあ、実際やっているのだから、
なんともはや仕方が無い。
落ち込むワタシ。
だけれども、ワタシはそのまま落ち込んでいてもいい、
などとそんなことが許される身分ではない。
貰うものが多いのか少ないのかは、また別の問題であるが、
会社から給料を貰っている、ということは事実だからだ。
会社は落ち込んで、黄昏(たそがれ)を気取っているヤツに、
金を払ういわれはない。
何でもいいから、早く、キリキリ働けや!!
別にそんなことを会社からダイレクトに言われてはいないが、
会社内にはそーゆーオーラが充満していることは否めない。
ああ、もう!!
ここは一気にテンションを変えていかんとな!!
ワタシは朝布団から起きるとき、エイ!とばかりに勢いをつけて、
立ち上がるが如く、エイ!という掛け声と共に、コブシを握った。
そして−。
頑張れ、自分!
負けるな、自分!
オマエがやらんで、誰がやるんだ!?
そうだ、そう!
この仕事はオマエにしか、出来んのだ!!
などと自分に自分でエールを送り、更に頑張っていくぞー!
と自己暗示を掛ける。
自己暗示というだけあって、自分で暗示を掛けられるので、
その点、ワケのわからないセミナーに通わなくてもいいところは、
利点なのかもしれない。
ワタシは自己暗示が掛けられなかったら、
多分、得体の知れない自己開発セミナーに通って、
今頃、新宿西口で手相を見せてください、
なんてセリフを言ってたかも…、なんて想像すると、
それはそれでそういう人生も面白いのかな、
と思ったり思わなかったり。
たったそれだけのことだけれども、
少し元気が出てきた様な気がしてきた。
ようし、やったるでええええ!!
テンションの変わり身の早さは、
ワタシの唯一の取り柄なのかもしれないな、と思うと、
それだけしか取り柄がないのか、と少々寂しくなる今日この頃。
…続く。
2003.10.01 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第八話− お宅訪問の話し。
自分で自分にマインドコントロール。
一時期、自分で自分を褒めてあげたい、
という言葉がむやみやたらに流行ったが、ま、それと同じ心境か。
人間何事も実行あるのみ!!
やる気を高めて頑張りまっしょい!!
さあ、テンションあがってきたぞー。
やるぞー、やるぞー、やるぞー。
修行するぞ、修行するぞ、修行するぞ。
シアワセですかー?
シアワセでーーーーーっす!!
って、
オウムの麻原彰晃と法の華三法行の福永法源が混ざってるじゃん。
そんな胡散(うさん)臭い、古臭い宗教ネタも交えつつ、
自分のテンションが上がってきたことを世間様に誇示してみる。
どうだ、この文章力!!
うわっはっはっは!!
……。
ああ、虚しい。
そんな方法でしか、自分のテンションの高さを
アピール出来ないのかと思うと、非常に自分に萎える。
でも−。
そんな自分が好き。
ああ、大好きさ。
大好きなんだー!(絶叫)
ってなんじゃそりゃ。
そんなこんなはともかくとして−。
まずやるべきことは、何は無くとも確認だ。
占有者がいるか、それともいないのか。
その確認をしなければ、次へのステップへ移行できない。
思い立ったが吉日というではないか。
ようし、占有者宅へいくぞ。
これから行っちゃうぞ。
実際にそこに占有者がいるかいないかはわからないけど、
抜き打ちでお宅訪問だ!!
って、お宅訪問と言えば…。
はいっ、宮尾すすむですっ!
ここには、占有者がいるのかもしれないんですねえ。
さあさ、今日はどんな社長さんがいるんでしょーかっ!!
はいっ!(手はあごにつけ、水平に)
「お宅訪問」というキーワードで、普通だったら、
「建もの探訪」渡辺篤志あたりのキャラをチョイスするところが、
宮尾すすむを連想したワタシの頭は、もう末期症状なのだろうか。
うーむ、人生って難しい。
そんな疑問を残しつつ、ワタシはそそくさと占有者宅へと向かった。
−そのマンションは、東京・港区の某テレビ局近くにある。
築年数は割と新しく、小さいながらも小奇麗なマンションであった。
目指す先は、このマンションの最上階、3LDKの部屋だ。
ワタシは門扉を潜り抜け、マンションのエントランスに入った。
しかし、侵入者をガードするが如く−。
目の前にはオートロックのガラス戸が立ちふさがる。
以前は珍しかったオートロックも、最近ではアパートやコーポですら、
それが導入されている。
いわんや、築浅のマンションをや。
高校以来ご無沙汰していた漢文の反語が頭の片隅で、
無駄に再生される。
とりあえず、何には入れないか。
中に入って、電気メーターやらガスメーターやら水道メーターやら
調べて、開栓されてるかどうか調べようと思ったのに。
入札する前の物件調査では、
たまたま中に入る宅急便のオヤジにぴったり付いていき、
難なく入り込むことが出来たが、
今日はしばし待っても、誰も出たり入ったりしない。
しゃーない。
オートロックの呼び鈴鳴らすか。
ワタシはオートロックの脇にちょこんとついている、
数字キーを号室の通りに押し、最後に呼び出しボタンを押した。
ぴんぽ〜ん。
…続く。
2003.10.06 月曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第九話− ピンポンダッシュの話し。
ぴんぽ〜ん。
オートロックに阻まれたワタシは、
コンソールの前で、チャイムの音を聞く。
擦(かす)れた呼び出し音だ。
その音色は何とも機械的で冷たく、寒々しい。
ふと、思った。
本当に。
本当に嫌な音だ。
ワタシは−。
ワタシは呼び出し音が嫌いだ。
それは小学生の、三年だか四年だかのことか−。
その当時、男の子の間で流行ったのが、
いたずら電話とピンポンダッシュであった。
まず、イタズラ電話−、略して「イタ電」は単純なものだ。
無作為に電話を掛けて、相手が出た途端にガチャと切る。
小学生の浅知恵でやることといったら、そんな程度だ。
イタ電の中でももっと応用を効かせた様な、
ピザ屋やそば屋に電話を掛けて、「ピザ10枚大急ぎで!」
とか、「ハアハア、今どんな格好しとるん?うへへへへ」
−などといったことは流石にやらなかった。
もっとも、そんなことを平気な顔してやる、
小学生時分の同級生はいたこともいたが…
ワタシはそこまでやれる、無駄な勇気はなかった。
またイタ電と双璧を成すピンポンダッシュとは、
読んで字の如く、行く先々のチャイムを鳴らし、
そしてダッシュで逃げていく、という遊びのことだ。
ただピンポンを押せばいい、というものでもない。
チャイムをより長く、もしくはより連射した方がエライのだ。
今思うと、何がどうエライのかワケがわからないが、
子供には子供なりの優劣の付け方があるのだろう。
とにかく、ピンポンを押せないヤツは臆病者であり、
押してもすぐ逃げるヤツは軟弱者であり、
高橋名人バリの16連射でチャイムを連打するヤツが、
子供の世界の勇者であったのだ。
そう勇者なのだ。
あの時のワタシは−。
ワタシは−。
勇者になりたかった。
ある日の放課後。
小学校の帰り道のことだ。
登下校を共にしていた友達が言った。
「俺、この前、5軒連続ピンポンダッシュしたんだぜぇ」
彼はさも得意げに、一試合4連続ホームランを打って、
お立ち台でヒーローインタビュウを受ける、
王貞治の様な顔をワタシに見せた。
彼は続ける。
「俺ってすごいだろー?勇気あるだろー?」
その言葉の裏に、オマエみたいな臆病な人間には、
決して真似できないだろ?
