2007.07.20 金曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十一話 「占有者はどこで亡くなったのか?」
――ふふふ。
ワタシの質問に対して、カーラーさんは笑っていた。
彼女の堪えるような、でも、堪えられずに思わず出てしまった、
その笑いの意味するところは――。
カーラーさん
「あのね、あの人はね。
そうなのよね、そうなの。
そうなっちゃったのよね」
彼女の笑いは――。
明らかに勝利の笑みであった。
カーラーさんは私の問いに、明確な答えは返していない。
だが彼女の対応は、まさしく肯定。
訊くに及ぶことなく、是の一文字である。
カーラーさん
「ホントにねえ、あんなになっちゃってねえ」
彼が、ハヤシバラが死んでしまったこと。
この事実は、揺るぎないものである。
これがミステリー小説の類であれば、
実は亡くなったのは当人ではなく、赤の他人であり、
死んだとされるハヤシバラはどこか遠くでのうのうと暮らしている、
だなんて展開もありえるだろうが、だがこれは現実世界の話である。
そのような面倒くさい展開を構築しようなどとは、
占有者も思わないだろうし、そのような手間暇をかけるメリットなど、
彼らには全くない。
ワタシ
「亡くなったんですね。
では――」
ここからが本題だ。
ワタシが今、最も知りたいこと。
知らなくてはならない答えは如何に――。
ワタシ
「ハヤシバラさんは、どこで亡くなったんですか?」
――ふふふ。
彼女はまた、笑った。
勝ち誇った、あの笑いだ。
カーラーさん
「あれはねえ、なんか運ばれていったよ」
ワタシ
「運ばれていった?」
カーラーさん
「そう、救急車で。
真夜中にサイレン鳴らして、スゴイうるさかったわよ」
彼女は、「最後の最後まで他人様に迷惑を掛ける、
ホント大迷惑なヤツ」と駄目押しの一言を付け加えるのであった。
いずれにせよ、ハヤシバラは、救急車で運ばれて、
そのまま帰らぬ人になっていったと云うことだろう。
ワタシは未だ笑いを消せぬ彼女を背にし、
挨拶もそこそこにその場を立ち去った。
占有者の隣人、カーラーさん。
彼女と話せば話すほど、彼女の悪意ある笑みに接するほど、
ワタシは心に鉛(なまり)のように鈍く重い重圧を感じた。
この手の商売をやっている上で、ワタシはある程度の悪意に対しては、
恐らく人並み以上の耐性は出来ていると思う。
そこそこの罵詈雑言の類であれば、平気で受け流すことが出来る。
それで怖じ気づくということは、一切ない。
しかも、あくまでも自分は、第三者である。
彼女の悪意はすべからくハヤシバラ夫妻に向けられている。
今回、自分に火の粉は降りかかっていない。
むしろ、ハヤシバラは自分の敵ではないか。
「敵の敵は味方」なんて言葉もあるではないか。
それなのに何故か――。
何故だか、ワタシはハヤシバラの悪意を
右から左へと受け流すことが出来なかった。
振り払えず、心の重りは消えることがなかった。
恐らく――。
ワタシはこう思った。
ワタシの持つ耐性と云うのは、あくまでも自分に対する悪意なり、
敵意なりに対するものだ。
自らに向けられた悪感情については、
こちらも相手方へ悪感情を持つことによって、相殺することが出来る。
しかしながら、直接的に自分に向けられていない悪意については、
ワタシは何ら対抗するすべを持っていない。
自らに襲いかかる毒々しく禍々しい悪気でなければ、
それを打ち消そうと云うパワーを持ちようがないのである。
彼女の悪意ある言葉の力は、それだけ強力なものだった。
それにしても、だ。
彼女が剥き出しにする隣人への敵意は、一体何が原因なのだろうか。
昔、ピアノの音をきっかけにした殺人事件があった。
そして今も近隣トラブルは、全国で絶えることなく起きている。
憎悪の輪は広がっている。
思うに――。
彼らの憎しみの発端も、ピアノの騒音と云ったような、
ほんの些細なきっかけだったのだろう。
彼らの場合、ハヤシバラの飼っていただろう犬の件なのかもしれない。
犬の鳴き声や異臭などなど。
小さい出来事が積もりに積もって、憎悪の山が出来たと云ったところか。
後になって分かったことであるが、
彼女とハヤシバラとの間に大きなトラブルが抱えられていたと云う話は、
この界隈に住む隣人の間ではかなり有名な話であった。
その確執は、ハヤシバラが死んだ後も脈々と続き、
この物語に大きな変化をもたらすのであるが……。
それはまだ後の話である。
……続く。
<近況>
久々です。
かなりのご無沙汰です。
とりえあえず、追い出し屋Gは倒れてはいません。
おかげさまで忙しい毎日を過ごしています。
今後とも宜しくお願いします。
<WEB拍手のお返事>
7/14 15時
今日は台風4号ですね
暑かったりジメジメしたりでこのまま8月入りそうですね!
台風とか地震とか自然災害ってのは、何とかならないものでしょうか。
2007.08.08 水曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十二話 「事故物件の末路とは」
――非常にドライな考え方ではあるが……。
カーラーさんと話すことによって、ワタシは胸をなで下ろしたのだった。
数多く立ちはだかる問題の壁のなかで、
たったひとつだけではあるが、だけれども大きな懸念事項は消えた。
ハヤシバラは、敷地内で事件性のある死に方をしたのではない。
買い手の購入意識を大幅にそぎ、
物件の価値を下落させる要因は生じてなかったのだ。
その事実が分かっただけでも、大分、気が楽になったのだ。
これがもし、家のなかで亡くなった。
しかも、その死に方が大往生ではなく、
鴨居に吊したロープで首をくくったと云うものだったら……。
不動産を所有する立場にとっては、考えるだに恐ろしい。
このような話がある。
かつて、赤坂の地にホテル・ニュージャパンと云うホテルがあった。
丸ノ内線赤坂見附駅の目の前にあり、
横井英樹がオーナーを務めたことで有名だった、あのホテルだ。
大時代的な建物であったが、運営コストばかりかかっていたため、
経営に伴う借入金は毎年膨らむ一方であり、
満足出来るような収益をほとんど上げていなかったと云う。
その経営が低迷していたホテルを買収したのが、
当時、買収王として名を馳せていた横井英樹である。
ホテル経営に乗り出した横井は運営を行う基本ラインとして、
顧客サービスの向上と云う、接客業を行う上で最も基本的ではあるが、
なかなか形になって表れない方向性をばっさり切り捨て、
合理化と人員削減による大幅なコストカットと云う、
すぐさま利益の数値が目に見えてくる方針を採った。
横井の採った経費削減路線は徹底しており、
消火器等による初期火災の消火に失敗したときの備えである、
スプリンクラーさえも満足に設置しないと云う程だった。
横井は必要最低限の設備を置き、顧客の安全を見出すことによりも、
経費を浮かせることにより少しでも儲けを出すことを選択したのである。
その結果が――戦後日本において、五本の指に数えられる程の、
火災による惨事を招いてしまった。
――1982年、ホテル・ニュージャパン火災事件である。
この火災により亡くなった宿泊客の数は、実に33人に及んだ。
火災の原因はスプリンクラーの不備だけでなく、
客室の壁が耐火構造ではなかったこと、ホテル従業員の少なさ、
それに加えて従業員教育の不足等、
数々の理由が構造的に合わさって引き起こされたものであり、
一言で断定するのであれば、これはまさしく人災であった。
宿泊客の安全を顧みず、違法営業を行っていた責を問われ、
横井は業務上過失致死傷罪で起訴、有罪となった。
そして大惨事の後、横井の手を離れ、
営業停止となったホテルの行方はどうなったのか。
超一等地に所在するにもかかわらず、
多数の死者を出したいわく付きの不動産として、
買い手がつかず――。
結局、外国資本が買収するまで、ホテルは火災の跡も生々しい廃墟のまま、
実に10数年もの長きに渡り、その悲劇的な姿をとどめていたのだった……。
ホテル・ニュージャパンの件はひとつの例としても、
多かれ少なかれ、事件性のある不動産――いわゆる事故物件を嫌悪する。
それは日本人としてのまったくノーマルな精神的思考であろう。
とかく、事故物件の末路は暗く、そして険しい。
どこぞの国では、火災や事故が起きた土地は、
もう二度と同じような悲劇は繰り返されない。
悪い気はすべて誰かが持って行ってくれた。
だから、事件事故のあった土地は、とても縁起の良い土地だ。
買うべし、買うべし!
――なんてことで、事故物件が逆に人気が高くなり、
地価も上がるなどと云うケースを耳にした覚えがある。
もしそのような話が真実だとすれば、それはひとえに国民性の違いであろう。
日本ではまずあり得ない光景だ。
ワタシ個人としては、どちらかと云えば、
事故物件であったとしても、安く買えればラッキー!
