2008.7.2 水曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十一話 「連帯責任」
――ゴンダワラは、あくまでも攻撃の態勢を崩すことなく、
ワタシをにらみつけた。
その彼の表情は威圧的であるとしか云いようのないものだった。
ゴンダワラ
「なんだ?
オレの何が気になるっていうんだ?」
オマエにオレのことなど、口にしてもらいたくない。
その気持ちがありありと伝わってきた。
ワタシは、ゴンダワラの殺気を感じた。
彼は、さほど頭はいいとは云えないだろうが、
それでもボクシングジムのオーナーとして、
君臨しているのは事実だ。
ここが四角いリングの上であったら、
ワタシは間違いなく、タコ殴りされているところだろう。
でも……。
恐れてはならない。
怖がってはいけない。
確かに肉体同士をぶつけ合うということであれば、
ゴンダワラは、元ボクサーであることを証明するような、肉体である。
ワタシの方が若いとは云え、
肉体勝負ではどう考えても分が悪い。
だが、今の戦いは肉体のぶつけ合いではないのだ。
気力と精神力、そして、頭の勝負なのである。
だから、ワタシは恐れてはならないのだ。
恐れ、戸惑ってしまったら、その時点で負けなのだ。
ワタシは、ゴンダワラの目を捉え、ゆっくりと言葉を吐き出した。
ワタシ
「ワタシが気になっている点。
それは、この問題があなたの問題である、
先程からそう強く主張している点です」
ゴンダワラ
「あん?
当たり前じゃねえか! 」
ワタシ
「当たり前、ですか?」
ゴンダワラ
「そうだ、当たり前のことだ。
バカか、オマエは?
大体、アケミちゃんが今回の件で相談してきて。
相談たって、訳のわからんヤツから因縁ふっかけてこられたって。
そんなこと云われたら、男として黙っちゃいられねぇだろ?
アケミちゃんの問題は、オレの問題だ!」
ワタシ
「……そうですか。
ハヤシバラさんの奥さんの問題は、
ゴンダワラさんの問題でもありますか」
ワタシは、ハヤシバラの奥さんの方を向いた。
彼女に言葉をかける。
ワタシ
「ハヤシバラさん。
今のゴンダワラさんの言葉を聞きましたか?
……聞きましたよね?
ゴンダワラさんは今回のこの問題は、
ハヤシバラさんだけではなく、ご自分の問題であると、
そう思っていらっしゃるようです」
ハヤシバラの奥さんは、不安げに横にいるゴンダワラに、
救いを求めるような視線を送っていた。
ゴンダワラ
「だから、何なのだ?
オマエは何を云いたい?」
ワタシ
「ワタシが何を云いたいかってよりも、
今回のハヤシバラさんの問題は、
ハヤシバラさんだけではなく、
ゴンダワラさんも深く関わっている、と。
そう仰ったことが重要なのですよ」
ゴンダワラ
「はあ?
さっきからオマエの云っていることは、意味が分からねぇ!
なあ、モリさんよお。
アンタ、こいつの云ってること分かるか?」
ゴンダワラから、急遽、話を振られたモリであったが、
モリといえば、曖昧に笑い、「彼特有のジョークのつもりなのでしょう」
と返したのだった。
ゴンダワラは、こちらの真意など度外視し、
モリの言葉をそのまま受け取ったようだ。
ワタシに向かって「オマエは冗談で話をしているのか!」
と詰め寄ってきた。
自分自身で話を勝手に誤解する、猪突猛進型の人間は、
非常に困るタイプの人間である。
ワタシは呆れ顔で、云った。
ワタシ
「……冗談もジョークもウィットも、そんなのは一切云ってませんよ。
最初から最後まで、真面目に話をしています。
要するにワタシが云いたいのは、ハヤシバラさんの件では、
ゴンダワラさんも連帯責任を負っていただけるのですね、
と云うこと一点だけ。
ただそれだけですよ」
……続く
2008.7.7 月曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十二話 「操り人形」
――ゴンダワラは、ワタシをにらみ続けた。
いら立ち混じりに、シルバーのジッポーでタバコに火をつけようとしたが、