という真意をワタシは嗅ぎ付けた。
確かにワタシは臆病者だ。
小学生の頃から、いや、この世に生を受けた時から、
ワタシは臆病者であり、そしてそれは、
大人になった今でも変わらない。
だが、その時分のワタシはどうだったのか。
普段なら、そりゃそうだ、とでも言って会話をサラリと流す、
そんな温厚さを発揮するのだが、
その時のワタシは、いつもと異なっていた。
ワタシはむきになって友の言葉を否定する。
「な、な、なにいってるんだ!」
普段口にしない言葉が出た。
「ぼ、ボクだって。ボクだって、そんなことくらい出来るぞ!」
「へえー、出来るんだあ?」彼は言った。
少し意地悪そうな顔をしていたように思う。
「だったら、やってみなよ!」促す彼。
「え、お、おう!!やるよー!!今、やるよ!!」
言葉の弾みとは恐ろしいものである。
一旦、発した発言は取り消せない。
やらざるを得ないハメに陥る。
ワタシはピンポンダッシュ五連発を始めた。
その結果−。
ピンポンダッシュ実行二軒目で、
たまたま外出しようとしていたその家のオヤジにとっ捕まり−。
そして、シバかれた。
もっともそれは、人に迷惑を掛ける悪い行為であり、
とっ捕まって、シバキ倒されたのはまさに、自業自得、
という言葉がピタリと当てはまることである。
だが小学生の時のトラウマのひとつとなったのは事実だ。
誰が悪いのかといったら、そりゃあオマエだろ、
としか言いようのないことであるが−。
だが、それはワタシが呼び出し音が嫌いになった、
ひとつの理由である。
−ひとつの理由?
ここで疑問が生まれる人がいるかもしれない。
だったら、呼び出し音が嫌いな理由は他にもまだあるのか?
理由は他にもある。
その理由とは大学時代の出来事に起因するものであるが、
その件(くだり)を話出すと長くなるので、
また次の機会にでも−。
って、次にどんな機会があるんだ、というツッコミは無視する。
そんな妄想がワタシの頭の中に広がっていた。
それにしても−。
チャイムを鳴らした後、しばし佇(たたず)んで待ってみるが、
ウンともスンとも何も反応がない。
ワタシはもう一度、コンソールの呼び出しボタンを押した。
ぴんぽ〜ん。
やっぱり−
やっぱり嫌な音だ。
…続く。
2003.10.08 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十話− 占有者がいない証拠の話。
ぴんぽ〜ん。
やっぱり−
やっぱり嫌な音だ。
ワタシは再度、待った。
オートロックの厚い壁の前で、しばしの沈黙。
まだかー。
占有者が出てくる気配がない。
ということは…。
ワタシは、希望的観測のみで構成されている、
ドブねずみ色の脳細胞をフル回転させた。
考え中、考え中…。
……。
閃(ひらめ)いた!!
(この間、三十秒)
あたかも、アニメ一休さんがトンチを捻り出すときの、
木魚をポクポクと叩き、最後にチーンと鳴らすあのシーンの如く、
ワタシは何を閃いたのか−。
やっぱ、占有者はいない?
……。
流石(さすが)は、弾けている時は躁(そう)病フルスロットル、
ポジティブ・シンキングなワタシであった。
それにしても、本日は平日。
ただ今の時刻、午後三時。
こんな時間帯だ。
家に誰も帰ってきてなくても当たり前だろう。
大体、みんなが外出している家族の家に、誰かいるか?
いないだろ。
いたら、おかしいだろ。
もし仮にそんな家に誰かいたとしたら−。
そいつは立派な空き巣ヤロウだ。
だが、そんな小学生でも分かる当たり前の論理が、
その時のワタシには分かっていなかった。
それにしても、飛ぶクスリでも注射したのか、
ワタシのテンションは悪い意味でますます高くなってきた。
そうだ、この物件には誰もいなんだ!
そうだ、そうだ!!
ソーダ村の村長さんが−(以下略)。
一年中季節は春。
頭の中はお花畑なワタシは明瞭簡潔に、
独断と偏見のみで自分の都合の良い解釈をした。
もうこの域まで来ると、もはやビョーキと言えよう。
ワタシの妄想は留まることを知らないようだ。
そうと決まれば、話は簡単。
誰もいませんでしたー、と会社に報告するか。
ワタシは携帯電話を胸ポケットから取り出し、
会社の短縮ダイヤルを押そうとした。
あ、でも−。
ダイヤルボタンを押す手を止めた。
そういや、さっき怒られたのは、
ワタシが何の根拠も示すことなく、
占有者はないんじゃないか、と発言したからでなかったか。
それこそ、思いつきで。
ここで「占有者はいなさそうです」なんて、会社に報告したら−。
「じゃあ、証拠は?」「いや、ピンポン押して誰もいなかったもんで」
「……」「いないと思うんですけど」「・・・・・・」
「あれ、ワタシ。変なこといいました?」「・・・・・・」
その後は、怒号、怒号、怒号の雨あられ。
おおっと、危ない、危ない。
危うく自分で自分を陥れるところだったよ。
ワタシは右手で額の汗を拭い、溜め息を一つついた。
何か占有者はいない、もう退去したという証拠を見つけなければ…。
証拠、証拠っと。
あ、よく見たら、そこに管理員室があるじゃん。
<巡回中>と書かれた札がガラス戸に立掛けられているけど。
管理員さんに聞けば、分かるんじゃないか?
でも、今、巡回中か。
マンション内の掃除でもやってるんか?
んー、しょうがいないなあ。
ちょっと待ってみ…、あ、いた。
外から作業服を着た年配の男がエントランスに入ってきた。
胸には管理会社のネームが刺繍(ししゅう)されている。
この人が管理員であることは間違いなかろう。
まさか、管理員マニアということはあるまい。
早速声を掛けて、この管理員さんから、この部屋の住民は、
引越しされましたよ、なんていう言質(げんち)でも取っておくか。
どうやら、この時分になってもワタシは、
占有者がただ外出しているという可能性を微塵も見出していなかった。
…続く。
2003.10.12 日曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十一話− 肌の綺麗な管理員の話。
その管理員は、色白であった。
彼の肌はガラスの様に透き通っていた。
その肌の肌理(きめ)の細かさにしばし見とれていたワタシであったが、
いやいや、幾ら肌が綺麗だっていっても、
何でジーさんにうっとりしてるんだ、俺?
という至極もっともな疑問が沸いた。
それが若い女の子だったらまだ分かるがな。
ワタシは妄想を振り払うかの如く、頭を振った。
そんな妄想を抱くほど、ワタシはテンションの高さを維持することに、
疲れていたのかもしれない…。
とはいえ、仕事でやっている以上、疲れたなんていってるヒマはない。
さあさ、とっとと管理員に占有者について訊かなければ−。
ワタシの脇を通り過ぎようとした、管理員に声を掛けた。
ワタシ
「あのー」
管理員は急に声を掛けられて驚いたのか、少し甲高い声で、はい?
といい、ワタシの方に振り向いた。
彼は今までマンションの裏庭の枝木でも整えていたのか、
手に大きなハサミとバケツを抱えていた。
近くで見ると、彼の肌の肌理(きめ)細かさが益々分かる。
ワタシはまたもや、その肌に見とれそうになったが、
彼の「はい、なんでしょう?」と続く言葉で現実に引き戻された。
そうだ、じーさんに見とれているヒマなどない。
仕事をしなければ−。
ワタシはまず名刺を渡し、自分の立場について説明したあと、
管理員に占有者について訊いた。
ワタシ
「お忙しいところ、すいません。あの、このマンションに以前住んでた、
○○さんなんですけど。もう引っ越されていらっしゃらないですよね?」
ワタシは占有者が引越しをしてもういない、ということを前提に、
管理員に質問をした。
それに対する管理員の答えは、その時のワタシにとっては、
非常に意外なものであったが、ある意味当然と言えよう。
肌の綺麗な管理員
「いえ、住んでらっしゃいますよ」
ワタシ
「え、あ、あの。まだいるんですか?」
肌の綺麗な管理員
「まだいるもなにも、皆さん、いらっしゃいますよ」
ワタシ
「えっ?皆さん、いらっしゃる…?」
裁判所が作成した資料、「現況調査報告書」に記載されていた、
占有者についての陳述と所見について思い出す。
それには確か、自分が住んでいます、とだけ書いてあったが、
ひとりで住んでいるワケでなく、家族で住んでいるのか…?