だなんて前向きポジティブに考えることが出来るが、
だが、それはあくまでも買い手の立場にいる時のことである。
一転、売り手の立場になってしまったら、
喜んでなどいられるわけがない。
まあ、ともかくだ。
この不動産は事故物件ではない。
フツーに流通させることが出来る物件である。
その事実が分かっただけでも、
彼女と話した甲斐があったと云うものだ。
さあて、これからどうするか。
どこを攻めていくか、それが重要な問題だ……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
7/28 12時
面白すぎます、ドラマ化されるのも近いのでは!
そんなたいしたものではないですよw
ただ最近は更新が遅くなってしまい、ただ申し訳ないですねえ。
2007.08.10 金曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十三話 「揺れる天秤」
――それから数日の間、目まぐるしい程の忙しさのなかに、
ワタシは立たされていた。
契約だの決済だの、不動産業者として日常的な業務が立て込む。
それにひたすら忙殺されていた。
立ち退き交渉は一旦、留保される形となった。
しかし、どんなに忙しく他の仕事に追われていても、
この立ち退き案件のことが頭から離れることは、片時もなかった。
どんなにバタバタと忙しく動き回っていても、
頭のどこかでこの件の決着をどのようにつけるのか、
着地させる最終的なポイント――落としどころは一体どこなのか。
その答えを見つけるべく、話しているときも、異動しているときも、
思考に思考を重ねていたのだった。
ワタシがやるべきこと。
それは、占有者夫婦――。
いや、占有補助者から占有者本人に格上げされた、
ハヤシバラ婦人を立ち退かせること。
ただ、それだけである。
もちろんのことだが、そのための準備はしてある。
再度、裁判所に対して、相手方を彼女本人とする
引渡命令の申立は行ってきた。
手続きを一からやり直しして来たと云うわけだ。
だけれども……。
ハヤシバラ婦人――。
彼女は大黒柱であろう主人を亡くしたばかりだ。
如何にワタシが仕事であるとは云え、
そのような状況の婦人に立ち退きを迫ると云うのは、
正直に云って心苦しい。
だが、仕事は遊びではない。
仕事は仕事であると割り切って行わなければならない。
それに、更に云うのであれば、彼女には何ら占有権限はない。
彼女たちはどのような経緯があってその家に住むに至ったのか。
それについては、まったく定かではないが、
彼らは賃借人の立場として、占有を行い、
首を失った今もそのまま、住み続けている。
しかも、賃借人を主張するならするで、
月々の支払いを行う用意があるとすらこちらに申し出ない。
当たり前の義務を履行するそぶりすら見せない。
もっとも、賃借権の継続を申し出られたところで、
その不動産を賃貸していくつもりがない買受人としては、
断るしか道がないのではあるが、そうであったとしても、
こちらの不動産に何の支払いもなく、ロハで居座られる道理もない。
――道理と情。
それらを両脇に抱え、ゆらゆらと揺れる天秤。
どちらかに偏ってしまったら、無論、天秤は釣り合わない。
道理と情の天秤の釣り合いを取り、
円満に占有者立ち退きを完遂させるために、
ワタシは動かなければならない。
だからと云って、一度は強制執行の着手を行おうとはしたものの、
法的な手続きだけに頼ると云うのも、
情が無さ過ぎると云えば無さ過ぎる。
昔々、夏目漱石は『草枕』でこう書いた。
「智に働けば角が立つ、情に棹させば流される」
夏目も思い悩んだ問題だ、恐らく。
たぶん。
きっと。
「兎角に人の世は住みにくい」
そりゃそうだ。
こんな釣り合いを取る方法を考えるなんて、ただただ面倒なことだ。
でも、それで終わってしまっては、物事は進まない。
どうするか、どうするか。
――悩め、若人。
若くなくとも、とりあえず、悩め。
悩んで悩んで悩み抜いて。
その先にはきっと道が拓かれる――。
ワタシの元に、一本の電話が掛かってきたのは、
ちょうどそのような心境のときだったのである。
その電話はワタシに、道を拓かせるものであるのだろうか。
それとも……。
……続く。
2007.08.30 木曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十四話 「ボクはボクだよ」
――例の件で、彼いる?
電話を受け付けた者に対して、件の主はそれだけ云ったそうだ。
「彼いる?」とだけ云われても……。
電話対応しているのは女性であった。
妙齢の、女の子とは言い難い微妙なお年頃の彼女(独身)に、
電話の向こうの主は、「お付き合いしている彼氏がいるのか」
と尋ねたわけではないだろう。
もっとも、電話番号案内のオペレーターのお姉さんを口説いた、
なんて強者の話を聞いたことがあるが……。
その可能性は限りなくレアケースに近い。
それよりも順当なところで考えるに、
その「彼」とは男と云う意味と取るべきであり、
会社の男のいずれかと話したいと云うところか。
受付した彼女は戸惑いながらも、「失礼ですが――」と相手に尋ねた。
ところが電話の向こうの輩は、自分の名前を名乗ることなく、
「ボクはボクだよ」なんて惚けた答えを寄越した。
「ボクと云われてましても……」と彼女。
当たり前だ。
「まあ、ボクはボクだからね」と電話の輩。
あくまでも自分から名前を名乗らないつもりか。
「だから、彼いるって訊いているんだよ?」
「……」
この手の人間の対処には慣れていないのだろう。
彼女は目で助けを求めていた。
その助けを求める視線の先には、
彼女のデスクの近くに陣取っていたワタシがいた。
彼女は「少々お待ちください」と電話を保留すると、
すぐさま、ワタシに話しかける。
受付
「今、変な人から電話がかかってきてるんです」
ワタシ
「変な人?」
次の日行われる不動産決済の下準備として、
固定資産税と都市計画税の検算をしていたワタシは、
最後の最後の計算の締めのところでそれを邪魔された。
ちょっとばかり気分がささくれ立つ瞬間である。
受付
「そうなんですよ。
さっきから、彼いる?とか云われちゃって。
で、自分の名前を名乗ることなく、ボクとか云っちゃってて」
ワタシ
「……ってか、全く意味が分からないんだけど」
受付
「とにかく、気持ち悪いんですよ。
例の件だとか。
彼とか、ボクはボクだとか……」
ワタシ
「……」
聞けば聞くほど、訳が分からない。
だが、ワタシが理解しようがしまいが、
電話は保留の赤いランプが点滅している。
彼女も彼女で、こんな理解不能な人間の相手などしたくはない。
早いところ、ワタシにバトンタッチしたいとことが見え見えであった。
どんな人間なのかは分からないが、待たせている事実に代わりはない。
どのような状況であったとしても、それは宜しくはないだろう。
ワタシは最低限の人間としての礼儀を重んじる。
「ああ、分かった、分かった」とワタシは、電話に出た。
ワタシ
「もしもし、お電話代わりましたが――」
電話の主
「ああ、彼?
ボクだよボク。
分かるかな?」
ワタシ
「……」
電話の相手は、男であった。
いきなり「わたしはだあれ?」クイズである。
こんな質問にこちら側が相手になる謂われはない
だが――。
このどことなく、ぬっとりとジメジメした湿気を帯びた声。
捉えどころがない。
いや、捉えたくもないその声の主。
知っている。
この男を知っている。
この男は――。
ワタシは、その答えを口にしていた。
モリさんですね、と……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
8/17 17時
いよいよ佳境ですね!展開期待しています。
佳境ですね。
ってか、いつまで続くのでしょうか。
まだまだ終わりが見えないです。
……続く。
2007.09.07 金曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十五話 「壊れた玩具」
――ああ、彼だ?
電話の向こうからは、ねっとりと粘り気のある中に、
微熱を帯びたような、何とも気分の悪い声色が届いた。
その声の主は、モリであることは間違いないだろう。
以前、渋谷であったアイビールックの男。
何故だか、一輪のバラを渡してきた男。
代理人だと称して、無理難題をふっかけようとした男。
所々意味不明な行動を取る、その男の顔を思い起こした。
だが「彼」とはなんだ?
電話口とは云え、話している相手に対して、
全く親しくもないのにもかかわらず――。
何なのだろう、この男の代名詞ぶりは。
自分の方が立場が上なのだと、
あからさまなまでにアピールしているのだろうか。
ワタシがモリの「彼」発言に反応しなかったのであるが、
そのようなことお構いなしに、モリはまくし立てるようにして、云った。
モリ
「あのね、彼――ええと、何だっけ?
まあ、いいや。
とにかく例の件で話があってね、わざわざ電話したって云う訳。
分かるよね?