何度とフリント・ホイールを回しても、ジッ、ジッと音がするだけで、
着火することはなかった。
おそらく、オイルでも切れたのか。
それとも、火打石が消耗して役に立たないといったところだ。
何度も、何度も、親指でホイールを回す。
だけど、火はつかない。
空回りするだけのホイール。
ただ指だけが、痛くしびれる。
彼の苛立ちは、火すら起こせない現実に極限を迎えたのだろう。
ゴンダワラは、「ちっくしょう!」と人目をはばからず罵ると、
手にしていたシルバージッポーを、投げ捨てた。
ジッポーは床に叩きつけられ、がちゃりと乾いた音を立てる。
ハヤシバラは「ひぃ……」と曇った声をあげた。
モリは、「会長どうぞ」と自分の持っていたライターで火をつける。
ゴンダワラは、黙って火をもらい、 タバコをくゆらせた。
その時のモリの表情――。
ライターの火を消したときの、あの男の顔――。
ワタシは、それを見逃さなかった。
モリ
「……ふふふ」
――モリは、笑っていたのだ。
明らかにモリをバカにしている表情。
ひっそりと企むように、ほくそえんでいた。
ただゴンダワラにおべっかを使い、追従している男。
モリに対しては、少なからず忠誠心をあらわにしている男。
それがモリに対するイメージだった。
あの男の存在など、その程度に過ぎないと思ったのだが……。
だけれども、それは違った。
モリは、ゴンダワラのことなど、簡単に裏切るし、
第一、自分より上の存在だと思ってはいない。
操っているのだ、と思った。
ワタシは、この男の本性を見破った。
そして……。
ゴンダワラは、ラスボスではない。
知らず知らずのうちに、モリに操られている。
ただの操り人形だ。
――にらみを利かせたところで、操り人形など、怖くない。
ゴンダワラ
「何か、面白いことでもあったか?」
ゴンダワラは、ワタシの顔の変化にも苛立ちを増したようだ。
ワタシは、「いえ……別に……」と答えた。
ゴンダワラはワタシの答えに、まったく納得していない。
いろいろとワタシに文句をつけようとする雰囲気であったが、
そのような空気など、ワタシには関係がない。
バッサリと無視を決め込んだ。
ワタシ
「それはそうと、ゴンダワラさん。
連帯責任の意味、分かりますか?」
ゴンダワラ
「あん?
なんだよ、連帯責任ってよ!」
ワタシ
「連帯責任とは、連帯で責任を負ってもらうってことですよ。
今回の件では、ゴンダワラさんがハヤシバラさんと一緒に……」
ゴンダワラ
「はぁ?
一緒にって、なんだよ、一緒にって?」
ワタシ
「……ですから、
ハヤシバラさんと一緒に、
ウチが受けた損害に対する請求を被ってもらいましょう、
ってことですよ」
ワタシは、ハヤシバラ婦人を見た。
彼女は、下を向いたり、ゴンダワラの方を向いたり……。
彼女に話しかけた。
ワタシ
「よかったですね、ハヤシバラさん。
ご自分の損害について、一緒になって、請求を受けてくれる人なんて、
この世のどこを探しても、ただ一人だけですよ。
ここにいる、ゴンダワラさんくらいしか、いませんよ」
ハヤシバラは、声すらでない。
視線だけが、小動物のようにせわしなく動いていた。
ゴンダワラ
「おい、オマエ!
さっきから一体、何を云ってるんだ!?」
ワタシ
「何、ってご承知おきのことだと思いますが……。
連帯責任の話、ですよ」
ゴンダワラ
「はあ?
なんで、オレが一緒に請求なんて受けなくちゃならねーんだ?」
ワタシ
「……この問題が、アケミちゃんだけじゃなくて、
オレの問題でもあるって、そう云ってたのは、誰ですか?」
ゴンダワラ
「……」
ゴンダワラは、言葉を詰まらせた。
しかし、ここであの男が……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
7/4 14時
もう少しペースが早いとうれしいのですが。。。
ペースは、前々から、こんなものですか。
月2回くらい、ですね。
せめて週一くらいにはしたいなあ、と思ってます。
7/7 18時
更新が遅い!!