占有者の名前は、○○子となっているので、
性別は女性であることは間違いないと思うのだが…。
ワタシ
「あの、皆さんというと、○○さんは女の人だと思うんですが、
その方の旦那さんとか、お子さんとかと住んでるってことです?」
肌の綺麗な管理員
「旦那さんはどうだか分かりませんが、お母さんと−、
小さい赤ちゃんがいますよ」
ワタシ
「小さい赤ちゃん…」
赤ちゃんは小さいから赤ちゃんなんだろ!
普段のワタシだったら、そんなツッコミを入れるところであるが、
今は占有者がまだこの部屋にいる、
しかも赤ちゃんとお母さんの少なくとも三人で住んでいる事実が分かり、
ワタシは少し愕然(がくぜん)とした。
赤ちゃん、追い出さないといけないのか。
いずれにせよ、彼女たちをここから出さなければ、
ウチの会社も仕事にならない。
赤ちゃんがいようがいまいが、その現実に変更は出来ないのだ。
でも、まあ−。
ワタシは裁判所の資料を更に思い返す。
この占有者は、実際にローン返済できなくなった所有者ではなく、
所有者から物件を借りている賃借人の模様だ。
金を返せない所有者じゃないんだから、
引越しするくらいの金はあるだろ…。
そう思うと、少し気が楽になった。
だが、そのちょっとした気楽さはすぐ跡形も無く崩れ落ちることなど、
今は知る由(よし)もなかった。
…続く。
2003.10.14 火曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十二話− ファーストコンタクトの話。
−夜、10時。
薄っすらとした灯(あか)りの下、ワタシは外に佇んでいた。
占有者の住む、マンションの前だ。
昼にこのマンションの管理員−非常に肌が綺麗だった−
と話をしたところ、占有者である彼女が帰ってくるのは、
自分がいる昼にはいつも見かけない。
帰宅するのは恐らく夜頃ではないか、という回答を得たので、
それならば、夜の10時に自宅に行けば、彼女と会えるのではないか。
確実に会えそうな時間帯に行こう。
そう思ったワタシは、意気込み勇んでこの時間に来たという訳だ。
それにしても−。
段々と夏の気配が消え、秋の足跡が聞こえてくる、
そんな季節の変わり目。
これから占有者と会うぞ、と紅潮したワタシの頬を、
初秋の風が擦(さす)る。
秋風が心もち、気持ちよい。
そのマンションは、小ぶりではあったが、
新築された時期から、まだ然程(さほど)経過していないこともあり、
重厚とは言えないが、割と品の良い顔をしていた。
都心という場所柄もあるのだろう。
変な顔のマンションでは、この場所に合わない。
場所がマンションの顔を作るといったところか。
ワタシはエントランスの重い扉を開き、
オートロックのコンソールの前に立った。
さあ、いくぞ−。
ワタシは今日の昼にも押したコンソールの呼び出しボタンを押した。
チャイムが鳴る。
押す前までは、気分を高揚させていたワタシであったが、
その機械的な音を聞いたとき、この場から逃げ出したい気分になった。
あたかもピンポンダッシュをした、小学生時代の頃のように。
「…はい」
コンソールの通話口から、語る声がした。
若い女性の声。
少し不安と不機嫌さが混じった声であった。
それはそうだろう。
普通に生活している人間にとって、
見ず知らずの夜中の訪問者ほど、迷惑なものはない。
しかも、肌の肌理(きめ)細かい管理員の話によると、
占有者は、本人のお母さん、子供の三人で住んでいて、
その子供は、まだ赤ちゃんということだ。
赤ちゃんのいる女世帯であるが故(ゆえ)、
夜の訪問者に更なる不審感を抱いているのも当然であろう。
−占有者は、いた。
その事実はワタシの心臓をバクバクと波打たせた。
その波打ち方たるや、尋常ではない。
不整脈を起こし、この場で息絶えそうな勢いだ。
どうせ不整脈を起こして死ぬのだったら、
冷たく暗い大理石の床張りの上でなく、暖かい布団の中、
腹上死でポックリ逝きたい。逝ってしまいたい…。
そのような、その場に似つかわしくない不謹慎な考えが、
ワタシの頭の中を駈けずり回っていた。
腹上死。
腹上死。
腹上死…。
腹上死……。
「…はい、なんですか?」
占有者である彼女は−便宜上、これから彼女を占有者A子と呼ぶ、
ワタシが緊張の余り、何も答えられずにいると、
ますます不機嫌そうな声で、そう言った。
用事があるならあるで、早く言え!
ないんだったら、とっとと帰れ!
その言葉の裏にはそういった真意が隠されていたのであろう。
だ、駄目だ。
何か喋らなくては駄目だ。
話をしなければ、そこで終わってしまう。
これから先の進展など全く望めない。
ワタシは緊張の余り、裏声の甲高い声で問い掛けに答えた。
ワタシ
「あ、あ、あの。ワタシ、ここを落札した。
落札したってのは、ケーバイなんですけど。
その会社の追い出し屋Gっつーのものでして…」
占有者A子
「……」
ワタシ
「あ、あの…。ウチはここを転売しようかと思ってるんですが、
それだとここに今、住んでいるとそんなことも出来ませんよね−」
ドモリが酷い。
こんな喋り方じゃ、ただの挙動不審者である。
だが、これでも当時の自分にとっては、一生懸命喋った方だ。
何とか言葉を出そう出そうと、必死になっていたワタシに対し、
占有者A子は一段と声を低くして言った。
占有者A子
「…あの、ワタシはその件に関しては全くわからないんで」
ワタシ
「いや、分からないって言われても−」
あなたは占有者なんですよ、とワタシがセンテンスを繋げる前に、
占有者A子は今までの静かな反応から一変し、
少し怒号が混じった声で一方的にこう言い放った。
占有者A子
「大体、アナタ、今何時だと思ってるんですか!?
常識を弁(わきま)えた時間じゃないですよ!!
早く帰ってください!!」
ガチャという音を最後に、コンソールから声は聞こえなくなった。
ワタシは試しにもう一度、そして二度、呼び出しボタンを押したが、
それっきり反応はなかった。
ワタシは、夜中の街を背中を丸め、帰って行くしかなかった。
無言のまま−。
これがワタシと占有者A子との初めての対面、
いや実際に会う事はなかったので、接触といった方が正しいか、
言うなればファーストコンタクトである。
そして、これから先の長い長い退去交渉のプロローグとなった。
本当の物語は、ここから始まる−。
…続く。
2003.10.15 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十三話− 鬱な翌日の話。
で−。
それで、そう言われて、帰ってきた訳なのか?
体が痺(しび)れる程、低く重い声であった。
占有者A子とのファーストコンタクトを終えた翌日の朝、
ワタシは社長に業務報告をしていた。
マホガニーのテーブル越しに、ワタシは社長と対座している。
いつものことながら緊張を禁じえない、ひと時だ。
しかも、ワタシの対面している相手はいつもに増して不機嫌そうだ。
贔屓(ひいき)の野球チームが、こっ酷くやられたからか?
はたまた、何か他の社員がヘマをしでかしたからか?