あの件だよ、あの……」
まるで何も考えず友達と他愛もない話をしているような、
もの凄く適当な会話である。
ワタシは云った。
ワタシ
「あの件です、か」
あの件――ハヤシバラの件である。
関わってくるとしたら、その件しかないだろう。
モリはふふんと鼻で笑った。
モリ
「そう、あのジジイとババアの件だよ。
大変なんだってさ。
あの二人。
あ、二人ってゆーか、ジジイの方は――」
――もう死んじゃったか。
モリは、ディズニーランドでの楽しい思い出を語るように、
笑いが堪え切れない感であった。
ハヤシバラが死んだ――それは、モリにとっては、
玩具が壊れてしまった程度のイベントなのだろう。
しかも、玩具と云っても普段を共にする遊び相手と云うよりも、
玩具箱の奥の奥に下敷きになっている、
お気に入りではない玩具。
それが時たま、玩具箱の監獄から出されたとしても、
やられることはどうだ。
殴られたり、蹴られたり、投げ飛ばされたり、
子供の無邪気な残酷さに晒される、可哀想な人形。
そんな人形が壊れたところで、モリにとっては痛くもかゆくもない。
……。
ワタシは何だか無性に切なくなった。
モリ
「まあ、死んじゃったって云うか、殺しちゃった?
ねえ、彼。
彼が殺しちゃったんだよ」
ワタシ
「……」
モリ
「だってそうだろ?
まだまだ何とか元気だったジジイが、
彼が話した途端、ポックリいっちゃったんだから。
すごいよねぇ、彼ってば」
ワタシ
「あのお……」
モリ
「何だい?」
ワタシ
「そんなことを云いたいがために、
電話かけて着たんですか?」
腹立たしい。
この上もなく、最上級な表現をするのならば、
がばい腹立たしい。
この腹立たしさをどこにどうぶちまければいいのか。
だが、ワタシは努めて冷静に答えた。
モリはまたもや、鼻で笑った。
モリ
「ふふん。
まあ、そーゆーのって云うのは、事実だから。
仕方ないよね。
しょうがないよね」
「しかたない」と「しょうがない」を並列で扱うこのセンス。
いい年越してこのような人物なのだ。
モリ
「それはそれ、これはこれ。
本題に入るとね、彼ね――」
……続く
2007.09.17 月曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十六話 「すべて、ワタシのせい」
――あのババア、どうしても納得いかないんだってさ。
モリ
「納得いかない。
まったく納得いかない。
立ち退きを求められていることも。
ジジイが死んじまったことも。
どれもこれも、納得出来ない。
気に入らない。
それもこれも、彼――」
――彼が悪いんだってさ。
ワタシ
「……」
また、これだ。
これのどこが本題なのだ。
自分にとって都合が悪いことはすべて他人のせいにする。
自分の精神の内側で吸収することが出来ない憎悪の矛先は、
赤の他人に向けられる。
立ち退きにあうのも、ワタシのせい。
連れ合いを亡くしたのも、ワタシのせい。
昨日の夕食に嫌いなセロリが出てきたのも、ワタシのせい。
日本の景気が悪いのも、ワタシのせい。
世界から戦争が無くならないのも、ワタシのせい。
宇宙人がいるのかいないのか分からないのも、ワタシのせい。
何でもかんでも、すべての悪い現象がワタシのせい……。
このようなセリフをワタシはこれまで幾度となく聞かされてきた。
ワタシ
「……それで?」
モリは電話の向こうから大袈裟な声を上げた。
モリ
「それで?
それで、って。
そんな――彼にはそんな感想しか述べることが出来ないのかい?
その耳に聴こえては来ないのかい?
可哀想なババアが、哀れに乞うている。
ババアの悲痛な叫びを。
ババアの、ね――」
無論のことながら、モリの言葉に心はこもってはいない。
ハヤシバラの奥さんのことを、ババアと称する自分が、
ババアと云う言葉の響きが余程、
笑いのツボにハマっているのだろう。
言葉の最後の方は、下卑た笑いを隠すことはなかった。
――玩具だ。
玩具のことを笑って、何が悪い?
超合金のロボットが電池を入れても動かなかったら、面白いだろう?
ぬいぐるみの目が取れて不細工になったら、笑うだろう?
それと同じだ。
ババアを笑って何が悪い――。
ワタシ
「……それだけですか?」
モリ
「ああん?」
この男の無駄話に付き合う暇はない。
ワタシは、きっぱり云い切った。
ワタシ
「ですから、用件はそれだけですか?
ハヤシバラさんの愚痴のメッセンジャーとして、
電話をかけられて来たと云うことでしたら、
ワタシは十分、その愚痴を拝聴させて頂いたと思いますので。
電話を切らせて貰いますが……」
モリは「ちょっと待ってよ、彼」
続いて「ああ、分かった、分かった」
モリ
「ああ、もう、彼は急かすなあ。
焦らされる喜びっつうのがまったく分かってないね
……伝言あるよ、伝言。
話し合いたいんだって。
彼と一度会って話したいんだって、ババアがさ――」
……続く。
<WEB拍手のお返事>
9/13 13時
早くつづきが読みたいっす
毎度毎度遅くて申し訳ないです。
メルマガのほうもとまっちゃってるんで。
近いうちに新しい号を発刊しないと。
2007.09.21 金曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十七話 「意外な交渉場所」
――モリからの電話があった翌々日のことである。
ワタシは池袋の外れにある、こぢんまりとしたビルの前に立っていた。
三階建てのそのビルは、築30年以上は経過しているだろう。
二階以上は、ワンフロアにひとつの事務所が入っているようだ。
ワタシの目指す先は、そのビルの三階にある事務所だった。
一階はボクシングジムがテナントとして入っていた。
壁は一面のガラス張りとなっており、リングが見える。
リング上では、練習生だろうか、若い男がスパーリングに励んでいた。
道ばたからも観戦が出来るようになっているのだが、
観客はひとりもいなかった。
約束の時間の十五分前にワタシは辿り着いたのであるが、
いつも約束の時間五分前に到着するのがワタシの信条だ。
しばし、その時刻までボクシング観戦で時間を潰すことにする。
リングの闘争は一進一退の攻防だった。
ワタシはボクシングについては、ズブの素人であるが、
彼ら二人の実力は拮抗しているのだろう。
どちらも相手に負けてなるものか――その気迫は感じられた。
なるほど、男のスポーツである。
闘い、そして、汗が飛び散る。
観ていて清々しい。
ワタシもこれから闘わなければならないのだ。
何だかワタシにもメラメラとした闘志が沸いてくるのを感じた。
リングに熱い青春をかけるふたりにばかり目がいっていたが、
その周りには幾人の男たちが思い思いの練習をしていた。
ウエイトトレーニングをする男。
サンドバックに拳をぶつける男。
その中には、舞台で闘うふたりを叱咤しているのか。
ガラスを背にしているが、大柄の髪が真っ白な男が
仁王立ちして、ふたりのその姿を観ていた。
男は時折、リングのマットをバンバンと叩いていた。
さて――時間となった。
ワタシは行かなければならない。
――先日の電話でモリは云った。
「彼と一度会って話したい」と。
ハヤシバラの奥さんが話し合いたいの機会を持ちたい、
その旨を伝えるために電話をかけてきたのだ。
用件がそれだけであるのならば、
端的にこちらに伝達すればいいだけの話であるがそうはいかず。
他人を不快にさせる、余計な文章をつらつらと連ねていくのが、
モリがモリである由縁と云ったところか。
不快な男は、話し合いはウチの事務所で行うと、
期日と住所を一方的に告げた。
ワタシの都合などお構いなし。
有無を云わすことなく、これまた一方的に電話を切った。
そしてワタシは指定されたビルに来た。
ワタシの目の前にあるビル――××ボクシングジムビル。
古ぼけたビルの名前はそれだった。
ボクシングジムの経営者が所有しているのだろう。
何気なくそう思い、ビルに入る。
フロアに圧縮されたように狭苦しい道路を通っていくと、
小さいホールに出た。
エレベーターの箱は三階で止まっていた。
薄暗い照明の中、ワタシはエレベーターを待っていた。
ふと壁にかけられていた案内表示が目に入った。
白のボードに黒文字の楷書体で記載されている案内板を見ると、
このビルに入居しているのは、三つのテナントだ。
一階には件の××ボクシングジム、二階には消費者金融、
目的の三階には、××ボクシングジム事務所と表示されていた。
……ボクシングジムの事務所?
