不動産競売必勝攻略法 追い出す人と追い出される人。
不動産競売の真実の姿とは――?
絶対に競売に関わらない人生を送る。
――あなたはそう断言できますか?

 




対決!追い出し屋G 対 抗告屋 編

好評連載中!


物件: 木造二階建 戸建

場所: 東京都下

家賃: 15万円

占有者: 老夫婦

占有認定: 賃借人



  BACK → 第一話から第三十話まで

 

2006.01.05 木曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十一話 「アイビールックのバラ男」



「でさあ、こっちが云いたいことはさ……」



ここは、渋谷の若者で賑わう、駅前のスターバックス。

今時、流行の禁煙席オンリーの外資系カフェだ。

丸く、背の高い椅子に座った、今時、時代錯誤な、

胸ポケットにバラを差し込んだ、アイビールックの男は、

自分はモリである、という簡単な挨拶をした後、

彼はすぐさま、切り出した。



モリ
「ハヤシバラさん、困っちゃってるんだよね。

あの、そちらの――。

ええと、ヒガシタニさんだったっけ?

すごい、しつこいって」



ワタシは、彼の顔を見据えていた。

モリは、甘党なのだろうか。

交渉時だと云うのに、

カフェモカのトールを手にしている。

もっとも、他人の趣向はどうでもいいし、

ワタシが手にしているのは、更に甘い、

キャラメルマキアートだ。

無意識の内に、

甘いコーヒー対決でもしているのだろうか、

ワタシは。



ワタシ
「しつこい、ですか――」



しつこい、と云われても、「はあ、そうですか」

と云った返ししか出来ないし、

する必要もないだろう。

謝る必然性は、ない。

こちらも仕事として、いやそれ以前に、

競売で落札したと云う大義名分があるのだ。

それに、第一、目の前の男は、

今回の事件に関係ない人間では、ないか。

ワタシは、甘いコーヒーを一口すすり、云った。



ワタシ
「あの、ワタシはアナタとお話しする前にですね。

アナタの素性が分かっていないと――。

本当にこの話をアナタにしていいものやら、

そう云った判断が出来兼ねるのですよ」


モリ
「――と、云うと?」


ワタシ
「本来だったら、アナタだけがここに来るのではなく、

今回の話の主体である、占有者のハヤシバラさん。

その当人がひとりで来るのが怖いから――。

まあ、理由はともあれ、ひとりではなく、

誰かを連れてくる――それだったら、

まだ分かるのですよ。

でも、今日は違う。

アナタはここにひとりで、来た」


モリ
「まあ、そうだな」


ワタシ
「それであれば、

アナタがそのハヤシバラさんと何らかの関係がある、

もしくは、今回のこの案件に関して、

利害関係があるといった形であるとか、

何らかの関連性があるということであれば、

話が分かるのですが。

その点をはっきりさせて置かなければ、

話を前に進めることは出来ない、

そう思いますが、ね――」



ワタシがそう云い切ると、

時代錯誤の男は、しばし、

胸元のバラを片手で弄(もてあそ)んでいたが、

ふいに「ふふふ……」と笑い出した。

怪訝(けげん)な顔をするワタシを尻目に、

彼の他人を小馬鹿にしたような笑いは、

一頻(ひとしき)り続いた。

笑いの発作を押さえ込もうとしたのだろうか。

アイビールックのバラ男は、

胸元のバラの花びらを触り触り、云うのだった。



モリ
「ごめん、ごめん。

キミがあまりにも先日の電話でコールした時と、

同じような云い分で、

こちらの話を邪魔するものでね」



別にそこまで笑える程、面白いことではなかろう。

彼は、大袈裟な手振りで右手を

ジャケットの内側に突っ込んだ。

そして、これまた大業な動作で、

一枚の紙切れを取り出したのだった……。



……続く。



<おまけ日記>

ご無沙汰過ぎですね。

ほんと、すいません。

先月の日記は結局、一回分しか書いてないですね。

メルマガも止まっちゃってるし。

今月は、んー、ほどほどに更新します。

それよりも、なにはともあれ、

あけまして、おめでとうございます!

それでは、お返事です。


12/28 0時
はよ更新してください。

続きがきになって夜も眠れません!

よろしくお願いします


ようやく、更新です。

気長に歌でも歌いながら、待っててください。

 

2006.01.23 月曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十二話 「ボクは正当な代理人だ!」



時代錯誤極まりない男――モリがワタシの前に

大げさな素振りで出したのは、委任状であった。

ワープロ打ちされた文面の最後、

委任者の欄にボールペンで書かれた、

ミミズがのたくったような文字が並ぶ。

目を細めてみると、どうやら、

ハヤシバラの氏名と住所が書いてあるようだった。

ついでに、余程、朱肉が乾いていたのだろうか、

林原の三文判がかすれて押されていた。

モリはその紙を片手でひらひらさせながら、云った。



モリ
「どうだい?