ワタシの緊張度合いはますます深まり、それに比例して、
胃がシンシンと痛み出す。
社長を目の前にして、ストレスと緊張の余り、
胃が痛くなるワタシ。
ストレスと緊張ばかりの社会人生活−。
そんな将来が待ち受けていることなど、
学生時代の自分は想像していただろうか。
高校の頃、ワタシはこう思っていた。
胃薬片手に会社に向かうオジサン達を斜(はす)に見つつ、
そこまでして何、働いちゃってるの?
ストレスで胃を壊して、それでも働いて。
バッカじゃねーの。
もっと自分の好きなように働けばいいじゃん。
俺だったら、そうする。
もっと自由になる!!
俺だったら、そうする…?
もっと自由になる…?
そうだ、その通りだ!
だから、今の俺など、社会人になった俺など、
俺は俺じゃない!
こんなのは偽者の俺だ!!
本来の俺じゃない!!
冷静なワタシは不安定なワタシに問いかける。
じゃあ、今のオマエは何なのだ?
今のオマエはオマエじゃないのか?
オマエはオマエじゃなければ、一体何者なのだ?
オマエはオマエだ。
他の何者でもなく、オマエはオマエだ。
仮に高校の頃、馬鹿にしていた大人たちと、
全く自分が同じ境遇に陥っていたとしても、
それはオマエが選んだ道なのだ。
言い訳はするな。
オマエはオマエなんだから−。
そうだ。
俺は俺なんだ−。
何だか分かったような、分からないような、ヘンな気分。
首を両手で掻(か)き毟(むし)りたくなる程、もどかしい。
ふと、我に返る。
ワタシの目の前には、社長が座っている。
そして不機嫌そうな顔を向け、昨日の報告をするべく促している。
それが現実、だ。
小さく溜め息をつき、そして−。
ワタシは昨日の占有者との顛末(てんまつ)を語り始めた。
占有者に関してですが、ワタシはいないと断定していたのですが、
昨日行ったら、あのマンションに占有者はいました。
占有者は若い女性で、なおかつ本人の母親と子供とで住んでます。
父親の存在ですが、どうでしょうか。
管理員に聞いても会った事はない、とのことで、不明です。
え、本人に確認したか、ですか?
いやはや本人にその点を確認するも何も、
夜遅く行ったからといって、彼女からこっぴどく怒られましたよ。
まあ、そりゃそうですよね。
子供−何でも赤ちゃんだそうです−のいる女世帯なのですから。
え、え、え?
何か進展はあったか、ですか?
えー、ですから、夜10時に行きまして、怒られまして−。
今、何時だと思ってるんだ!!
みたいなことを言われまして−。
そりゃ、そうで…。
緊張のせいか、丁寧語や尊敬語、謙譲語が入り混じり、
日本語がたどたどしい。
だが自分なりに一生懸命報告をしていたのであるが、
ウチの社長はそんなワタシの思いを知ってか知らぬか、
手を振り上げ、ワタシの言葉を遮(さえぎ)った。
もういい、もういい。
で−。
それで、そう言われて、帰ってきた訳なのか?
体が痺(しび)れる程、低く重い声であった。
ワタシが、小さく「はい」と答えるや否や−。
降り注ぐ、刺々(とげとげ)しい言葉の数々。
怒声と怒号は尽きぬこと無く、いつまでも続くのであった。
正直言って、この時の記憶はどうだろう。
ただただ下を向き、ボンヤリと聞いていたことだけ覚えている。
嫌なことは忘れる。
時間が経てば忘れる。
いや、そんなのウソだ。
ワタシは嫌なことを無理矢理忘れようとした。
時間が経つことを理由として、忘れようとした。
だが、簡単に忘れるワケがないじゃないか。
簡単に忘れるワケなど、ない。
…って、いつから鬱小説になったんだ、これ!?
…続く。
2003.10.16 木曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十四話− エセ関西人のオッサンの話。
昔からそうなのであるが−。
ワタシは落ち込むときは誰よりも深く落ち込む。
その落ち込み具合といったら、海よりも、マリアナ海溝よりも深い。
社長の怒声から解放された後、ワタシは予定も無く外へ飛び出し、
近くの公園のベンチに座っていた。
秋晴れの空の下、平日の昼間から公園にいると、
ますます自分が駄目な人間であるようからのように、痛感させられる。
ああ、疲れた…。
落ち込んでいた。
そして、落ち込んだ時、ワタシは無性になりたいものがある。
それは、モグラだ。
−ワタシは、モグラになりたい。
今すぐにでも地中に潜り込んでしまいたい、
近所の小学校の校庭に穴を掘って、モグラになりたい。
−モグラはいいぞぉ。
どこからともなく、知らない誰かがワタシの心に直接語り掛ける。
−モグラは穴掘ってりゃ、それでOKな訳だから。
そうだ、穴を掘る。
穴を掘って掘って掘りまくるのだ!
穴を掘って、そしてその先にある、誰かが去年撒いたコスモスの花−、
今ようやく花咲かん、その瞬間を見計らって、そいつを食い散らかすのだ。
花を食い散らかし、そしてその後に残るものは−。
無。
虚無。
何もない空間だ。
真っ白な空間で、ワタシは一人佇(たたず)み−。
そんな訳の分からない妄想染みた想いに、ワタシは支配される。
ユーウツだ。
とてもユーウツだ。
ああ、人として生きたくない。
社会より遠ざかりたい。
引きこもっていたい。
そうだ、引きこもりだ。
薄暗い部屋の片隅で、ひざ小僧を抱えつつ、
日がな一日体育座りをしていたい。
脳みそが溶けるくらい、何も考えず…。
段々とワタシの意識は、暗く深い闇の中へと、落ちて…。
ちょ、ちょ、ちょーーーーっと、待ちなはれー!!
ダンナはん、待ちなはれー!!
突然、劈(つんざ)く様な甲高い声が頭の中に響き渡る。
早まった考えはやめなはれー!!
ああ、また誰か知らない奴が直接語り掛けてくるよ。
妙にテンションが高いオッサンの声。
あ…。
だが−。
だが、だが、だーが、だーーーーーが、しかしっ!
アンタ、死んで花実が咲くものか、でっせええええ!
ってゆーか、死のうとかまでは思わないぞ。
流石(さすが)に。
それにしても、変なイントネーションだ。
関西弁を知らない人間が、話す関西弁チックな語り口。
悪意を持って、カリカライズされた関西人といったところか。
例えるなら「ナニワ金融道」と「ミナミの帝王」に出てくる関西人のそれ。
まったくもって、誤解と偏見極まりない。
こいつ…。
知らないヤツ、なんかじゃない。
お前か、忘れた頃にやって来る、エセ関西弁野郎か!!
そうそう、やっと思い出してくれはりましたかっ!
遅いでっせー!
ワテ、もうちょっとで眠ってしまうところでしたわ!!
いつもは眠っているのだろう。
だがワタシが極度に落ち込むと、この時とばかりに登場する、
謎のエセ関西弁使いのオッサン。
こいつはワタシに偉そうに説教するのだ。
インチキくさい、というか丸っきりインチキな関西弁を捲し立てる。
本当に腹立たしく、ムカつく、ワタシの脳内住人だ。
エライ言いようですな、ダンナはん!
ワテ、泣いてしまいまっせ!!
泣くんだったら、勝手に泣け。
オッサンの泣き姿など気持ちわるいわ。
ワテはダンナはんが、くらーーーい気分になってはるのを見て、
これじゃあ、いかん、と思って出てきたんや!
うーん、なんてダンナはん想いでっしゃっろ!!
結局、ワテが何言いたいか?
そりゃあ、死んで花実が咲くものか、でっせえええええ!!