一瞬、自分がこのビルに間違って来たのかと思った。
再度、モリがねっとりとした声で告げた住所のメモを見返す。
やはり、このビルの三階だ。
……。
意外な交渉場所である。
これまでいろんな場所で交渉を行ってきたが、
事務所とは云え、ボクシングジムで交渉するのは初めてだ。
……。
それにしても、何だろう。
この胸騒ぎは。
嫌な予感がする。
脳裏にモリの言葉が思い起こされた。
ウチの会社に来てくれ、と云うのではなく、ウチの事務所に来てくれ――。
そのようなセリフは何度も聞かされたことがある。
ワタシは交渉するのが仕事なので、その場合は指定の場所に行く。
セリフ通り、その事務所に行ったら行ったで、その事務所はどうだろう。
別に何てことはない、普通の会社であったこともあるし、
もしくはその真逆――どう考えても普通の会社ではない、
「ああ、そうですね、ここは事務所としか云いようがないですね」
よろしく金看板と神棚がデンと鎮座しているような、
これぞ”ザ・事務所”に赴いたこともあった。
今回の事務所は、明らかに前者の意味での事務所ではなく、
どちらかと云えば後者の方の”ザ・事務所” 的な感覚だろうか。
……。
まあ、ここまで来たのだ。
引き返すことは出来ない、と云うか、引き返す気はない。
相手が誰であろうと交渉をするのは、ワタシしかいない。
ようやく到着したエレベーターがその口を開いた。
ワタシは、これから敵陣へと乗り込む……。
……続く。
2007.10.12 金曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十八話 「ふたたび、アイビールック登場」
「あれあれ、彼、ようやく来た?」
エレベーターを降り口にはちょっとしたスペースがあり、その前に扉があった。
扉の脇にはプレートが掲げられており、
そこには「××ボクシングジム事務所入口」とある。
わざわざ「入口」と記載されているのだ。
ここ以外からは入ってはいけないのだろう、きっと。
ワタシは逡巡することなく、ボクシングジムの事務所の古ぼけた扉をノックした。
しばらくすると、中からかちゃりと鍵が開けられる音がして、
男がその顔を覗かせた。
――モリであった。
モリは以前、渋谷で会ったときと変わらず、アイビールックだった。
これこそ彼のセンスであり趣味であり、勝負服なのだろう。
ジャケットの色は真っ赤である。
今回は胸にポケットがついていない。
バラを差していない。
その代わり、金色と橙色のエンブレムが刺繍されていた。
そして、冒頭のセリフだ。
ワタシを見るなり、例のフレーズ。
他人のことを「彼」と呼ぶのが、モリ的マイブームなのだろうか。
まあ、どうでもいいが、ただ面と向かって云われると、
電話を通じて云われるより、腹立たしさが増すことについては、
間違いのない事実である。
ワタシは「こちらでよかったですよね。時間通りに来ましたよ」と答えた。
そのワタシの言葉に応じる代わりに、
モリは金色に輝く腕時計――ロレックスなのか、
はたまたロラックスなのかは分からないが――
をはめた手首を自分の顔に近づける。
その行為は、とてもこれ見よがしであった。
モリ
「時間どおりねえ――。
時間通りって云うのならば、あと四分十四秒、十三、十二……。
ああ、時間がどんどん過ぎていっちゃうよ。
とにかく、四分くらい後に来なければならないんじゃないの、彼?」
ワタシ
「……」
何それ?
何その言葉?
その言葉尻の取り方は、大の大人が――しかもいい年を越えた男が、
口にするようなセリフでは決してないだろう。
「何時何分何秒、地球が何回回った時に云ったんだよ?」
口約束を破った小学生男子がよく使う煽り言葉だ。
それとまるで同レベル。
その相手をしているとこちらまで同じ程度の人間だ、
と云うことになりかねない。
ワタシは無視した。
ワタシ
「まあ、そんなことはどうでもいいですよ。
とりあえず、入りますよ?」
モリを押しのけるようにして、事務所に入った。
事務所の中には……。
……続く。
2007.10.25 木曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百十九話 「男がひとり、女がひとり」
――男がひとり、女がひとり、いた。
初老の女は、ハヤシバラの奥さんであった。
ドアの方に視線を向けるその顔には、
絵の具でも塗ったくったように化粧が施されている。
しかし色を塗っただけでは、誰もが逃れられぬ老いを隠せはしない。
彼女はそれが許せないのだろう。
窒息しそうな程厚く、色彩の上塗りをしている。
男のワタシには女心の本質と云うものは理解しがたいし、
出来る訳がなかろうが、 敢えて分かったふりをして偉そうに云うのならば、
幾つになっても女は女と云ったところか。
だけれども、その意図に反して――。
白く覆い被せてはいるものの、表面には幾重もの皺の線が形作られていた。
ワタシからしてみると皺は年輪と同じく、
年月を重ねて生きてきた証拠であり、味わい深い存在だと思うのだが、
彼女は――彼女を含めた女と云い代えるべきか――
ワタシとは異なる認識を持っているのであろう。
ワタシ
「どうも、こんにちは――」
ありきたりの挨拶に対し、
ハヤシバラの奥さんはワタシの顔を一瞥すると、
その場にいる人間に聞こえるくらい大きなため息をついた。
それは彼女の持つやるせない気持ちの表れ、
と云うよりも相手を威圧する悪気を感じるような吐息であった。
ワタシは軽く会釈をしたが、彼女はと云えば、
僅か数ミリ首を動かしたか動かさないか微妙な返しだった。
そして、もうひとりの男――。
ワタシは彼女のそばに座っている上背のある男に目を向けた。
頭髪は枯れ薄(すすき)のようであるが、それとは似つかわしくなく、
Tシャツから見える腕の筋肉は、
さほど太くはないが隆々としており、均整がとれていた。
彼は侵入者でも見るかのような眼差しをワタシに向けていた。
ワタシ
「今日はこちらで話し合いと云うことで参った訳ですが――」
彼はヘビースモーカーのようだ。
テーブルの上にあるクリスタルの灰皿には、
タバコの残骸が文字通り山となっていた。
彼は――一体、誰なのであろう。
モリ
「ああ、もう。
彼ったらすごーくせっかちさんなんだね。
ってか、基本、こちらが紹介してから入ってくるってのが、
当たり前の話なんじゃないの?」
ワタシの後ろに立っていたモリは、
少し怒っているみたいだった。
よくもまあ、こんな小さなことで怒ることが出来るもんだ。
モリ
「まあ、いいや。
彼、さ。
今日のお話しの相手を紹介するよ。
まずは、こちらがハヤシバラ婦人。
正確に云うと、故ハヤシバラ婦人。
残念ながら、ご主人はお亡くなりになったんだよ。
非常に、ほんっとに非常に惜しい方を亡くされました――」
モリの道化がかった紹介には、もちろん憐憫の情など微塵もない。
明らかに彼はハヤシバラの一件を絵空事のように楽しんでいる。
ハヤシバラの奥さんは、何故このような男と関わっているのであろうか。
頼らざるを得ないのであろうか。
夫に残された婦人は、またもやため息をついた。
モリ
「まあ、奥さんについては知ってるでしょ?