ちょうど、更新してたところでした。
酒でも呑んで、まったりしつつ、更新待ってくださいな。
2008.7.9 水曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十三話 「所詮は競売屋」
――ワタシとゴンダワラとの会話のなかに入り込む男。
それは、モリだった。
男は、ゴンダワラに向かって、云った。
モリ
「……会長、会長ってば。
余計なことなんて、なーんも考えることなど、ありませんよ。
彼の云うことなんか、間に受けちゃ駄目ですよ。
彼なんか、所詮(しょせん)は競売屋なんですから。
人の不幸の競売なんかで飯を食ってる、
ただそれだけの存在なんですよ、彼らってば」
話をしている会話の内容はともかくとして、
モリは饒舌(じょうぜつ)に語り始めた。
ワタシの多少の攻撃に、
反論の言葉が出てこなかったゴンダワラであったが、
モリの加勢に励まされたのだろう。
「そうだな、うん、そうだ」といかにも納得した風にひとりごちた。
おそらく、自分自身を納得させているのだろう。
モリは、続ける。
モリ
「競売屋はいつも、難癖つけるしか脳がないし。
いわゆる、難癖脳なんですよ、思考回路が。
頭んなかが、そんな感じでパッパラだから、
そこには生産性もへったくれも、ありやしない……」
……競売業者に対して、モリは云いたい放題だ。
難癖脳なんて言葉、はじめてきいた。
ゲーム脳とか、そんなところから着想を得た造語だろうか。
何か恨みでもあるかのごとき悪意が、ひしひしと伝わってくる。
しかも、この男の刃は競売業者だけではなく、
ここにいるワタシ個人に向けても、放たれたのだった。
モリ
「……しかも、彼なんかは、
そんな難癖脳しか持っていない競売屋の、
そのまた丁稚(でっち)ですよ、丁稚。
丁稚風情が何を語るか、ってなものですよ、会長!」
……ワタシは、丁稚、か。
丁稚風情なんて言葉、はじめてきいた。
しかも、悪意がありありとした、
罵倒の意味が込められている、ときたもんだ。
まあ、ワタシが下っ端だと強調したいのだろうが……。
その言葉に対して、ワタシは、腹立ちよりも、
ツッコミを入れたくて、入れたくてたまらなかった。
「江戸時代かよっ!」と心の中で、ツッコミを入れておいた。
それにしても、モリの言葉は、とまらない。
言葉は、ワタシに直接向けられた。
モリ
「へい、彼!
さっき、会長に向かって云ってたよね?
何だっけ?
あ、そうだ、そうだ。
連帯責任がどうとか……。
あのさー、彼。
云ってること、おかしくない?」
ワタシ
「云ってることがおかしい、といいますと?
何がおかしいんですかね?」
モリ
「はぁん? おかしいだろっ!
おかしいこと、ばかりだよっ!
すべてが全体的にパーフェクトにおかしいっ!
連帯責任を問うって発想自体が、ナンセンス!
ナーンセンス過ぎるんだよっ!!」
モリは、ツバを周囲に撒き散らした。
ワタシの方までは幸いにして届いていないようだったが、
しかし、この部分ではゴンダワラは被害者となった。
モリの隣に座っているゴンダワラの顔のあたりに、
ツバがシャワーのように襲い掛かっているのが、見えた。
ゴンダワラは、非常に嫌そうな顔をしていた……。
……続く。
2008.7.10 木曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十四話 「ナーンセンスっ!」
――ナーンセンスっ!
モリがこの言葉を発するたびに、飛び散るツバ。
そんな様こそ、まさしく、ナンセンスと云うものであろう。
モリ
「……連帯責任と云うのは、その名のとおり、
連帯して、責任を負う、ってことだよね?
この場合、ハヤシバラさんとオーナーが一緒になって、
連帯して、責任を負う、と……」
恐らく、しゃべり続けているうちに、
段々と恍惚の感を覚えているのだろう。
モリの顔には、その快楽にも似た表情が、隠されることなく表れていた。
いや、モリ自身としては、そのような顔など、
誰にもバレないように完全に隠している、と思い込んでいるフシがあるが、
しかし、実際はどうだろう。
もう、そのような顔など、ワタシから見たら、バレバレだと云ったところだ。
表情の変化を完全に隠すのは、難しいだろうが、
だけれども、自分だけは完璧にポーカーフェイスができると……。
人間と云うものは、得てして、かくの如き思い込みをしがちだ。
そして、自分自身でそれを理解しているかどうかは、ともかくとして……。
この男のしゃべりが止まることはなかった。
モリ
「でもね、彼、この話っておかしくない?