このオッサン、「死んで花実が咲くものか」なんてフレーズが、
気に入ったのか、何度も繰り返している。
でも、確かにその通りだ。
別に流石(さすが)のワタシも死のうとは思っていないが、
気分は暗く落ち込んでいた。
それは死人同然の暗さだった。
こんなんじゃ、駄目だ。
死んで花実が咲くものか、か。
ワタシの脳内に住んでおきながら、宿り主よりも、
エラそうで、自意識も過剰そうだし、
とにもかくにも人を腹立たせるのに十分なインチキ関西弁は、
とても耳障りだ。
だが、奴のお陰でワタシは、今ここにこうやっていることが
出来ているのかもしれない−。
ダンナはんも、ようやくワテの偉大さが分かったちゅーことやね。
ほうほう、その通りでっせ!
死んで花実が咲くものか。
死んだら、花見で酒も呑めまへんわ!!
わははははははははっ!!!
自分では凄い上手いことを言ったつもりなのか、
ガラスを爪で引っかく様な満足気な笑いを余韻にし、
ワタシの頭から、エセ大阪人の幻影は消えた。
ベンチに座っていたワタシは、大きくひとつ背伸ばしをする。
全身が伸び、気持ちいい。
さて。
これからどうしようか。
とりあえず、占有者に手紙送るか−。
ワタシはもうひとつ背伸ばしをし、会社への帰路についた。
…続く。
2003.10.17 金曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十五話− はじめてのお手紙の話。
拝啓。
枯葉舞う季節になりましたね。
お風邪を召されることなく、お元気でしょうか。
ワタシはといえば、季節の変わり目にすっかり体が順応せず、
あまり体調は思わしくありません。
せっかくのお手紙なのに、辛気(しんき)臭いお話しになってしまい、
申し訳ありません。
それにしても、秋という季節は何故こんなにも儚(はかな)く、
切ない気分になるのでしょうか。
ワタシの心もそこはかとなくメランコリックで、なんとなくクリスタル。
ああ、切ないです。
貴方を想うと夜も眠れず−。
おかげで日中が眠くなる始末。
ああ−。
貴方と会えない日々を送る今、ワタシの心は張り裂けんばかりです。
貴方と会いたい。
貴方と会いたい。
貴方と会いたい。
遥(はる)か時空を越え、ワタシはロミオとなる。
もちろん、ジュリエットは貴方だ。
シェークスピアの一代ロマン。
ワタシたちは悲劇の主人公となる。
ああ、ワタシは貴方にどのようにこの高鳴る想いを伝えれば、
貴方に想いを託せばいいのでしょうか。
貴方に会いたい。
そして−。
ワタシは貴方に思いの丈を、こう伝えたい。
まだ見ぬ貴方にこう伝えたい。
貴方は−。
いつマンション明け渡してくれるんだ?
−違う、違う!!
ワタシは今、自筆で手紙を書いている。
ワープロは人並みに使いこなせるが、やはり手紙を書くからには、
手書きで書いた方が説得力があるのではないか。
そう思ったワタシは、普段書きなれていない万年筆を用い、
手紙を書いている、といった次第だ。
…ミミズののたくるような字を連ねた手紙を、
両手で丸め、くず入れに投げ捨てた。
こんなネタみたいな手紙書いてどうするんだ!?
いやまあ、面白いことは面白いが、こんな手紙を送ったことが、
ウチの社長にバレた日にゃ、どんな責め苦があるってものか。
想像するだに怖ろしい…。
でも、その反面どんな責め苦が待ってるのか、
ちょっと知りたいと思う、自分がいたりして。
いかん、いかん。
無駄な冒険心は捨てるんだ、追い出し屋G!!
どうせすぐヘコむクセに…。
再びワタシは占有者A子に宛てた手紙を、どうしようか、考えた。
そうだ、こんなのはどうだ?
再びワタシは筆を進めた。
拝啓。
あー、あー。ピイイイガアアアアア(ハウリングの音)
あー、あー。占有者に告ぐ、占有者に告ぐ!
君たちは完全に包囲されている!
無駄な抵抗は止めて、早く出てきなさい!!
田舎のお母さんも今の状況を見て悲しんでるぞ!!
いいか。
実は今、オマエのおフクロさんがここにいる。
今、おフクロさんに代わるから、速やかに出てきなさい!!
「ひろしぃぃぃ!!ひろしぃぃぃ!!オマエ、何やってるんだい!
アタシは今までそんな子に育てたつもりはないよっ!!
早く迷惑掛けずに、抵抗しないで出てきなさい!!!
ひろしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
♪かあさぁぁんがぁぁ 夜なべぇーをしてぇ
手ぶくーろぉ 編んでぇえくれたぁぁぁぁ(涙声)
おフクロさんも悲しんでるぞ!
オマエが、少しでも、そう少しでも人の心を持っているというのなら、
もうおフクロさんを悲しませることは止めろ!!
そして、早く出て来い!!
…って。
ひろしって、誰だよ!!
あああああ!!
ワタシはまた、途中まで書いた手紙を丸めてポイっと投げ捨てた。
ネタばかり書いてどうするんだ!?
大体占有者は女だし。
現実は、占有者の母親も一緒になって占有しているみたいだし。
手紙を読むだろう、占有者の気を惹くべく、
目新しいものを書こうとするから、ネタっぽい文章になってしまうんだ。
普通に、自然に、さりげない文章で、淡々と現実を書くんだ。
そう、マンションを明け渡さなければならない、という現実。
さすれば、必ず相手からの反応はある。
もし、手紙書いて相手からのリアクションがなければ−。
その時はまた、真夜中のお宅訪問だ。
ワタシは占有者への手紙を一文字一文字を力強く、したためていった。
淡々と事実を書き記していくワタシであった。
…続く。
2003.10.20 月曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十六話− 占有者へのお手紙の話。
占有者への手紙を書く。
拝啓からはじまる、畏(かしこ)まった文章なんて作らない。
相手に阿(おもね)った作文などしない。
ただただ事実に基づいたことだけを淡々と書く。
たんたんたんたんたんたんたんたん…。
事実を書き連ねる。
それじゃ、裁判所の資料を基にして、っと。
それらによると彼女の占有権原は概(おおむ)ね、以下の通りだ。
占有者が下記の通り賃借し、住居として使用している。
占有開始時期: 平成×年×月×日
契約期間・賃料・敷金等 不明
これに関する、執行官の意見は次の通りだ。
現況調査報告書の該当箇所をそのまま転載する。
本件建物は、在宅していた占有者A子の陳述、
ライフライン調査の結果、住民票写しの記載、
現場の状況等から占有者A子が占有しているものと認定したが、
同人及び賃貸人である所有者Yのどちらからも、
占有権原等に関する照会に対する回答が、
期限までに提出されないので、月額賃料、敷金の有無、
契約期間等を明らかにすることは出来ない。
立ち入り調査の際にも本件建物の賃貸借契約の内容について、
占有者A子に尋ねたが、賃貸人の氏名は答えたものの、
口頭での契約だというのみで賃料や契約期間等については、
答えなかった。
その後も再三、占有者A子に架電して聴取することを試みたが、
連絡が取れなかった。
契約当事者双方が明確な回答をしないことから、
占有者A子の主張する賃借権は、何らかの人的関係に基づく、
使用借もしくは債権回収目的の疑いなしとはいえず、
回答書を提出しないこと自体が、
非常な賃貸借の疑いを持たせるものである。
この文面は何を言いたいのか。
それは執行官が裁判官に対し、わかりやすく言えば−。
占有者A子は、なんかアヤシイっすよ、センパイ!!
こいつ、マンションの部屋、なまいきなことに、
ただで借りてるんじゃないっすか?
俺っちだって、金払って家借りてるってのにー。
だから、俺っちになーんも言えないんすよ!
やっぱ、アヤシイっすよ、センパイ!!