彼、家にまで何回も押しかけたっていうしね。
奥さん、すごく迷惑してるんだよ。
はっきり云って、大迷惑。
だからね、奥さんね、頼った訳だよ。
こちらにおわす、オーナーに、ね」
モリは右手を大柄な男に仰々しく向けて、そう云った……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
10/16 14時
面白かったです。
何事も面白いのが一番ですね。
こちらとしましてもつまらないといわれるより、
そちらの言葉の方が1000倍うれしいです。
2007.10.30 火曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十話 「ゴンダワラ、登場」
――オーナーと呼ばれた男は、
苛立たしげにタバコを揉み消すと腕組みをした。
これみよがしに見せつける、筋肉の盛り上がりだ。
ここはボクシングジムの事務所である。
この男はジムのオーナーだと云うことだろう。
モリ
「彼――。
オーナーが立ち上がられたんだよ。
それはそれ、正義のために」
道化師の役割を存分に果たすアイビールックの男。
自分の言葉に酔いしれている、と云った感だ。
普通の神経であれば、褒め殺しかとも思われるその云い草に、
逆に怒りすら感じてしまう
無論のことではあるが、ワタシは呆れるしか、他に術を持たない。
モリ
「正義――それこそ、オーナー。
ゴンダワラ会長の登場こそ、正義だってことだ」
ゴンダワラ――。
態度もでかいが図体もでかい、
不遜な態度を取り続けている、この男こそ、
元凶の大元のように思われた。
今回のミッションのラスボス、か――。
このシチュエーションに出くわした誰もがそう思うように、
ワタシもまた直感的に悟った。
ゴンダワラ
「……紹介はその程度にして。
まあ、座ったらいいんじゃない?」
ゴンダワラは、開いているパイプ椅子を顎で示した。
ワタシは「それじゃあ、失礼します」と座った。
モリもまた「オーナーの仰せの通り」と席に着く。
この度、占有補助者から占有者へと昇格したハヤシバラ婦人。
軽口ばかりたたいているアイビールックの道化師、モリ。
新たなるキャラクター、ボクシングジムのオーナー会長、ゴンダワラ。
そして、追い出し屋のワタシ。
これで今日の交渉の場に集う登場人物はすべてだろう。
四人の熱気が事務所のなかにこもる。
ゴンダワラ
「ああ、オレがゴンダワラだ。
キミに来てもらったのは、もちろん他でもない、
ここにいるアケミちゃんのことでだよ」
アケミちゃん――。
はじめて聞く名前であったが、
それはハヤシバラの奥さんに向けられた言葉だ。
彼女の名前は、アケミと云うのであろう。
アケミはじっと隣に座るゴンダワラの方を向いていた。
ゴンダワラ
「キミさぁ……。
自分のやっていることが恥ずかしいとは思わないのか?」
運命のワンラウンド目がここに始まった……。
……続く。
2007.11.07 水曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十一話 「ゴンダワラ、激昂す」
――ゴンダワラは開口一番、ワタシを圧迫してきた。
どう猛な野獣が獲物であるウサギあたりの小動物を狙うかのように、
ワタシを睨んでいた。
もちろん、ウサギがワタシで、どう猛な野獣がゴンダワラである。
生まれは卯年(うさぎ年)であるから、ウサギという例えは、
あながち間違っていないだろう。
ともかく、ゴンダワラはまだ会って数分も経っていないと云うのに、
剥き出しの敵対心を見せつけていたのだった。
ワタシ
「やってることが、恥ずかしい?」
ゴンダワラ
「そうだ、恥ずかしいことだ」
恥ずかしい行為と云われても……。
どこがどう恥ずかしいことだと云うのだろう。
例えばワタシが人目をはばからず、
露出狂的な所業を行っていると云うことであるのならば、
確かに人間として恥ずかしいことだと後ろ指指されても、
致し方ないことである。
だが、残念なことではあるが、その手の趣味はない。
大体、自分の姿をさらけ出して、
世間に無様な様をさらすなんてことは、
快感を覚えるどころか、即時、切腹ものである。
侍じゃなくても、腹切るよ、腹。
従って、ゴンダワラはワタシの何に対して、
恥ずべき所業を行っていると非難しているのか……。
まあ、彼が何を云いたいのかは、
おおよそ予測できる範疇ではあるが、ワタシは惚けてみた。
ワタシ
「仰ってることが全然理解できませんが……。
ワタシのどこがどう、恥ずかしいと云うのですか?」
ゴンダワラ
「アケミちゃんにやってること、すべてだよ!」
ゴンダワラはぐわっと目を見開き、
テーブルに片方の手のひらを打ち付けた。
刹那、アルミの灰皿がひっくり返り、
タバコの残骸が捲き散らかされた。
激昂の様をみせるゴンダワラは、いきなりアクセル全開モードだ。
ゴンダワラ
「アケミちゃんにやってることは、恥ずべきことだ!
なんだ、家に押しかけて、他人んちに勝手に入り込んで。
いいか、アケミちゃんは旦那が亡くなって、
まだ間もないってのに、なんだ、その様は!」
ワタシ
「押しかけた、ですか?」
ゴンダワラ
「そうだ、押しかけただろう!
ジジイやら何やら、なんだで、多人数で。
近所のババアがその姿を見たって、
周りにすげえ云い触らされているんだよ!
いい迷惑なんだよ!」
家に押しかけたと云うのは、
先だっての強制執行の件を云っているのだろう。
強制執行の時には、ハヤシバラの奥さんはいなかったが、
一部始終を”近所のババア”なる誰かに見られていたと云うことか。
その”近所のババア”にはすぐ心当たりがついた。
カーラーさんである。
カーラーさんは、ハヤシバラの隣家にして、犬猿の仲である。
只でさえ、近所では放送局とあだ名されてそうな、
おしゃべり放題し放題さ加減のおばさんだ。
しかも、隣家の住民を嫌っている。
嫌っている人間のよくない話題は、甘い果実だ。
ハヤシバラ家の話は周り近所に悪口として広める、格好のネタであろう。
ゴンダワラ
「しかも、空き巣みたいなマネしやがったって云うじゃねぇか!」
空き巣みたいなマネ。
彼のその言葉に、あの時、玄関ドアの鍵を開けられずに、
二階の窓から侵入した鍵屋の姿が脳裏に浮かんだ。
……。
ああ、それは当たってるかも……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
11/1 9時
いよいよ新キャラ登場ですね!今後の展開を期待してます。
新キャラであるゴンダワラ氏は、
いきなりヒートアップしています。
果てさて、どうなることやら……。
2007.11.12 月曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十二話 「ゴンダワラ、ますます激昂」
――ゴンダワラは激昂する。
彼の怒りの矛先は主に”空き巣みたいなマネ”に向けられていた。
彼の主張する件の行為は、先日行った強制執行の催告のことだ。
ハヤシバラを相手方とした強制執行催告。
けれども肝心の相手方がすでにこの世からいなくなっていたがために、
執行手続が中止になってしまった。
ゴンダワラ
「この空き巣野郎が!」
なるほど。
確かに、だ。
もたもたしていて普通に鍵を解錠出来なかった解錠技術者が、
水を得た魚のようにするすると二階のバルコニーに辿り着き、
窓を開け家の中に入っていた様は、それは本職の空き巣としか見えない。
端から見てれば、それはその通り、そのように見える。
ワタシも少なからず納得の意見だ。
ただ当然のことであるが、これは犯罪ではない。
別にハヤシバラの家に押し入って物品を盗もうとしたわけではなく、
強制執行手続きの一環として行ったまでである。
本来ならば鍵を開けるところを鍵を開けられずに、
二階の窓から入っただけに過ぎない。
それが行われたことは、執行官補助者によって、
当日、中に入ったことは書面により告知されている。
正当な法的行為の最中に行われたことであり、
ゴンダワラからここで面と向かって、
強面な態度を前面に出されて犯罪者扱いされる謂われなど、
ワタシには一切ない。
ワタシ
「空き巣野郎と云われましても……。
ゴンダワラさん。
その経緯につきまして、正しく認識はされてますか?
これは強制執行手続きの過程として行われたことであり、
裁判所の執行官が指揮していたんですよ。
家の中に入ったことも裁判所の許可を得て行っていることです。
日本は法治国家ですから。
司法の判断を得て行われた行為と、
空き巣なんて云う犯罪行為を一緒くたにされては、非常に困ります」
ワタシが云ったことは、正論であると思う。
間違ってはいない。
だけれども、正しい言葉は時として、相手の感情を損ね、
火に油を注ぐと云った状態になることは珍しくはない。
この場合のゴンダワラも、そうであった。
案の定、ゴンダワラはますます気持ちの昂ぶりを
更にエスカレートさせるのであった。
ゴンダワラ
「裁判所がどうだとかなんだかは知らんけど!
法治国家だ何だって云うからには、
隣のババアがわあわあ云ってるのも、
それも裁判所の許可を得たってことか!?」
ゴンダワラの吐き出している言葉は、支離滅裂だった。
まあ、それは置いておくことにする。
”隣のババア”がわあわあ云っているのと同じく
ゴンダワラもわあわあ云っているが、脇に置いておく。
ここでひとつ分かるのは、
隣のババアこと、カーラーさんとハヤシバラ家との確執は、
ワタシが思った以上に大きいと云うことである。
執行現場をカーラーさんに見られたことを、
一生の不覚とばかりに捉えていることは事実だろう。
これは、ハヤシバラとカーラーさんとの間には、
マリアナ海溝よりも深い溝が出来ていることに起因している。
カーラーさんに会った時に、塀を隔てて隣り合っている二組は、
嫌いあっているとは思ったが、嫌い嫌いと云っているどころか、
どす黒いオーラがでる程、憎しみあっている。
カーラーさんがここでこんな感じで話題の主になるとは、
彼女と会ったときには、思いもしなかったことは云うまでもなく。
そして今、ワタシがゴンダワラから非常に面倒臭いことを云われ、
迷惑極まりない状況になっていることも、云うまでもなく……。
激昂するゴンダワラを目の前にして、
何故だかワタシは、カーラーさんの巻いていたカーラーは、
そういえばピンク色だったな、と思い返すのであった……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
11/7 22時
司法書士です。一気に読んでしまいました。
私も債権者債務者問わず、よく怒鳴られます^^;
怒鳴られる理由が分かればいいですけど、
なかにはその理由が分からない人もいますので、
そーゆー人に当たるとなんだかなーと思います(笑)
2007.12.11 火曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十三話 「ゴンダワラ VS ババア野郎」
――ゴンダワラはますます激昂する。
ゴンダワラ
「隣のババアの野郎だ!
隣の野郎!
あのババア野郎!