キミが散々偉そうに聞いていた、

ボクの身分についてだけれども、

これで明朗会計、さっぱりと証明された

と云うものではないかい?」


ワタシ
「……」



別にこんな程度のモノ、

アメリカ人みたいなオーバーリアクションで、

出す程のものではないだろうに……。

こいつは、フツーに人に示すことが出来ないのか。

フツーにさ。

全く、大したものではないのだから。

ワタシは彼の対応に少々呆れていると――。



モリ
「ふふん。

もう、ボクの正真正銘、誰も文句の付けようがない、

正当な代理人としての立場に、

流石のキミも、ぐうの音も出ないようだねえ?」



彼は自分にとって都合のいい風に解釈したのだった。

何故だか、彼はこの委任状をあたかも、

水戸黄門における印籠のように、

これを見せつけられた相手は、

絶対ひれ伏さなければならない効果があるように、

思っているようだった。



別にこのような委任状を見せられたからといって、

彼の立場が劇的に変わると云うものではないだろう。

あくまでも彼がハヤシバラとつるんでいる、

と云うことを相手に伝える役目しかない。

第一、正当な代理人と云ったって、

彼の立場自体、正当でもなんでもない。

ただ、占有者にまとわりついて、

食い散らかそうとしている輩ではないか――。



結果として、モリに食いつかれたハヤシバラは、

時代錯誤の男について、

彼の真の姿を知ることによって、

この時のワタシ自身も想像が付かない、

思いがけぬ事態を迎えることになるのだが――

それはまだ、後の話だ。



ワタシは、呆れる声を抑えることなく、モリに云った。



ワタシ
「まあ、アナタがハヤシバラさんから、

依頼を受けたと云うことだけは分かりました。

だけど、代理人と云ったって、

法的に認められた代理人ではなく、

ハヤシバラさんの意思を伝えに来た、

ただそれだけの人、と云う風に認識しておきます」



モリのこれまでの発言からして、

彼が正当な代理人資格である弁護士だ、

と云うことはまず、あり得ないだろう。

大体にして、この手の自己顕示欲が強い人間だったら、

もし弁護士資格を持っていたら、

誰にも何も聞かれないうちに、自分の身分について、

べらべらと喋るだろうし、

通りすがりの人にも見せつけるように、

胸元には、一輪のバラの代わりに、金色に輝く、

弁護士バッチを付けている。

それは、間違いない。

しかし、モリはワタシの云った、

「ハヤシバラさんの意思を伝えに来た、

ただそれだけの人」と云う表現が、

いたく気に入らなかったようだ。

彼の表情はみるみるうちに、険しくなり、

暗く、陰険な色に染まった。



モリ
「何を云っているんだい?

ボクはキミに、云っただろう?

紛れもなく、まがい物ではない、正当な代理人だと。

それをキミは何を――。

いいかい、もう一度云ってやるから、

ちゃんと耳の穴をかっぽじって聞きなさいよ。

ボクは正当な代理人だ!!」


ワタシ
「……」



何だか、面倒な相手である……。



……続く。



<おまけ日記>

東京では大雪が降りましたね。

とは云え、雪国の人からしてみたら、

全く大したことのない、

せいぜい積雪10センチくらいのものだったのですが。

しかしながら、東京は雪に対しては、

もろいこと、この上ないものです。

交通機関が乱れに乱れ、慣れない雪で、

滑って転んで怪我をしてしまう人も多数だったり。

子供の頃は、楽しい想い出に包まれがちな、

雪だったりしますが、いざ大人になってみると、

実際ははた迷惑でしかないですね。

でも、迷惑だと思う一方、心の片隅では、

雪が降ると、何故だか胸が躍るような、

そんな感覚に捕らわれてしまったり――。

ううむ、恐るべきものだな、雪!!

それではお返事です。


1/23 4時
小説家になれるよ


いやあ、物書きは大変です。

趣味に抑えておいた方が無難ですね、はい。

 

2006.02.05 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十三話 「もう、いい!!」



バラを胸に差したアイビールックの男――モリ。

彼は良いように捉えれば情熱的な男なのだろうか。

悪くと云うか、普通に云えば、単純猪突男。

物事を真っ直ぐにしか見ることが出来ない。

存分に自意識過剰で、

自分が物事の中心にいないと気が済まない。

だから、自分の代理人と云う肩書きや立場を

大して重要視していないような態度を取った

ワタシに対して、彼は強い憤りを感じたのだろう。

その怒りは、ワタシが想像した以上のものだった。



モリ
「キミは本当に分かったのか?」


ワタシ
「……はあ、何をですか?」



面倒くさいこと、この上ない。

ワタシは興味なさそうに答えた。

それが火に油と云うか、揮発性の高い、

ハイオクガソリンを注ぐような結果となった。



モリ
「な、何をですか、じゃないだろ?

こちらの立場をだよ。

ボクの正当な代理人としての権利や立場、

そこら辺をきっちり理解して貰わなければ。

本当にキミは分かっているのかね?」



ワタシ
「……」


モリ
「え、何?