−といったところか。
ちなみに執行官とは、裁判所から権力を委託されている人間で、
占有者に関する物件調査、ライフライン調査といった現況調査や、
占有者を排除する強制執行等を職務としている。
但し、公務員ではなく、裁判所から給与は出ない為、
出来高歩合の営業マンみたいなもんだ。
だから、買受人に対し、過剰なまでの押し付けがましい、
あからさまな商売をするのだが、
それはまた、別の機会にでも話をしよう。
彼ら執行官の意見を踏まえて、
裁判官は物件明細書という資料の中で、
執行裁判所の一応の見解を述べている。
「占有者の占有権原は使用借権である」
簡単に言えば、ただ借りしている、ということだ。
賃貸借でもなんでもない。
よって、引渡命令をガツンと出してやってもいいよ、
といったところだ。
またもや余談であるが、裁判所の見解ではなく、
裁判所の「一応」の見解とするのがミソである。
「一応」と前フリを入れることによって、
裁判所ならびに裁判官は、
揉め事から逃げることが出来るのだ。
えー、ボクちん、そんなこと言ったかもしれないけど、
でもイチオウって言ったじゃん。
イチオウはイチオウなんだよ。
絶対って言ってないじゃん。
だから、知らないよ、そんなこと!!
そんなことふたりで勝手にやってよ!!
ボクちんを巻き込まないでよっ!!
…こんな言い訳、社会で通用するワケがないのだが、
裁判所では通じちゃってるみたいである。
仮に、ワタシがお客さんに不動産のことを聞かれて、
えー、一応こんな感じだと思いますー、なんて答えた日にゃ、
信用や信頼など即刻、ゼロに向かって急降下だろう。
でも、社会の規範たる裁判所にはそんな無責任な見解が、
まかり通っているのだ。
裁判所の常識は、世間の非常識といえよう。
非常に不思議なことだ。
とにもかくにも、ワタシは「一応」とはいえ、
裁判所の見解を下敷きにし、手紙を書き連ねていった。
あー、要はアナタ様はタダで借りてる占有者であり、
ウチの会社が所有権を移したら、当然、タダで貸すなんて、
芸当はしないわけで…。
だから、出てってください。
出て行ってくれないと、泣くし。
そりゃあもう、ワンワンと。
そんな感じのことをつらつらと書き綴る。
まあ、こんな感じでいいか。
占有者へ送る手紙作成の時間を費やすこと、三時間。
ワタシはやっとのことで出来上がった手紙を封筒にいれ、
ポストへ投函した。
−結果として、この手紙により、事態は進展した。
しかし事態の進展は、またもやワタシに苦難をもたらすことになる。
手紙を送った三日後−。
私の元に一本の電話が掛かってきた。
…続く。
2003.10.23 木曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十七話− 電話の主は…の話。
その日は、一本の電話から始まったといっても過言ではない。
爽やかな朝のひと時を、引き裂くかのように、電話が鳴った。
その電話に出た同僚は、はいはい、と電話の向こうに頷き、
そして、少しお待ちくださいと前置きした上で保留ボタンを押した。
おーい、追い出し屋Gくん。
あのマンションの件で、なんか、キミに用があるんだってさ。
ワタシは、彼女−そのマンションを占有している占有者A子から、
やっと連絡が来たか、と思い、電話に出る数秒のうちに、
何を喋るのか、その話の構成を反芻(はんすう)した。
ふふふっ、この追い出し屋G。
こう見えても、ちゃんと仕事のことを考えているんですぜ。
占有者A子に対する、話の持って行き方を自分なりに組み立て、
イメージトレーニングをしてたんだよ。
まさにこの日のために…。
今こそ、その成果を見せる時!!
この時を逃してなるものか。
電話に出るワタシ−。
ワタシ
「あー、もしもし。追い出し屋Gですが」
占有者A子
「あ、あ、あ、あのぉ。
この前、お手紙を貰ったので電話したのですが…」
震える声でおどおどと話だす占有者A子。
まあ、内容も今住んでいる家から出て行ってくれ、という話しだし、
彼女も声からしてまだまだ若そうだし、無理もないことか。
でもね−。
悪いんだが、ワタシは甘くはないんだよ。
そう、もうこの仕事をやろうと思ってから、
甘い人間ではなくなったのだ!!
そうだ!!
ガツンといってやるぞ、ガツンと!!
ワタシは無理矢理かもしれないが、自分は甘い人間ではない、
とテンションを上げ、言い放つ。
うおおおおおおおおおおおおおおお!
先制攻撃だ!
頭が痛くなる程、無駄にテンションをあげつつ、
ワタシは相手に直球ストレートを投げつける。
ワタシ
「電話を掛けて頂いて、早々なのですが−。
結論から言わせて貰います!」
さあ、出だしはOK!!
ここですかさずガツンと言ったれ!!
ワタシ
「いつ出て行ってくれるんだ!?」
おおーっと、直球を投げたったぞ。
やるな、追い出し屋G!
頑張った、追い出し屋G!
そうさ、追い出し屋Gはやる時はやるのさっ!!
何故か命令口調だが。
自分で自分を褒め上げつつ、まさにほめ殺し状態。
…って、自分で自分を殺してどうする!?
そんな無駄なツッコミをしつつ、ワタシは相手の回答を待つ。
さあさあさあさあ!!
さあ、どうでる占有者A子!?
占有者A子
「はい…」
それはそれは小さい声であるが、
電話の向こうでコクリと頷(うなず)いている姿が見えるようだ。
しばしの沈黙の後、彼女は続ける。
占有者A子
「…あの、出ます」
ワタシ
「…あ、え?」
直球に直球で返した占有者A子。
その時のワタシはさぞかし立派な間抜け面(づら)だろう。
占有者A子
「このマンションから、出ます」
…出る?
彼女、出るだって?
出るか?
そうか、出るか?
退出するか?
うひょー!
ワタシの目的はタダひとつ。
この占有者A子を退去させること!
その目的が今、達成されん。
おおっと、ちょっと喜びすぎだぞ、追い出し屋G!
出るたって−。
いや、出るし、五年後。
…なんぞと回し蹴り喰らわしたくなる答えなのかもしれんし。
それだったら、いつ出るよ?
何年何月何日何時何分何秒、地球が何回まわった時だよ!?
さあさあさあさあ、はっきりさせんかいっ!!
ワタシ
「えー、それでしたら、いつご退去して−」
ワタシの言葉が最後まで終わらないうちに、彼女は回答した。
占有者A子
「今日をいれて、一週間後には出ます」
うひょー。
マジかよ。
やったなあ、追い出し屋G!
これで目下のところの目の上のたんこぶが取れる、ってなもんだ。
あー、ちょっと待て、ちょっと待て。
冷静になれ、追い出し屋G。
ものの本によると、こーゆー時には金銭的要求がつきもの、
って書いてあったじゃないか。
要するに、立退き料ってヤツだな。
でも、金なんて払っていいのか。
ちょっとくらいなら払っていいんじゃないのかな。
そんなワタシの心の動きを知ってか知らぬか、
見えぬ彼女は少し笑ったようだ。
そして、一週間後に鍵をお渡しします、とだけ言った。
うおおおおおおおおおおおおおおお!
これで、これで本当にフィニッシュだ。
こうして、ワタシと占有者A子との退去交渉が終わる…。
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
完。
うーむ、完璧だ。
完璧なまでの占有者交渉だ。
完璧なまでのストーリーだ。
さあ、本番もこの調子で行こう!!
ワタシは掛かってきた電話を代わる前、
今までのトレーニングを頭の中で反復した。
その間、たった数秒。
ワタシの頭の脳細胞はフル回転。
恐らく何百万の脳細胞が一瞬にして亡くなる程の、
回転ぶりであったろう。
さあ、電話がワタシを待っている。
ワタシは保留ボタンを解除し、受話器を取った。
ワタシ
「あー、お電話代わりました。
追い出し屋Gですが−」
さあ、出ると、退去すると言うんだ、占有者A子!