今度、オレはババア野郎の家に怒鳴り込みに行こうと思ってるんだよ!」
……。
ババアと野郎。
意味が相反関係にある言葉を並立させると、
時たま、インパクトのある言葉が化学変化のように表れる。
ババア野郎。
言葉の響きが結構、面白い。
ババア野郎。
個人的にはツボにはまった。
だけれども。
面白いけれども、最早、話の本題からかなり外れている。
ハヤシバラの奥さんからどう吹き込まれたのかは知らないが、
犬猿の仲であるハヤシバラ家の隣人に対して、
ハヤシバラ本人と同様に、
いや、当事者以上に怒りをヒートアップさせている。
ゴンダワラ VS ババア野郎。
ピンク色のカーラーを巻いたババア野郎ことカーラーさんだが、
そのピンクのカーラーはいつしか血の赤で染まるのであろうか。
……。
やりかねない。
この男ならやりかねない。
激昂した勢いでコブシが飛び出すのだろう。
ボクシングなり格闘技の選手は、鍛えられた肉体が凶器そのものだ。
従って、喧嘩などで手を出した場合、
その暴力の罪は一般の人が引き起こしたケースよりも重く問われると云う。
だが、それがどうした。
そのようなことはお構いなしだ。
オレはオレの思うとおり、行動する!
ゴンダワラの言葉の勢いは、まさにそれ程であった。
それではカーラーさんも無防備に恐怖におののくだろうだけだろうか。
違うように思える。
その近所の人に「放送局」とあだ名されそうなトークをする彼女のことだ。
ゴンダワラが来襲したところで、その口を持って、
お互い口汚い罵倒合戦が始まるであろうことは、容易に想像出来る。
それによって、油に火が注ぎ……。
その先にあるのは、バイオレンスな惨状だけだ。
もっとも、こちら側としてはゴンダワラがカーラー家に乗り込んで、
ひと悶着起こしたとしても、問題はないと云えば、ない。
血で血を洗おうが、ワタシに火の粉が降りかからなければ。
むしろ、警察沙汰にでもなって逮捕でもされてくれ、ゴンダワラ。
でも……。
カーラーさんと刺し違えるとか、そういう時に限って、
刃傷沙汰の現場が、カーラー家ではなく、
こちら側の敷地内で起きると行った事態が起こりえそうなのが、
この世の常というものだ。
……。
やっぱりやめてくれ、ゴンダワラ。
関係ないこちら側にも火の粉が思い切り降りかかり、
もろに巻き添えを食らいそうだから
。
図らずも心の中でカーラーさんの安否を祈るワタシであった。
カーラーさんに対する悪態は尽きない。
一頻りも二頻りも、カーラーさんを罵倒し続ける。
同じ話をし続けて、飽きることがないのだろうか。
本当にこの人ときたら……。
まあ、これもガス抜きになるのかもしれない。
そう思ったワタシは、黙ったまま、聞いていた。
いや、それは嘘だ。
聞いている訳がない。
それこそ、右から左に聞き流していた。
まともに取り合う話なんかではない。
ゴンダワラ
「隣のババアの野郎……。
って、オマエ、オレの話を聞いているのか?」
えーと……。
聞いている訳なんか、ないのだけど。
さてなんて答えようか……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
12/10 15時
おもしろかったです。
面白いことはいいことだと思います。
面白さのツボは人それぞれですが、
出来る限りその人のツボにはまるようなものであればいいな、
とは思います。
2008.1.29 火曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十四話 「自己防御システム」
――オマエ、オレの話を聞いているのか?
ゴンダワラは、怒りの感情をワタシに向けた。
対するワタシの回答案その1。
いいえ、聞いていません。
聞く価値など、ありませんから。
対するワタシの回答案その2。
はい、もちろん聞いていますよ。
ゴンダワラさんのお話を無視する人間など、
この世の中のどこを探しても見つからないでしょう。
さあ、二者択一なら、どちらの回答を選ぶ?
って、どちらの回答もストレートもしくは嘘すぎる。
ここはひとまず穏便に……。
ワタシ
「いや、まあ……。
そう云った腹立たしい想いがあると云うのは、
誰しもが持ちえる感情なのでしょうが。
それはそうと、ゴンダワラさん――」
相手方に必要以上に肩入れすることも、
もしくは回避することもなく、華麗に軌道修正だ。
これぞ、ザ・大人の対応と云うべきものだろう。
ワタシ
「それで、今回の話の本題と云うのは――」
ゴンダワラ
「そうだ!
ババア野郎のことだけじゃないんだ!
あのババア野郎はババア野郎で、
制裁を食らわせなくちゃならないのだけど。
あいつと同じくらい、抹殺されるべき男がいる!
それは――」
――オマエだ!!
ゴンダワラは冷静に軌道修正することもなく、
本能の赴くまま、怒りをワタシにぶつける。
真っ赤に頬を上気させ、興奮した面持ちのゴンダワラは、
彼の芋虫みたいな太い人差し指をワタシに向けた。
ゴンダワラ
「オマエみたいな人間がいるから、
世間が、社会が悪くなるんだ!
オマエはなんだ!
何なのだ、一体!」
ワタシ
「……」
ここでひとつ分かったことがある。
人間、面と向かって自分が攻撃を受ければ受けるほど、
「攻撃された」と云う事実から派生する、
例えば怒りであるとか悲しみであるとか、
戸惑いであるとか恐怖であるとか……。
様々な心で感情が生じ、頭の中で交錯すると云うよりも、
今ある事象とか感傷とは直接的には関係のない別のことに、
意識が向けられやすくなることもある、と云うことだ。
もちろん、その攻撃が肉体的なものであれば、
痛みの感情が意識すべてをそれ一色で塗り尽くすのであろうが、
殊に精神的なものであれば、
あたかも心理的な攻撃を回避するか如く、
意識はどこか遠くに羽ばたいていくようだ。
もしかしたら、これは自分を守る術――。
ある種の自己防御システムなのかも知れない。
ゴンダワラから指を突きつけられ、
わめき散らす彼を尻目に、ワタシはぼんやりと考えていた。
……ここで「ドーン!」と云う効果音が加われば、
最終的に喪黒福造にトドメをさされる今週の主役だなあ、と。
ああ、笑うセールスマン。
「ドーン!」とトドメの一撃を食らう前に、
これっぽっちも心の隙間を埋めてもらっていないけど。
自分の目の前にいる、ゴンダワラにモリに、ハヤシバラの奥さん。
そう云えば今回相手方で姿を現している、
数々の登場人物たちは、どことな腹黒であり破滅的な、
キャラ立ちとして藤子不二雄的なテイストがする。
藤子不二雄と云っても、決してFではない。
当然Aの方だ。
それにしても、腹減った。
帰りにバーミヤンでトンポウロウでも食べていくか……。
――ワタシの自己防御システムは、正常に稼動しているようだ。
……続く。
2008.3.4 火曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十五話 「バーミヤンのトンポウロウ」
ゴンダワラ
「オマエは何なのだ、一体!」
……ワタシの意識の向こうでは、桃のマークの、
バーミヤンの赤い灯りが見えていた。
特にワタシは三度の飯が中華でもいい、と云う男ではない。
従って、バーミヤンが夢にまで出てくる程、大好きという訳ではない。
大体、この店に行くのはどこにも行く店がなく、
それこそ仕方がなくここでいいか、と云った滑り止めチョイスだ。
だけれども、その時、ワタシの頭を占拠していたのは、
中華ファミレス、バーミヤンであり、トンポウロウだった。
バーミヤンのトンポウロウは、
豚の角煮とサトイモがふたつ程入っており、芥子をつけて食べる。
正直云ってくどい濃い味だが、そのくどさが妙にクセになり、
店に行ったら行ったで必ずそれを一品料理で注文していた。
これまでの人生でワタシが食べた中では、
世の中で一番旨いトンポウロウと云っても過言ではない。
しかし、最近バーミヤンでは、どうやらトンポウロウは、
メニューから消えてしまったようである。
あのくどい豚の角煮をもう食べることが出来ないのは、残念だ……。
バーミヤンのトンポウロウに想いを馳せていたワタシ。
相手の攻撃をシャットダウンする手立てなのだろうが、
その手段が何故ゆえにトンポウロウなのかは、
自分自身でも理解不能なことだった。
ゴンダワラ
「……ほら、何とか云わないのか!?」
人間、攻撃したら攻撃したで、
相手のリアクションが欲しいところなのだろう。
自分の攻撃に対して相手も応戦してきたら、
負けてなるものかと攻撃の手をもっと強めようとするし、
相手が自分の身を守ろうと防御するかの如く、言い訳をしてきてきたら、
その機に乗じて更なる進撃を加えようとする。
相手を徹底的にやりこめてやろうとボルテージが上がるのだ。
その意識に対して、一番対処に困るのが、ノーリアクションだ。
どんな攻撃に対しても反応は一切なし。
暖簾に腕押しと云ったところか。
だから、目の前のゴンダワラは、リアクションをワタシに求めたのだろう。
それに、ゴンダワラの攻撃的な顔の中には、
ワタシに対する疑問符がついている。
一体何を考えているのだ、こいつは。
リアクションがないと相手の考えていることが分からない。
疑問。
疑念。
困惑。
人の心の機微を感じることが出来ない人間であろうゴンダワラは、
攻撃を仕掛けて、何の反応することもないワタシに、
明らかにその色を見せていた。
だけれども、ワタシは何てことはない、
トンポウロウのことを考えていたのだ。
しかもバーミヤンのトンポウロウだ。
そんなに何とか云ってもらいたいのであれば、云ってやろうか。
ワタシが今考えていたこと。
今一番云いたいこと。
それは……。
しかし、ワタシがその言葉を吐き出す前に、
ワタシの代わりに勝手に答えを口にしたのは、モリだった。
旨くはないが、くどいだけだったら誰にも負けない男だ。
モリ
「オーナー、ねえ、オーナー。
もうね、彼ったら、オーナーに参っちゃってんですよ。
まさしくこれは、グーの音もでないってやつですよ」
相変わらずこのアイビールック男は、
物事を自分の都合の良い方向で考える。
ある意味、ポジティブ・シンキングだ。
何事も前向きに考えると云う、一見すると素晴らしい思考方法が、
いやはや、ここまで汚されるとは……。
道化師の言葉にオーナー会長も、今までの疑念が吹っ飛んだように、
そこはかとなく満足げな笑みを浮かべていた。
――何を案ずることがあるのだ。
オレが勝ったのだ。
こいつは努めて冷静にリアクションを返していないのではない。
オレの言葉にただただ、何も云うことが出来ないだけなのだ……。
ゴンダワラの薄っぺらい浅はかな考えが、透けて見えた。
ボクシングジムの傲慢会長ゴンダワラと、
それに追従する道化師モリ。
ふたりは勝利したと錯覚しているようである。
ワタシは思わず……。
……続く。
2008.4.4 金曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十六話 「世界中のどこよりも……」
――ワタシは、笑っていた。
最初は下を向いたまま、小刻みに肩を震わせるような……。
ワタシは笑っていたのだ。
しかし、目の前にいるお気楽二人組には、
自身の傲慢な視点が加わり、うつむくワタシのその姿が、
肩を震わせ泣いているとでも勘違いしたのだろう。
してやったり、叩きのめしたり、との感だ。
オレたちの勝利だ。
オレたちの完勝だ。
ヴィクトリー!!