いや、おかしいのよ。
たとえば、誰かが殺人事件を起こして、捕まったとする。
確かに、殺人を手伝ったとか、ウソのアリバイの証言をしただとか、
そんなことをしちゃって、その事件の共犯的な関係だったら、
そいつには、当然、責任があるよね?
その場合は、連帯責任ってものだけど。
でもね、じゃあさ、その殺人事件を起こした犯人の、
プライベートな相談相手とかはどうよ?
殺人とかの話はしてねぇぞ。
そうじゃなくて、普通の、一般的な相談。
家族関係が上手く言ってないとか、旦那がろくに金を入れない、とか。
そんな程度の話をされた相談相手でも、殺人の共犯にされちゃうのか?
連帯責任で処罰されちゃうか?
一体、どうなのよ!
そこんところはどうだっ!?」
モリの力説に、ゴンダワラは、顔に飛び散ったツバを、
後ろのポケットに無理矢理突っ込んでいた、
ハンドタオルを取り出し、それで顔をゴシゴシと拭いていた。
拭きつつも、顔はうんうんと上下している。
――ワタシは、云った。
ワタシ
「……まあ、警察に話は訊かれることはあっても、
処罰は、されないでしょうね」
モリ
「そうだろ、そうだろ?」
モリはワタシから、彼なりに想定した言質を取った……。
そう思っていたのだろう。
至極、満足気な表情を浮かべた。
何かをやり遂げたような、達成したような……。
その顔は、今日、ワタシが見たなかでは一番の、
人間の出しうる表情のなかで、最もいやらしい顔だった。
モリ
「だけれども、彼が云ってることは違うんだよね。
ねえ、そうだよね?
彼の、その、奥さんと論法でいくと、
殺人事件の犯人から、プライベートの相談をされた、
ただそれだけであっても、警察に逮捕されちゃうってことでしょ?
それってアリだと思う?
……ないでしょ?
おかしいでしょ?
いや、おかしいなんてものじゃあないっ!
そんなもの、考えられないくらいに、おかしいっ!
……ナーンセンスだっ!」
ワタシ
「……なるほどです、ね?」
モリ
「おかしい、だろ、おかし過ぎだろっ!?」
……そうだ、おかしなことだっ!!
ここで、モリとワタシ以外の人間が、話に割り込んできた。
この人間は、もちろん……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
7/10 10時
展開が楽しみです!
楽しみにしてください。
ある程度、現実に即した話なので、
めちゃめちゃ派手な結末ではないですけどね。
7/10 15時
更新が早くなったありがと。けど、展開が遅い!!
展開が遅いのは昔からの仕様です。
あきらめてください。
2008.7.14 月曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十五話 「法律家の先生」
――この人間とは、もちろん、ゴンダワラである。
ゴンダワラは、他者を威圧するような大きな声で、
会話の中に入り込んできた。
その様は、まさしく、サイドミラーで他の車の確認など一切せず、
「アタシが動くから、他の車は絶対に入れてくれるでしょ!」
的な感覚で、強引な割り込みをしてくる、
無謀運転のペーパードライバーのようでもあった。
ペーパードライバーは、クラクションを鳴らし続けるかのように、
「そうだ、そうだ!」と云った。
ゴンダワラの声は、国会中継でありがちな、
下品極まりない野次のようにも聞こえた。
ゴンダワラ
「……そうだ、それは、そのとおりだ!
モリセンセーのいうとおりだ!」
……んっ?
ゴンダワラは、モリのことを称するに「センセー」だ、と。
その「センセー」発言を聞いたワタシは、
ゴンダワラのことを、なんとも調子のいい人間だ、
と思ったのであるが……。
少し、引っかかるところがあった。
ゴンダワラ
「……流石は、モリセンセー。
法律家の先生の云うことには重みがある!」
――ゴンダワラは、確かにそう云った。
モリのことを「法律家の先生」だ、と。
センセーという呼称であれば、
ゴンダワラはなんて調子のいい言葉を云っているのだろう、
とそのまま受け流して終わりだったが、しかし……。
「法律家の先生」、か……。
ゴンダワラ
「……どこぞの競売屋風情とは違ってなっ!」
ゴンダワラはゴンダワラなりに、どこぞの競売屋などと、
ワタシのことを貶(おとし)めた発言をしたいように思われた。
だが、そんな言葉は、どうでもよかった。
それよりも、反応すべき言葉が見つかったのだから……。
ワタシ
「……」
ワタシの沈黙をこれ幸いと、感じたのだろう、
ゴンダワラは、口を閉じることを忘れたかのように、話し続けた。
このとき、無言でいたワタシを、恐らく人間サンドバックだ、
とでも思ってたのかもしれない。
人間、自分の攻撃のターンだ。
しかも、自分の攻撃の勢いの方が敵より、圧倒的に勝っている。
言葉だろうが、なんだろうが、フルボッコにすべし!