イメージ通りの展開を念じるワタシを尻目に、
電話口で、彼女は、言った。
「あー、追い出し屋Gさんですか?」
彼女は−。
ごく普通にワタシに言葉を返した。
アナタが追い出し屋Gさんですか?
ただ、その様なことを言っただけだ。
だが、ワタシは−。
(゚Д゚)ハァ!?
思わず呆気に取られてしまった。
え、何故、何故…。
電話の主は、言葉を続ける。
「あれ、追い出し屋Gさんじゃないの?」
いや、ワタシはその通り、追い出し屋Gだけど−。
オマエの方こそ、一体誰だよ?
その電話の声は−。
占有者A子の、小さく弱々しい若い女の声ではなく−。
野太い中年男のダミ声であった…。
…続く。
2003.10.26 日曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十八話− 謎のコンサルタント登場の話。
「あれ、追い出し屋Gさんじゃないの?」
その電話の声は−。
占有者A子の、小さく弱々しい若い女の声ではなく−。
野太い中年男のダミ声であった…。
ってゆーか。
オマエ一体誰だよ!?
ワタシが今までイメージトレーニングで描いていた、
占有者A子退去までの栄光の軌跡がガラガラと音を立て崩れた。
手紙を読んだ占有者A子が自ら電話を掛けてきて、
ワタシからの問い掛けに従順に答えて、
しかも最後は「一週間以内に出ます」という言葉を、
占有者A子が自主的に言うという夢見がちなストーリーであったが、
まさか、その軌跡の大前提となる「占有者A子からの電話」ではなく、
全然知らないおっさんから電話が掛かってくるとは…。
ワタシは少し、いや思いっきり動揺しながら電話の主に応答した。
ワタシ
「あ、え、いや、追い出し屋Gはワタシですけれども…」
いつもに増してたどたどしい。
その動揺が相手にも伝わったのか、鼻で笑われた様な気がした。
謎の男
「そうですか…」
ふと、ワタシは思った。
もしや、こいつ、占有者A子にマンションを貸している所有者か?
所有者兼債務者である所有者Y。
こいつが賃貸人として占有者A子にこのマンションを貸している。
だったら、こういったストーリーが考えられるのではないか。
裁判所の資料からして、占有者A子と所有者Yとの間柄は、
知人だか知り合いだか親戚だか何だか分からないが、
通常の賃貸人・賃借人の関係ではない。
しかるに、ワタシからの手紙を読んだ占有者A子は、
すぐさま所有者Yに連絡をし、自ら電話を掛けるのは怖いから、
所有者から退去する旨を伝えてくれないか、
そんな依頼をされた所有者Yはワタシに電話を掛けてきて…。
うーむ、これだったら、つじつまが合うぞ。
んじゃあ、電話の主は所有者Yだということだな。
それだったら、こちらは動揺する必要はないぞ。
デーンと大きく構えて、相手の「出ます」宣言を聞いてればいいのだ。
ふふふっ。
ここはデーンと…。
どこまでも楽天的というか、自己中心主義な考え方だ。
謎の男
「あー、私はね、A子さんからこの件について、頼まれた−」
はいよ。
所有者Yだろ?
デーンと構えて…。
謎の男
「コンサルタント会社のマスウラといいます」
……!!
って、所有者Yじゃないのかよ!
何だよ、コンサルタント会社って。
誰だよ、マスウラって。
マスウラが何の用で、このワタシに電話を?
占有者A子から頼まれたって言ってたな。
何を頼まれたって言うんだ!?
あれか。
出るって事を、本人が言う代わりに、所有者Yが言う代わりに、
このマスウラが「出ます」っていうのか?
そうか、そういうワケか!?
動揺と期待が交錯するワタシに、自称コンサルタント・マスウラは、
ワタシにこう告げた。
マスウラ
「あー、追い出し屋Gさん。
なんかアナタ、ワタシの知り合いのA子さんに色々手紙出したり、
夜中に訪問したりして…」
マスウラのダミ声は、話すことによって、調子が上がってきたのか、
徐々に大きな声になっていく−。
マスウラ
「非常に迷惑なんですよ!」
な、なんだ?
この前置きは!?
早く、一週間以内に出ます、って言え!!
だが、その願いも虚しく−。
…続く。
2003.10.27 月曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第十九話− 電話での追い込み方の話。
マスウラ
「非常に迷惑なんですよ!」
マスウラは、言った。
あれ、占有者A子は一週間後に出ます、って何で言わないの?
こっちからそーゆー風にネタ降らないと、喋れないタイプ?
ダミ声のおっさんなのに、ワリと恥ずかしがり屋さん?
それじゃあ、仕方ないな。
こっちから方向性を出してやろうか…。
無駄に余裕があるところを自己演出しつつ、
ワタシはマスウラに言った。
自分ではズバッと端的にいったつもりだが、
相手にはどう伝わっただろうか。
ワタシ
「あのお…。それで、いつ出られるんです?」
マスウラはワタシの質問に答えることなく、
言ってることが分からないが、という枕詞を並べ−。
マスウラ
「非常に迷惑なんだって!」
追い討ちを掛けトドメを刺すべく、ダミ声をワタシにぶつけた。
え、え、え、違うの!?
出るって言うんじゃないの!?
ってゆーか。
今のところ、出る気なしかよっ!
その時のワタシの心臓といったら、
嵐で大時化(おおしけ)の荒ぶる日本海の様に、
それはそれは高く波打っていた。
ああ、このままじゃ、不整脈を起こし、心不全で死んでしまう。
別にいつ死んでもそれはそれで仕方ないが、どうせだったら、
腹上死したい。
腹上死。
腹上死。
腹上死…。
腹上死……。
ああ、まただ。
また腹上死で頭がいっぱいだ。
これもまた現実逃避の一種なんだろう、
と今のワタシならば冷静に判断出来るのだが、
経験乏しい、というか競売業界に飛び込んだばかりの、
混乱した頭では冷静沈着な判断など、出来るワケなく…。
ただただ相手の言い分の聞き役になっていた。
ワタシ
「あの、別にワタシは迷惑を掛けるつもりはなく−」
マスウラ
「あんな脅迫的な手紙を出したり、夜に押し掛けたり、
迷惑極まりない!!」
ワタシ
「ですから、迷惑といいますか、こちらの方こそ、
連絡を取っているにも関わらず、何の連絡もなく−」
マスウラ
「連絡がない!?今、ここにこうやって電話しているのは、
連絡じゃないの!?違う?」
ワタシが何を言ってもマスウラのダミ声が覆い被さる。
そんな状態。
昔の言葉でいうと、暖簾(のれん)に腕押し、といったところか。
ちょっと教養を見せちゃったかもしれないが。
相手は、ワタシがまだまだ素人の若造だと判断したのだろう、
段々と小バカにした口調になってきた。
それが声だけで、あからさまに分かる。
バカと小バカでは、小がついてる分、バカ度は低いと思うが、
だが、「バカ」にされるより「小バカ」にされる方が、
何だか腹立たしく向かっ腹が立ってくるのは何でだろう。
これぞ、人類の七不思議。
で、あと六つは何?なんぞというのは、無粋というもので。
それにしても−。
舐められている?