分かってないの?」


ワタシ
「……」



どこまで経っても、どこまで行っても、

偉そうな胸バラ男だ。

ワタシとしても、

ここまで偉そうに云われる筋合いはなく。

それ故、実際のところ、腹立たしさが増してきた。



ワタシ
「いえ、別にアナタが今回の当事者である、

ハヤシバラさんから委任状を貰ってきた、

その事実は分かりましたし、これを認めない、

と云っている訳じゃないですか。

大体、ワタシからしてみれば、

代理人の肩書きやら何やらって云うのは、

別に大した問題じゃないんですよ」



ワタシはそう云った。

――すると、彼は血相を変えて云い返してきた。



モリ
「な、何を云ってるんだ?

ハヤシバラを呼べ、いや、本人は来られない、

って時に、代理人がどうこうって云っていたのは、

アンタの方じゃないか。

だから、こちらはわざわざハヤシバラから、

委任状貰って来たって訳じゃないか。

それを、それを――。

アンタは無駄だって云うのか!?」



彼の顔は、胸のバラに負けじとも劣らない、

赤みを帯びていた。

彼の声は怒りに満ちており、

回りにいた女子高生のグループが

こちらを振り向く程であった。



――ああ、ここは渋谷。

一応、カフェだよ、カフェ。

それなのに、それなのに。

オレはこんな胸にバラ、

アイビールックの男と対面して、

一体、何をしているのだろう……。



女子高生のひとりと目が合ったワタシは、

少し現実世界に引き戻されたような気分に陥った。

そのようなワタシを見て、

多分、意識がすべて自分に向いていない。

そんなこともモリは感じとったのだろう。

ますます強い憤りの想いを得た彼は、

ついに、テーブルを両手でガンと叩き付けると、

彼は立ち上がった。



モリ
「もう、いい!!

ボクのことを認めない。

そんな人間とは、もう喋ることは出来ない!!」



そう云うと彼は、

胸に差していたバラをすっと取り出し、

ワタシの前に置いた。



モリ
「これは、キミへの餞別だ!!」



全くもって、面倒な人間である ……。



……続く。



<おまけ日記>

二月に入りました。

やはり寒さも本格的、といった感です。

この時期を越えれば、ようやく春がもうそこ。

目の前。

それまで頑張りましょう。


1/30 2時
更新頑張ってください


頑張ります。

暇な時にでも見てください。


1/30 22時
もうそろそr更新を・・・


更新してみました。

週一くらいのペースかなあ、と。

 

2006.02.25 土曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十四話 「分かり易い人間」



ジャケットの胸ポケットに差していた、

真っ赤なバラを餞別と称してワタシに差し出す。

ある種、芝居じみた大げさな行為。

それが何を意図しているのか、よく分からない。

正直云って、彼のファッションセンスや行動には、

理解しがたい部分が多い。

だが、事が”交渉”と云うジャンルに関して云えば、

彼ほど分かり易い人間はいない、とワタシは思った。

例えば――。

わざわざテーブルに両手を叩きつけるようにして、

勢いよく立ち上がったにも関わらず、

なかなか立ち去ろうとはしない。

その理由は、明らかに――。



彼は明らかに不満げな顔をし、その台詞もまた、

”憤懣(ふんまん)やるかたなし”

と云う感じであった。

普通、唾でも吐き捨てるように、

その手の言葉を捨て置いた後は、

後ろを振り向くことなく、

のしのしと大股歩きで立ち去るのが、

お約束であると思われるのだが――。

彼の場合、後ろを振り向くこともなかったが、

それ以前に、その場から動かないのだ。

これでは振り返る必要はない。

まるで舞台上で相手のセリフを待つ

役者のように、ワタシの方を向いたまま、

仁王立ちしていた。

その立ち方だが、ちょっとばかり、

モデルよろしくポージングを決めているところが、

何だか背中がかゆくなってくるくらい、腹立たしい。



モリ
「……」



彼はあからさまにワタシの出方を窺っているようだ。

ワタシはこちらを見る彼の視線から、

顔を背け、甘いコーヒーを口にしていた。

脂がギトギトしたくどい、

おっさんの顔を見ているより――

もっとも、回りでだべって無駄に時間を浪費している、

渋谷の高校生あたりからすれば、

ワタシも十分、脂っこいおっさんだろうが――

甘ったるいコーヒーを味わっていた方が、

どれだけ人生幸せかと云うものだ。



――彼は、立ち去らない。

いや、立ち去れないのだ。

彼は待っていた。

ワタシの言葉を、待っていたのだ。

しかし、ワタシは彼の望む言葉など、

一切れたりとも渡さなかった。

渡すはずが、ない。

しばしの沈黙。

一分とか二分とかのレベルではなく、

長くてもせいぜい十秒程度の間。



モリ
「……おい」



たまらなくなったのか、彼は言葉を発した。



モリ
「……帰っちゃうぞ」



ワタシは彼と視線を併せ、

涼しい顔をして答えた。



ワタシ
「……立ち上がったもんで、

ワタシはてっきり帰ると思ってましたけど」


モリ
「……」



アイビールックの男は、ワタシのあっさりした返答に、

逆に濃厚なまでの戸惑いの色を見せた。

彼の言葉にならない言葉を、

ワタシが代わって翻訳するとしたら、

そうだ、こんな感じになるだろうか――。



”え、こいつ、オレの予想と反しているんだけど。

フツーは、オレがここで立ち上がったら、

ちょっと待って下さいよーなんて、云って、

下手に出ても止めるだろうが。

それをこいつと来たら……”