二人して、うひひひ、と奇妙な笑い声を上げていた。
下を向いていたワタシが笑いを堪え、
彼らの姿を捉えると、まさしく、この男どもは勝利の笑みを浮かべていた。
ワタシを完膚なきままに打ち負かした。
間違いなく、そう思っている。
そう思い込んでいるよ、この二人組は……。
気分は、クイーンなのだろう。
ウィー・アー・ザー・チャンピオン。
そんな気分に浸っている二人の間抜け面を見ていると、
ワタシが我慢しよう、我慢しようと思っていた笑いの衝動が、
抑えきれず、堰を切って、溢れ出してきた。
貯めようと思っても、金と時間は貯まらない。
ついでに笑いの衝動も貯めることが出来なかった。
しかも、このとてつもなく、勝ち誇られた顔。
一体、何なのだろう。
人間とは、地球上でもっとも知的な生命体であるはずなのに、
ワタシの目前の男どもは、何故ゆえに知性の欠片がなく、
アホ面を引っさげて、伝説のチャンピオンを気取り、
勝利を確信しているのだろうか。
こんな表情を目の前にされて、ワタシはどうすればいいのだ。
笑うしかないだろう。
だから、笑った。
今日一番、いや、今月一番の爆笑だった。
一転して、ゴンダワラとモリの笑顔は、消えた。
落胆しているとでも思っていたワタシが、笑っているのだ。
何なのだ、これは。
彼らの頭の中には幾多の疑問符が渦巻いていた。
そして、その疑問に対し、彼らは彼らなりの答えが出たのだろう。
ゴンダワラ
「……おい」
ゴンダワラは、ワタシに向かって続けた。
――オマエさん、気ぃでもどうにかなっちまったのか?
モリもまた、ゴンダワラに追従して、云う。
モリ
「オーナー、ねえ、オーナー。
オーナーにガツンとやられちゃったもんだから。
もう、こんなになっちゃったってことですよ」
アイビールック男は、傲慢オーナーと顔を見合わせると、
そうだ、この男は負けたせいで気がどっか遠くに、
旅立っていってしまったのだ、とでも納得したのだろう。
また二人して、笑い出した。
今度の笑いは……。
お代官様、黄金色の菓子でございます。
ふふふ、越後屋、そちも悪よのぉ、
的な”お代官様×越後屋”笑いだった。
ワタシはもとより、ゴンダワラ、モリ……。
三人が三人の立場で笑っていた。
この部屋は、そう――。
世界中のどこよりも、笑いが溢れている。
ああ、なんて幸せな光景なのだろうか。
世界中のどこよりも、笑顔で満ち満ちている。
ああ、なんて健康的な風景なのだろうか。
これが、この部屋で起きたことでなければ、だ。
この部屋に渦巻いている笑いは、幸せでも、健康的でも、
そんなポジティブな感情など一切なく。
この部屋で吐き出されるタバコの脂と同様、
脂ギッシュにギトギトした、真っ黒な、
ネガティブ一色の笑いであった……。
……続く。
<WEB拍手の返事>
4.2 12時
わたしもケンカが大好きだ。
相手からリアクションがないのが、一番つらいのは良くわかる。
ワタシは平和主義なんですけどね。
相手と闘わざるを得ないときは、全力で闘います。
4.2 20時
おもしろい! 「やだよ! 競売」もおもしろい
おもしろいのはよかったです。
「やだよ! 競売」ってのはなんです?
4.3 17時
がんばりましょう。
がんばります。
4.3 17時
もじをもっともっと大きくしてください。
メガネをしても遠視ではやっと見える程度。
出来れば、IEとかで文字を大きくする機能がついてますので、
そちらの機能でカバーしてもらえると助かります。
2008.4.12 土曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十七話 「引っかかる暇など、ない」
――笑い。
この世界に広がっているのは、虚無の笑いだ。
虚しい笑い。
それは第三者から見ると、とても可笑しな光景なのだろう。
乾いた笑いを一頻りすると、ワタシは云った。
真っ直ぐ、ふたりの男たちを見据える。
ワタシ
「いやいや、まったくもって、お話になりませんね」
ゴンダワラとモリは、また顔を見合わせる。
モリはオーナーに向けて追従笑いをしながら、答えた。
モリ
「あのね、彼。
お話にならないってな台詞は、彼の台詞じゃあなくて。
こっちの台詞よ、こっちの」
ゴンダワラは、そうだ、と云わんばかりに、
うんうんと頷くと、タバコに火を点けた。
モリは、云い切った。
視線はワタシに向けられているのだが、
ワタシに対して、と云うよりも、
雇い主であるオーナーに対して、と云っているのだろう。
モリ
「大体、もう、こっちの云い分に、
それこそ、ぐうの音も出ない、って感じなんでしょ?
ねえ、彼。
そうなんでしょ?
だから、お話にならないのはこっちだってこと」
……。
どこからどう、そんな話になるのだろう。
何故自分たちが正しい。
ウィー・アー・ザ・チャンピオン。
オレ様イズム。
そんな発想なのか?
モリ
「ねえ、だから、そう思ってるでしょ、彼も?」
……。
違う、と思った。
何が違うか。
モリは見掛けは、自信に溢れているように見える。
それはまったく根拠のないものであるが、
そんなの関係がない、とばかりに自信を押し出している。
そう思っていた。
だが、それは違うのではないか。
モリ
「ほら、ほら。
やっぱり、そうだ。
彼、何も云えないんじゃないの。
そうだったら、そうで素直に云えばいいじゃない。
そういったように、さあ……」
モリは、自信がない、と思った。
自信のなさ故に、他人に自分の意見を押し付けようとする。
それはまさに、暗示をかけようとするように。
オマエは、何も云えないのだ。
オマエは、何も云えないのだ。
オマエは、何も云えないのだ……。
もしかしたら、繰り返し、繰り返しされると、
暗示に引っかかる人はいるのかもしれない。
だけど、ワタシは違う。
そんなものに、引っかからない。
引っかかる暇など、ないのだ……。
……続く。
<WEB拍手の返事>
4.5 9時
明渡しの交渉が人の興味を惹くのはなぜでしょう?
明け渡し以外であっても、たぶん、
知らない世界の交渉ごとは興味深いかも。
4.5 20時
調子に乗って何回も拍手した。ほんとうは今日はヘタだ。
今回、面白くなかったです?