ああ、舐められてるよ、ワタシ。
舐められまくってるよ、ワタシ。
もうヨダレ、ダラダラだよ。
相手に舐められているせいもあってか、
ワタシの額にはダラーっと嫌な汗が垂れた。
秋だって言うのに。
部屋には暖房もつけていないって言うのに。
そんな状況を知ってか知らぬか、マスウラはワタシに言う。
ああ、今の電話はすべてマスウラのリードのままだ。
ワタシの、ワタシの今までのイメージトレーニングは一体…。
マスウラ
「それで、アナタの行動が迷惑だってのは、わかったよな」
ワタシの嘆きなど、露(つゆ)知らず、マスウラはワタシを追い込む。
まるで電話での追い込み方というのは、こういう風にやるんだよ、
と言わんばかりに…。
マスウラ
「それで、だ。本題はここからなんだが…」
常にマスウラが会話のリードを取り続ける。
だが、ワタシには何もなすすべが無かった。
…続く。
2003.10.28 火曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二十話− 本題はこれからだ!の話。
マスウラ
「それで、だ。本題はここからなんだが…」
常にワタシに対してリードを取るマスウラ。
俺こそ、真のお昼のリーダーと言わんばかりの、その態度は、
段々とふてぶてしさを増していき、終いには、
ワタシに対する口の利き方が非常にぞんざいなものとなった。
大体−。
今までの迷惑だの何だのっていうのは前置きだったのかよっ!
前置きで、カマされたのかっ、俺!?
咬ませ犬かよ、この俺はっ!!
朝っぱらから、いきなり咬ませ犬になった気分となる(何故?)。
ってゆーか、俺はオマエの咬ませ犬なんかじゃねーぞっ!!
俺は藤波の咬ませ犬なんかじゃねええ!!!
うおおおおおおお!!
ワタシの心には、熱く燃え滾(たぎ)るものがメラメラと…。
熱いぞ、このヤロー!!!
あくまでも心の中だけで熱くなっているが、
じゃあ実際にその熱い思いを表現しているかといったら、
そんなことは到底出来ていない、内弁慶でヘタレなワタシこと、
競売業界入社間もない、追い出し屋Gであった。
それで本題とは一体、何だ?
マスウラ
「本題とは、こういうことで−」
ダミ声の男は、エヘンとひとつ咳払いをし、
もったいぶったような喋り方をした。
マスウラ
「今、お宅が落札したっていうマンションに住んでる、A子さん。
彼女、今のマンションに住み続けたいと言っているんだよ」
(゚Д゚)ハァ!?
−このまま、住み続けたい!?
この期に及んで、このまま住み続けたい!?
そんなこと、電話でいきなり告白されても…。
その時、ワタシは今まで見たこともない、
見た目三十歳のサラリーマンに、何の脈絡もなく、
突然告白された女子中学生の気分になった。
ボ、ボクと…、つ、付き合ってください!
えっ、でも、アタシ、あなたのこと知らないし…。
大丈夫ですっ!!ボクはアナタのことを知ってますから。
ゲっ…。
ボクはアナタが小学生の頃から、アナタのことだけ見てきました!
(゚Д゚)ハァ!?
ってゆーか、一体何故????
まさしく、その手の心境。
そんなワタシの思いを知ってか知らぬか、
マスウラは相手の心の動きを全く意に介せず、
ただただ自分の言葉だけを並べ立てた。
マスウラ
「今まで通り、住み続けたいという希望をお宅に言いたい。
それが、A子さん。知り合いなんだけれどもね、
A子さんの希望なんだ」
ダミ声オヤジは、占有者A子との関係があくまでも、
「知り合い」であることを強調した。
それにしても−。
そのまま住み続けたいって、どーゆー了見してるんだ!?
さっきから黙って聞いてりゃ、好き勝手なこと言いやがって!
只今の腹立たしさ度数130パーセント。
腹立たしさメーターも振り切れるっちゅーのっ!!
マスウラ
「そうそう。何もタダってワケじゃないよ。当たり前だけど」
マスウラの言葉は続く−。
…って、早く出ろよ。
…続く。
2003.10.29 水曜日
対決!追い出し屋G 対 元アイドル!
−第二十一話− マスウラの無謀な提案の話。
マスウラからの電話は続く。
会話の主導権は常にマスウラが持ち、ワタシはといえば受身。
なんという体(てい)たらく。
だが、悲しいかな、それが自分の実力というものか。
大丈夫か、追い出し屋G!!
頑張れ、追い出し屋G!!
さあ、みんなで追い出し屋Gを応援しようっ!!
って、今更応援したところで、何か変化があるのかよ!?
なーんて、冷静にツッコミを入れる自分のいけずぅ。
ホンマ、ダンナはんったらぁ。
イヤですわぁ。
…って、どこの誰なんだ、オマエは!?
そんなどうでもいいことは放っておいて、話は続く。
声面からエラそうなマスウラは、文字通りエラそうに言った。
マスウラ
「そうそう。何もタダってワケじゃないよ。当たり前だけど」
ワタシ
「……はあ」
心の中は腹立たしさでいっぱいになっているのにも関わらず、
何も言えずに黙っているワタシ。
業務上、寡黙なワタシなんてのは、今となっては珍しいものだが、
その当時、交渉経験の少なさと度胸の足りなさ故の帰結であろう。
ただただ何もいえず、貝の様に口は堅く閉ざされたままであった。
業界的若輩者であるワタシに向かって、マスウラはますます、
調子に乗ってきたようだ。
マスウラは間髪入れずに、告げる。
おらおら、サクッと追い込んじゃうよ。
(≧∇≦)ぶぁっはっは!!
そんなマスウラの高笑いが聞こえてくるかの様だった。
マスウラ
「もちろん、所有者はお宅になるんだろうから、家賃は払う。
従前の賃貸借契約を引き継ぐという形で−」
ワタシは考えた。
脳、無駄にフル回転。
ウチの会社は転売業者だから、ケーバイで落とした物件を、
リフォームして売って、利益を稼ぐって商売だ。
マズは物件を空にしないと始まらない。
オーナーチェンジでも十分利回りを叩き出せるっていうんだったら、
それはそれで検討の余地アリって感じかもしれないが、
家賃を払うたって、アレだろ。
とてもじゃないけど、利回りで転がせる程の家賃は取ってないだろ。
あー、これはー。
これぐらいのマンションだから、少なく見積もって月々家賃30万円、
いやもっとあるか。家賃40万円はいくかなー。
それくらいの家賃は最低取ってるとして。
でも、管理費やら税金やら考えると利回り物件としてはどうだろ。
あんま旨味はないだろうな。
ワタシは心の中でソロバンを弾(はじ)く。
一応、ワタシの前職は不動産仲介営業マンなので、
最低限、利回りを算出する程度は出来るのだ。
賃貸は駄目だろ、フツーに考えて。
こんな無謀な提案は、駄目だ。
駄目だったら、断らなければ…。
ワタシは勇気を振り絞り−。
ワタシ
「…駄目ですよ、そんなの。賃貸なんて駄目です」
ワタシは震える声を抑え抑え、言う。
ワタシ
「だから、A子さんにはご退出して頂きたく−」
だが、マスウラの続く言葉はワタシから言葉を奪うこととなる。
そして、話す気力を壊滅的に失わせる程のものであった。
ワタシの震える声を掻(か)き消す様に−。
マスウラ
「え、何言ってるの?
だって、A子さんは正当なる賃借権者なんだよ!!
賃借人のいるってことは最初からわかっていたことでしょ!!
お宅はそれを承知で買ったワケだ!
だからA子さんには家賃を支払う限り、ここにいる権利がある!」
マスウラは、更に語気強く、更にダミ声を潰し、そう言い切った。
無駄に強い語調で、しかも少しキレ気味風味。
それですっかり萎縮してしまったワタシであった。
え、え、え…。
だって、賃借人の権利ってそんなこと言われても、
裁判所の物件明細書では、「買受人に対抗できない」とあったハズ。
だから、そんなこと言われるイワレはない!
・・・・・・ハズ。
確か、そんなハズ。
そんな感じだったよなあ…。
ワタシは、恐る恐る、言った。
ワタシ
「あのお…。
確か物件明細書では、今回のケースの占有者のA子さんには、
買受人に対抗できない。こうなっているんですが…」
そうだろ、マスウラ?
俺の言ってること、間違いじゃないよな?
オマエも知ってるよな、このこと?
間違いじゃないって、言 |