男はもう一度云った。

焦った感じだった。



モリ
「……おい、本当の本当に帰っちゃうぞ」


ワタシ
「だから、別にワタシは止めませんよ。

止める必要もないじゃないですか。

テーブルをバーンと叩き付けて、

帰る帰る云ってる人間をこちらからお願いして、

何故止めなければならないのですか?」



――相手にズバリと叩き付けた、

正論なまでに正論な言葉であった。



彼は一瞬、苦虫を――それこそ、

まとめて10匹分、噛み潰したような顔をした。

そして「くそっ」と小さな言葉を吐いたかと思ったら、

「じゃあ、分かった。じゃあ、失礼するよ、じゃあ!」

と無駄にイントネーションを付けた感じで、

何度も何度も「じゃあ」と云う言葉を繰り返し、

今度は、本当に立ち去ろうと出口の方へ向かった。



大股で帰ろうとしたアイビールック男を

ワタシは「あ、そうだ。ちょっと……」と呼び止めた。

男は、即座に振り返った。

”それみたことか! いくら強がっても、

オレをそのまま、帰せないだろ?”

と云った感ありありの表情で、

ワタシの方へと大股で戻ってきた。

先程の苦虫はどこへやら。

心なしか、少し嬉しそうでもあった。



モリ
「ほら、何だかんだ云っても、

キミがこっちに用があることは、

お見通しなのだから……」



ワタシは、彼の前にレシートをひらひらさせた。



ワタシ
「……そう云えば、さっきワタシが払った、

モリさんの分のカフェモカ代。

まだ返して貰ってないんですけど」



これもまた、お約束である……。



……続く。



<おまけ日記>

花粉症なのか、風邪なのか、ちょっと分かりませんが、

今朝から鼻とくしゃみがとまりません。

若干、ボーッとしている感じです。

それではお返事です。


2/16 22時
更新を!


本当、遅くなりまくりで、すいませんねえ。

ゆっくりじっくり、お願いします。


2/18 0時
追い出し屋Gと揚落花生とバーボンの夜。
俺も不動産業界に転職するぞ!まずは宅建だ!
demo
で、結局酔っ払って、参考書放り投げてzzz
でも勉強前に腹ごしらえ。
今日は焼きそばUFOとバーボンだー。
うん、やっぱ勉強は正式に馘首になってからにしよう。
魚肉ソーセージもうまい。
閉店間際のスーパーで40円で買った挽肉も、
炒めていただきます!
甘いものも欲しい。ブルボンのルマンド!懐かしい!

なかなか、ファンキーな書き込みありがとうです。

不動産業界に入るためには、

とりあえず、運転免許があればオッケイですよ。


2/24 9時
とても読みやすく、躍動感がある文体がいいですね


ありがとうです。

話も文体もだらだらしている、

ともっぱらの評判ですけれども(笑)

 

2006.03.29 水曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十五話 「カフェでひとり、思う」