2008.5.21 水曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十八話 「理由」
――ワタシはまた、笑った。
ひとしきりの、笑い。
まるで発作の症状が表れたかのように笑いがあふれ出して来る。
ワタシが笑うと、ふたりの男も笑った。
彼らは勝利の笑いだ。
その表情がとてつもなく、可笑しかった。
何故、ここまで自分を正当化できるのだろう。
何故、ここまで自分が勝者だと思えるのだろう。
三人の男たちは笑っていた。
ドロドロと薄汚れた、黒い笑いだ。
そして、ハヤシバラの奥さんも、
そんな黒い笑いにつられるようにして、口元をほころばせた。
その表情を見て、ワタシは笑いながらも疑問に思った。
さて一体、彼女はなにが可笑しいのだろう。
大体、だ。
彼女の置かれた状況は、
笑いの感情を出せるようなそれなのだろうか。
……。
ワタシには分からなかった。
理解できなかった。
モリとゴンダワラの薄っぺらい笑いの意味は、
まるで透けて見えるかのように分かったが、
彼女の場合は違った。
だけれども、他人であるワタシに理解できなくとも、
彼女は彼女なりに追従の笑みを浮かべた、
理由というものがあるのだろう。
それが深いにせよ、浅いにせよ、理由があるのだ。
――理由。
そう、物事には必ず、理由がある。
道筋だてた、道理がある。
それは他人からみれば、突拍子もない与太話であったとしても、
自分にとってそれに至った、確固たる理由というものが、
どんな話にもある。
モリもゴンダワラも、
ワタシの笑いの真の意味が分からないように、
ワタシも彼女の笑いの真意は分からなかった。
しかし、彼女には彼女なりの理由があるのだ。
ワタシは笑い過ぎ、最後は咳に変わっていた。
咳き込むと苦しかった。
呼吸を整えると、真顔で云った。
ワタシ
「だから、ワタシを笑わせないで下さいよ」
ワタシの言葉など意に返さずと云ったところで、
モリは答えた。
モリ
「いやいや、だから、彼の方がおかしいんだって 」
この男はあいも変わらず、同じような言葉を返してきた。
ゴンダワラに「ねえ、会長」と同意を求める。
ゴンダワラは、うんうんとしきりに首を縦に振っていた。
……馬鹿らしい。
ワタシ
「いや、もうこんな馬鹿げたやりとりはやめにしましょうや」
ワタシの目はやおら、ハヤシバラ婦人に向けられた。
これまで外野に構い過ぎた。
直接、本丸を攻めなければ。
ワタシはゆっくりと噛んで含めるようにして、云った。
ワタシ
「ねえ、どう思います、ハヤシバラさん」
いきなり話題を振られたハヤシバラの奥さんは、
笑みを凍りつかせたのだった……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
5.8 18時
あまりおもしろくなかったです
がんばってください
次号に期待しています。
話の展開が冗長すぎるというのは、あるかもですね。
5.20 1時
うーーーー占有解除交渉 流石 勉強になります。
続編更新待ってます。
勉強になれば、よかったです。
2008.6.10 火曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百二十九話 「この問題は誰の問題?」
――え。
その時のハヤシバラ婦人の顔を一文字で表現するとしたら、
それはまさしく「え」であった。
ふいに虚をつかれたと云った感で、呆けた顔をワタシに向けた。
ワタシ
「ハヤシバラさん、どうなんですか?
今後、どうされるつもりなんですか?」
ハヤシバラ
「……」
ワタシの質問に、彼女は何か言葉を発しようとしたようであるが、
それは意味を成す言葉としては聞こえなかった。
ワタシ
「ハヤシバラさん、聞こえないですよ?
なんて仰ったんですか?」
ワタシからの詰問に、救いを求めるかのように、
彼女は隣を見た。
ゴンダワラが、いきり立つ。
ゴンダワラ
「おいおい、オマエさあ。
そんなにアケミちゃんにわあわあ言うなって!
云いたいことがあるんだったら、
こっちに云えばいいだろうがっ!」
ワタシはゴンダワラを一顧だにせず、
彼女を真正面に見据えた。
ワタシ
「いいですか、ハヤシバラさん。
この問題は誰の問題か分かりますか?
あなたの問題なんですよ?
他でもない、あなたの……」
ゴンダワラ
「おいおい、オマエ!
だから、これはオマエとアケミちゃんの問題だけじゃねえだろ!
オレがいるんだからさ。
オマエはオレが見えないのか?
オマエの目は節穴か!?」
ゴンダワラは、ワタシの言葉を遮った。
コブシを振り上げんばかりに激昂していた。
この男は、激情型の人間だ。
そして、肉体を誇示するが如き、マッチョな思考の持ち主である。
この手のタイプは、自分という存在を無視されると、
すぐさま感情を昂ぶらせ、暴力的な行動をとりがちだ。
それはまるで自分の存在価値をアピールしているかのようだった。
ワタシは、ゴンダワラを無視した。
ワタシの相手は、ハヤシバラだ。
今まで彼らと遊び過ぎた。
ワタシ
「もしかしたら、ハヤシバラさんは、
ここでこうやって黙ったままで時間が過ぎていったら、
自分の都合どおりに物事が解決する、
と思っているのかもしれませんが、実際はどうでしょうか。
物事はそのようには行きませんよ。
いいですか。
これまでの経緯がどうであったとしても、
今のあなたは、人の家に不法に居座っている。
ハヤシバラさん、そんな状況が長く続くと思いますか?」
彼女は顔を凍らせたまま、無言であった。
目は訴えるかのように、ゴンダワラの方を向いていた
。
ゴンダワラ
「ああ、もう、うるせい、うるせい!
オマエは一体何が云いたいんだ?
何を説得しようとしてるんだ?
しかもアケミちゃんにだけ因縁つけやがって!
いいか、オマエさ!
この問題はアケミちゃんだけの問題じゃねぇんだぞ!
オレの問題でもあるんだよ!」
ひとり、野獣が吼えていた。
暴力的な本性を剥き出しにしたゴンダワラは、
ワタシを睨み付けていた……。
……続く。
2008.6.16 月曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十話 「ゴンダワラの攻撃」
――アケミちゃんだけの問題じゃない。
オレの問題でもあるんだ!
ゴンダワラはワタシに対して、怒りの矛先を向ける。
ワタシは彼を見た。
彼の目に光るものは、苦々しさ、そして憎しみのようだった。
ゴンダワラ
「オマエはアケミちゃんばっかり、ワアワア攻めやがって!
オマエだけが正しいみたいな面しやがって!
一体、オマエにはどういう権利があるんだ?
アケミちゃんを攻める権利など、どこにもない!
分かってるのか?」
……。
とにかく、ゴンダワラと云う男は、
常に自分が話題の中心にいなければ、
極端に機嫌が悪くなることが嫌と云う程、分かった。
彼はワタシがハヤシバラに対して、
直接問いかけたのが非常に気に食わなかった。
彼が他人にはばかることなく見せる憎しみの源にあるものは、
ハヤシバラアケミを守ってやりたいと云う気持ちよりも、
自分を通り越して直接話をしていこうとする、
ワタシに対しての刺々しいまでの苛立ちなのだ。
とどのつまり、自分を無視したのが、許せないと云うことだけなのだ。
彼はプライドだけは超一流にずば抜けて高い。
それも子供じみた陳腐なプライドである。
ワタシは呆れ顔で、答えた。
ワタシ
「あの、ゴンダワラさん。
この問題は、どんな問題なのか。
当然分かっているわけですよね?」
ゴンダワラ
「おう、当たり前じゃねえか! 」
ワタシ
「この問題ってのは、至ってシンプルなんです。
要するに、ワタシどもの不動産にハヤシバラさんが居座っている。
さて、それをどうしましょうか。
ただそれだけなんですよ?」
ゴンダワラ
「おいおい!
居座ってるってのは、なんだ?
居座っているってのは!?
アケミちゃんは居たくているってわけじゃないぞ?
本当だったら、もう出たいんだよ。
だけれども出られないから、いるって、ただそれだけじゃないか!?
それを居座るってのは、どんな言い草なんだよ!」
ワタシ
「……またですか」
ワタシはさてさてと云った感で首をすくめる。
だが、そのポーズがゴンダワラを更に怒らせることになる。
ゴンダワラ
「何がまたなんだよ!
またってのは一体何なんだよ!」
ワタシ
「今のように脅した口調で云えば、相手が何でもかんでも、
はいはい云ってくるって。
そう思われてるんじゃないですか?」
ゴンダワラ
「オレはそんな気持ちで云ってるんじゃねえ!
一方的にああだこうだとアケミちゃんに云ってきてる、
オマエの魂胆ってのが気に食わないんだよ!
しかも、これはオレの問題でもあるってのに!
それを無視しやがって!」
……。
人間と云うものは、喜怒哀楽の感情の中に、
自身の持っている本心が垣間見られる。
ゴンダワラのようにポーカーフェイス型の人間ではなく、
猪突猛進の感情型の人間であれば尚更だ。
ゴンダワラの攻撃はもう十分だろう。
次の攻撃のターンは、ワタシの番だ。
ワタシ
「……ゴンダワラさん。
ワタシね、先程から、気になる点があるのですが……」
……続く。