ワタシがひらひらと差し出したレシートをしばし見つめる、

モリの眼には明らかに苛立ちの炎が混ざっていた。

彼はワタシからレシートをひったくるようにして取ると、

財布からコインを取り出し、

まるで一昔前の小学生がメンコでもやるかのように、

バンと勢いよくテーブルに叩き付けた。

そして、モリはお約束過ぎるセリフを吐く。



モリ
「釣りはいらねえよ!」



そんな啖呵を切る彼に対し、ワタシは即座に言葉を返す。



ワタシ
「いや、それじゃ、足りないんですけど」



大体、三百円だかするコーヒー飲んでおいて、

百円玉を叩き付けられても……。

せめて、五百円玉を出してくれよ。

声に出しては云わなかったが、

顔にはしっかりと出ていただろう。



ワタシの真っ当過ぎる程の指摘に対し、

モリは更にムッとした表情をへばり付かせながら、

財布の小銭入れの口を開き、云った。



モリ
「キミにはコーヒーなんかよりももっと高価な、

餞別をプレゼントしたと云うのに。

だったら、これで、満足か?」



そう云うやいなや、彼は驚くべき行動を取った。

自分が持っていた小銭をこれでもかと云わんばかりに、

テーブルの上にジャラジャラとばら撒いたのだった。

一円玉、五円玉、十円玉、五十円玉が

ウッドテーブルのステージでくるくると舞い踊る。

ついでに財布の中にたまっていたのだろう。

黒々とした綿埃も舞う。

幾枚かのコインが勢い余り、

ダンスの舞台から落ちかけたが、

ワタシが咄嗟(とっさ)に手でガードしたので、

なんとか縁のギリギリのところで動きを止めた。



ワタシは「何ですか、これは?」と彼に尋ねたのだが、

しかし彼はワタシの方をちらりと見ると、

「これにて失礼!」

と一言残して、のしのし大股の足取りで帰ってしまった。

彼の最後の捨て台詞は、

少しばかり時代劇口調になっており、

「これにて一件落着!」みたいな感じであった。

全然、一件落着してないのに……。



今度こそ、モリは帰ってしまった。

カフェは、思いの外、静かではなかった。

高校生の女の子に特有の甲高い嬌声は、耳に痛く響く。

自分と利益が相反する人間と対峙している、

モリと一緒にいるときは、さほど感じなかった

カフェの中の喧噪が彼が席を立ってしまった今、

如実に感じたのであった。

無論のこと、それは彼がいなくなったことで、

寂しさを感じたということではないが……。



ワタシはひとり、思う。

交渉する相手がいなくなった。

そのことについては、これでいい。

これでよかったのだ。

交渉相手は誰であってもいいと云う訳ではない。

今回の件で云えば、自分の交渉相手はあくまでも、

実際に占有を行っているハヤシバラであり、

ハヤシバラの代理人とか称するモリではないのだ。

もっとも、本人以外の人間を相手にしない、

と云うことなら、最初からここに出向く必要など無い。

それでもワタシはこの場に来たのは、

仮に法的な代理人の権限を有する、

と云うまではいかなくとも、

まだきちんとした話し合いが出来そうな人間であれば、

ワタシは自分の主張をした上で、

相手側の話も聞くつもりだったからだ。

しかし、現実に来たモリはどうだったか。

一般的な常識とはかけ離れている言動を取る。

とにかく尊大な態度でもある。

彼の相手をすることで、

本当にまともな話し合いというのは出来ただろうか。

ワタシは「出来ない」と断言出来る。

そうなのだ。

彼は、自分にとって都合のいい話をするべく、

自分がワタシよりも高いポジションにいることを

見せつけようとしていただけなのだ。

男にバラを寄越したりする、

端から見れば意味不明な行動も、

彼にとっては相手に施しを寄越すくらいのことを

考えていたのかも知れない。

人にモノを施す=自分はその人よりも高い位置にいる。

そんな方程式が彼の脳裏に浮かんでいたのだろう。

彼なら、そんなありがた迷惑な公式を、

自分以外の他人にも押しつけかねない。



ワタシのこれから取るべき方向性は、決まった。

ここはひとつ、仕切り直しだ。

やはり、本人と会おう。



さて、そうと決まれば、ワタシも会社に帰るとするか。

その前に片付けなくちゃならないことが、ある。

モリから貰った真っ赤なバラをどうするか。

隣の席にいる女子高生にでもあげるか?

だが、そんなことをしたら、

どうかんがえても立派な不審者の出来上がり。

「キモーい」と云われること確実なので、

ゴミ箱に捨てることにする。



あとは――。

テーブルの小銭の山だ。

それにしても、幾らあるのだ、これは。

小銭を数えてみる。

ひい、ふう、みい……。

一円玉が15枚。

五円玉が2枚。

十円玉が7枚。

五十円玉が1枚。

そして、一番始めに出した百円玉が1枚。

締めて245円。



ワタシ
「……」



小銭全部かき集めても、

モリの頼んだ甘いコーヒー一杯分にもならないじゃん……。



……続く。



<おまけ日記>

またまた一ヶ月ぶりのご無沙汰です。

なんか、掲示板の方がすげえ訳の分からない、

エロ広告みたいなので溢れてて、非常に大迷惑ですね。

なんとかならんもんかなあ、と思ってみたりしますが、

そーゆーのを排除するような掲示板CGIに

変更しなくちゃならないのかなあ、それだと面倒くさいなあ。

それではお返事です。


3/27 12時
いつも楽しく拝見してます。
1ヶ月過ぎましたのでもうそろそろ更新お願いします。


更新しました。

ついでに本日メルマガも発行します。

 

2006.04.09 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十六話 「これから行うべき指針」



占有者と直接会う――。

ただ、だからと云って、

相手側の元に闇雲に猪突猛進しては、

それこそロクな結果にならないことは、

今までの経験上から知っている。

会社に戻ったワタシは、タバコでもふかしながら、

今までの経緯とこれからの道筋を考えた。

瞑想などしつつ、ひとつひとつを体系的に浮かび上がらせる。



……自分がやるべきこと。

やるべき道。

それは何か?

買い受けた建物を借りているという占有者――ハヤシバラ。

ただし、その賃貸借契約は有効ではない。

競売で買い受けた会社としても、

賃借人であるハヤシバラにそのまま貸して、

賃料を得るという腹はない。

今ある築数十年の建物を壊して、

更地にして再販するからだ。

建物を壊す――故にハヤシバラには退去してもらうしかない。

それは確定的事項だ。



退去してもらうにあたって、こちらはアクションを仕掛けた。

ハヤシバラ本人にも会った。

老齢の域に達していた男性であった。

その彼と会って話した。

しかし、彼は交渉と云うよりも自身の要求のみを主張し、

彼の望む金銭的要求と時間の猶予は、

こちらとしては、到底飲めないものであった。

相容れない互いの主張。

結局――話は決裂した。



話が壊れた後、ハヤシバラ本人とは会っていない。

その代わりとでも云おうか。

ハヤシバラの代理人と名乗る男――モリが現れた。

彼が、どう云う筋の人間であるかは分からないが、

どうせどこからか湧いて出てきた事件屋の類だろう。


彼の服装とセンスについて、

云いたいことは山ほどあるが、まあ、いい。

とりあえず、置いておこう。

彼と渋谷で会い、そして、当然のように話は壊れた。

いや、ワタシの方から壊したと云った方が適切か。

話し合う余地を感じさせない男だったからだ。

それが先程までの渋谷の話――。

そして、これから……。

これから、ワタシはハヤシバラと会い、

再度、退去交渉を行う。

さて――。



ワタシは、もう一本のタバコをくわえた。

ジッポーで火を点ける。

オイルの甘い匂いがした。



さて、ハヤシバラへの対応であるが。

一度目の交渉は、お話にもならない状況で終わっている。

過剰なまでの金と時間の要求。

希望が叶わないと云うのであれば、

そのまま借りたいと云っている。

こちらとして、貸せる訳がない。

話はまとまらないように思える。

それ以前に彼は話をする気がないのか?



――いや、それはないだろう。



何故ならば、彼自身ワタシと会っているし、

その後も彼本人ではないものの、

彼の代理人と称する人間を送っている。

ハヤシバラはハヤシバラで、この件に対して、

無関心でいられることはないのだ。

彼は彼で、解決を望んでいる。

解決を望まなければ、

最初からワタシと会わなければいいのだ。

互いに解決の道筋を望んでいることは間違いないだろう。

後は解決の条件がどうなるのか、と云う問題だけが残る。

これについて、相手が妥協するかしないかは――。



「状況次第、だな」



ワタシは今日何本目かのタバコを揉み消すと、

立ち上がった。

ワタシはこれから行うべき指針を胸に抱いていた。

これから、彼の家に向かう。

そして、会えるかどうかは分からないが、彼女に会いに行く。

彼女に会いに、だ……。



……続く。



<おまけ日記>

桜はほとんど散っちゃいましたね。

花見しましたか?

 

2006.05.07 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十七話 「会いに来た人」



――ワタシはまた、
この家の前に来ていた。

くすんだモルタルの、木造住宅。

どこにでもあるような古い家だ。

端からみれば、平凡という言葉しか浮かばない建物。

だが、その実、事情を知らぬものには計り知れない程の、

この家を巡る、各々の思惑が渦巻いている。

門柱には、この家の主を表するかのように、

「林原」と彫られた檜の表札が掛かっている。



ワタシ
「この家の主人、か……」



思わず、ひとりごちた。

ワタシは――そうだ。

この家の主を退去させなければならない。

しかし、相手はワタシから逃れようとしている。

追って追われて、追われて、追って――。

その騒乱は果てしなく続くかのように思われるが、

いつまでも無益な鬼ごっこを続けている訳にはいかない。

いつかは、決着を付けなければならないのだ。

もちろん自分にとって、

ベストな着地点でなければならない。



ワタシは、外周から家の様子をチェックする。

1階の窓はすべて固く閉ざされているようだが、

2階の窓が僅かに開いていた。

誰であれ、家人はいるようだ。



ワタシは「よし」と気合いを入れ、

呼び鈴を鳴らした。

そして、玄関から出てくるのを待つ。

台所に面する窓際に掛けられている、

レースのカーテン越しに人影が動くのが見えた。

しかし、なかなか家人は出てこない。

あちらはあちらで、

ワタシの存在を確認したからかも知れない。

ワタシは再度、呼び鈴を押しつつ、

家に向かって声を掛けた。



ワタシ
「ハヤシバラさーん。

いますよね?」



いるのは分かってる。

カーテンから影がちらちらのぞいているじゃないか。



ワタシ
「いるのは分かってるんですよ?」



拡声器でも持ってきて、

言ってやるか。

無駄な抵抗は止めて出てこい。

だけども、ワタシが警察署あたりから、

拡声器を借りてくるまでもなく、

古ぼけた玄関ドアは開いた。

そこにいたのは、ハヤシバラ本人ではなく、

奥さんだった。

彼女はドアノブから手を、心底嫌そうな表情を浮かべ、

ワタシを一瞥すると、吐き捨てるように云った。



奥さん
「……だから、いませんよ」



話の前振りもなく、

”だから”と云われても……。

彼女はワタシがハヤシバラについて、

尋ねる前に主人の不在を主張した。



ワタシ
「そうですか、いらっしゃいませんか」


奥さん
「いませんから。

大変ですから。

それでは――」



そう云い切ると、彼女はドアを閉じようとした。

ワタシは門扉の外から、

「ちょっと待って下さい」と彼女を止めた。



奥さん
「……何ですか?」


ワタシ
「いや、もちろん、ご主人にも用はあるのですが、

それよりも、今回は、奥さん――」



――ワタシは、奥さんに会いに来たのです。



……続く。



<おまけ日記>

1ヶ月ごと更新になっちゃってるなあ。。。

 

2006.07.31 月曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十八話 「他人意識」



――ワタシは、奥さんに会いに来たのです。



ワタシの言葉に、彼女は「……はあ」

と怪訝な声をあげた。

あからさまな嫌悪感を顔に示す。



奥さん
「……あたしに会いに、ですか?」



ワタシはゆっくりと頷く。

そうだ、その通り、だ――。



ワタシ
「そうです。

ワタシは、あなたに会いに来たのです」

――他でもない、あなたに、ね。


奥さん
「……」



ワタシの心を知ってか知らずか、

彼女は何度も顔を横に振った。



奥さん
「……それだったら。

意味が――分かりません。

全く分からない。

何故、そちら様があたしに用があるのですか?

そちら様が用があるのは、

あたしではなく、主人なんでしょう?」



ワタシ
「そうですね、ハヤシバラさん――ご主人にも、

当然に用はあります。

でもね、奥さん、ワタシは奥さんにも用があるのですよ」



ワタシは「奥さんにも」と強調した。

占有の問題は、賃借人だけの問題ではない。

賃貸借契約書上、ハヤシバラが名義人ではあるが、

実際に占有している――この家に住んでいるのは、

ハヤシバラ本人だけではない。

ワタシの目の前にいる彼女もまた、占有者なのだ。



奥さん
「……でも、ねえ。

あたしには、全く関係のない話だし、ねえ」



しかし、彼女には自分もまた占有者のひとりである、

と云う当事者意識はなく――。

彼女は、自分には関係のない世界の話だ、と。

あたかも、戦争が起きたのはどこか遠くの国の話で、

自分には戦火が降り注いで来ないと思っているようだった。

彼女の意識を支配しているのは、

まさしく”他人意識”以外の何物でもなかった。



ワタシ
「何度も云いますけど、

奥さんが関係ないってことはないですよ」



しばし、彼女はううんと捻るような声をあげていたが、

急にハッと顔を曇らせ、

右手と左手で胸のあたりを隠した。



奥さん
「……まさか」



彼女のハッとした顔。

「まさか」と云う言葉に、

ワタシは背中にぞくりとした悪寒を感じた。

いや、もしかして――。

彼女は――。

ワタシが彼女のことを、立ち退きにかこつけて、

どうこうしようと思ったのだろうか。

……ワタシが彼女を狙っていると思っているのか?

それこそ、云いたい。

ワタシの方こそ、「まさか」と声を大きく出して云いたい。

すでに老年の域に入って、

何十年となったハヤシバラの奥さんであるから、

彼女もまた、それ相当の年だろう。

自分の母親と一緒――いや、それ以上か――

の年齢だろう。

まあ、幾つになったとしても、女の人だから。

年齢を尋ねると云う、無粋なことは出来ないが……。



奥さん
「……まさか、ねえ」



と云うか、ワタシにはそこまで熟々した老女に

興味を持つと云う、得意な趣味は持っていない。

比較的、ノーマルな趣味だ。

……多分。

いやいや、違う――。

いずれにせよ、違う。

ワタシは、全力で首を横に振り、力強く、否定した。



ワタシ
「いや……いや、そんなことはありません。

ワタシが、あなたに関係あるって云ったのは、

他でもない、この家のことであって……」


奥さん
「どっちにせよ、何にせよ……。

本当に、分からないのよ

あたしには、分からない!」



ワタシの言葉尻を覆い隠すように、

彼女は叫ぶ。



ワタシ
「いや、だから……」



彼女は、ワタシの言葉を最後まで聞くことなく、

扉を閉めてしまった。

そして、それ以降、ワタシが何度呼び鈴を押しても、

彼女が玄関ドアを開くことはなかったのだった……。



……続く。



<おまけ日記>

更新、遅くなりまくりです。

すいません。

謝ってばかりですね。

それもまた、人生だったりするわけで。

励ましやら催促のコメントありがとうございます。

この話は、今後、

まさに事実は小説よりも奇なりとしか云いようのない

展開を迎えることになります。

競売に参加しようと思っている人――

もちろん、落札している人にとっても、

興味深い話になることは請け合いなのですが、

いかんせん、話のペースが遅くて……。

いや、ほんと、すいません。

でも、ものすごい勢いで更新は出来ませんので、

ゆっくりついていっていける人だけ

読んでいただければ幸いです。

 

2006.08.01 火曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三十九話 「三つの選択肢」



ハヤシバラ本人と話が出来ないのならば、

その奥さんと話をしよう――。

それは、城を落とすためには、

まず外堀を埋めよと云うのと同じで、

戦略としては間違ってはいないだろうが、

しかし、幾分、事を急いでしまったか……。

奥さんによって、固く閉じられた

城門を再度こじ開けることは、出来なかった。



ワタシ
「……この後、どうするか」



この時、ワタシには三つの選択肢があった。

まずひとつめは、機械のように呼び鈴を鳴らし続けるか。

もうすでに十分ピンポンを鳴らし続けているのだが、

それに飽きることなく、押し続ける。

押して、押して、押しまくる。

それこそ、小学生の憧れの的だった、

高橋名人の十六連射――ワタシが小学生の時分、

あの頃は、ただひたすら早く、Aボタンを押すことが

出来ただけで、クラス中の男子の尊敬を集められたのだ。

嗚呼、懐かしきファミコン世代――に負けず劣らずの、

シュウォッチで鍛えた高速連射を見せつけるが如く、

呼び鈴に熱き魂の叫びを叩き付けるか――。

ワタシがピンポンマシーンと化せば、

ただの呼び出し音が凶悪な野獣の叫び声となり、

彼女の心にトラウマになりそうな程の、

精神的なダメージを与えることが出来るのは、間違いない。

その結果、精神的に降参した彼女は、

籠城の門を解き放ち、再びその姿を現すだろうが、

そのような精神攻撃を行ってしまったら、

城の門をこじ開けることには成功しても、

彼女の心の門は、それこそ堅く閉ざされてしまうのも、

間違いないだろう。

ワタシは、この策はあまり得策ではない、と思った。

無論のことながら交渉において、

相手に精神的プレッシャーを与えることは、

重要な要素のひとつではあるのだが、

それをあからさまに与えすぎても宜しくない。

ワタシ自身の性にも合わない。

ワタシはこの策を却下した。



次にふたつめの選択肢は、この場で張り込みをして、

ハヤシバラが戻ってくるか、

それとも奥さんが家から出てくるのを、ジッと待つか、だ。

張り込みと云うヤツだ。

しかし、今日は電車で来ていて、車はない。

しかも、この場所は、住宅街に位置してはいるが、

ハヤシバラの家の通りは、小学校の正門も面していて、

先程から、黄色い帽子を被った小学生がうろちょろしつつ、

帰宅の途に就いている。

まさか、このワタシが小学生相手に、

「でへへへー」と襲いかかるような輩ではない

と思われてはいないと願いたいが、

やはりこの物騒な世の中だ。

通学路に突っ立っているスーツの男を見て、

家に帰った子供が、母親に対して、

「ねえねえ、学校から帰って来た途中に、

電柱の陰に隠れているみたいな、

アヤシイ人がいたよー、お母さん」

などと世間話的に話をしたら、さあ大変。

なんだかヤバそうだ。

即、警察に云わなくちゃ、

と110番する保護者が居るかもしれない。

……。

ワタシは、思わず、ため息をついた。

本当に、嫌な世の中になってしまったなあ……。

と云うわけで、この案も却下。



最後、みっつめは――。

とりあえず、会社に帰ること、だ。

ワタシは、胸ポケットから名刺を取り出し、

裏側に「また来ます」とだけメッセージを残し、

ポストに入れて、駅へと向かったのだった……。



……続く。



<おまけ日記>

昨日に引き続いての更新です。

別に話を引っ張ってる訳ではないのですが、

何の制約もなく、自分の好きなように書いていると、

こーゆーどうでもいいような描写が増えてしまいますね。

もっとも、どうでもよさそうなところにも、

ワタシなりの交渉における、

ヒントみたいなものを隠してあったりしますが……。

 

2006.08.02 水曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第四十話 「再度、あの男からの電話」



――ハヤシバラの奥さんと会った、

次の日の午前中に、会社に電話が掛かってきた。

自分の名前すら名乗らず、

電話を受けた同僚によると、とにかく、

ワタシを出せとまくし立てるように話しているのだと云う。

恐らく、あの男だ――。

そう思いつつ、受話器を取ると、

開口一番、「あのさあ」と云う声。

ワタシの想像を裏切ることなく、聞こえたのは、

案の定、あの男――モリの声であった。

ハヤシバラの代理人を自称する彼は、

ワタシに代わった途端、まくし立てた。



モリ
「ああ、あのね、キミね。

何てことやってるの?

キミはなんて、世間知らずなんだ?」



開口一番、モリは、人を見下すような口ぶりで云った。

しかも、どこからどう来ているのかは分からないが、

自信に満ちあふれてすら、いる。

まるで受話器の受け口から、

その過剰なまでの彼の自意識が、

こちらにまで浸食して来るようであった。



ワタシ
「……はあ?」


モリ
「……キミねえ、はあ?

じゃあ、ないよ、はあ? じゃあ。

むしろ、はあ? じゃなくて、はい! と云いなさい」



……相変わらず、

疲れがドッと出てくる喋りをしてくるなあ。

ワタシは彼に切り返した。



ワタシ
「……と云われましても。

それはそうと、ですね。

大体、ワタシが今、お話をしている、

あなたは一体どちら様なんです?」



バラを男にプレゼントする、アイビールックの男、

モリであることは百も承知なのであるが、

相手の一方的な喋りを遮るべく、ワタシは尋ねた。

相手は何か云いかけようとしたが、

それを無視して続ける。



ワタシ
「……電話口に出た途端、

こちらの方を世間知らずだとか云ってますけど。

自分の名前すら出さず、

そちら様のように一方的に話をしてくる方が、

どう考えても一般的には世間知らず、

って云うのではないでしょうかね?」



疑問型ながらも、ワタシがそう云い切ると、

電話の向こうで、「うむむ……」と唸るような声が聞こえた。

ワタシの言葉に、苛立ちを感じたらしい。

電話の主は、「ああ、言いそびれたけど、

ボクだよ、ボク――」



……モリだと云うことは知っているけれど、

再度、念押しするように、云う。



ワタシ
「いや、だから、ボクだけでは分からないですよ。

ボクさんですか?

ボクなんとかさん。

あいにく、韓国の知り合いはいないもので……」



あからさまに相手をバカにした言葉である。

正直云って、ワタシからしてみれば、