フルボッコにすべし!
……などと、思い込んでいるのだろう。
モリ
「……オーナー、それほどでもありませんよ」
……と云いつつも、モリはゴンダワラにおだてられたことに、
まんざら悪い気になるわけがなく。
ゴンダワラ
「ほら……。
ほらっ、ほらっ、ほらっ!
連帯責任?
なに、それ?
そんな意味のわからん責任なんて、クソ食らえだ。
そんなもん、こっちにまで、押し付けてくるなよ!」
ゴンダワラの、しゃべるその顔に……。
快感にも似た恍惚の笑みが生まれていた。
それをワタシは見逃さなかった。
先程のモリといい、今のゴンダワラといい……。
それが人間だ、そんなもんだ、と思いつつも……。
だけれども、自分は話しているときに、
他人にこんな顔を見せてはならんよな。
……なんて、自戒するわけだ。
古人いわく……。
人の振り見て我が振り直せ。
以って他山の石とすべし。
……重みのある、格言だ。
昔の人は、いいことを云ったものだ。
ワタシ
「……」
……もう、ゴンダワラの話は十分だ。
さて、と。
次はワタシの攻撃ターン、だな。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
7/10 18時
今日も更新されてる・・・暇になっちゃたの??とにかくありがとう!!
暇じゃないけど、気まぐれ更新です。
そのうち、ペースダウンする、と宣言しておきます。
7/11 11時
いつも楽しみにしてます。ところで、競売屋さんってすっごく儲かるの?
どうなんでしょうかね?
2008.7.15 火曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十六話 「この世で一番感情が分かりやすい男」
――ゴンダワラの話しぶりを黙ってきいていたが、
よくもここまで、自分の主張をコロコロと変えることが出来るものだ。
その変わり身の速さというものに、ある意味、感心する。
もっとも……・。
感心はしても、自分もそうあるべきだ、
見習いたいなどと云うことは、まったくないのであるが……。
ワタシ
「……そうですか。
連帯責任など、ある訳がない、と云うわけですね」
ゴンダワラ
「そうだ!
あるわけないだろうが!
モリセンセーの云ってのとおりだ!
それともなんだ?
オマエは、オレに連帯責任なんて訳のわからないものが、
絶対にあるって云いたいのか?
あるのか?
モリセンセーが違うって云ってるにもかかわらず……」
モリセンセー、モリセンセーと、
まるでお題目を唱えているようなゴンダワラ。
こちらを見下すようにして、問いかけた。
モリセンセーとやらが、そんなに偉いのか。
モリセンセーが云ったことは、すべて正しいのか。
そうなのか。
モリセンセーは、法律家、だからか。
法律家、ねえ……。
そのようなことを思いながら、ワタシは、ゆっくりと答えた。
ワタシ
「……ま、ないでしょうね」
ワタシの答えに、すっかり肩透かしを食ったようだ。
ゴンダワラは「あ……?」と声を漏らした。
恐らく、ゴンダワラの問いかけに対し、
ワタシは何らかの云い分を主張してくると思っていたのだろう。
だが、ワタシは、それこそあっさりと、
「ないでしょうね」とゴンダワラの話を全面的に肯定した。
その主張に反論を展開することは、まったくなかったのだ。
ゴンダワラは呆気に取られたかのような、
そんな顔をしていたが、それは一瞬の出来事であった。
ゴンダワラ
「……おいおい、あんちゃんよ!
オマエは、一体何が云いたいんだ?
因縁吹っかけてるだけにしか、聞こえねぇぞ!
それって……あれか?
やっぱ、こっちに何も云えないから、
腹いせで、あることないこと云ってみたって。
……そんな感じか?」
ゴンダワラの顔には、今まで以上に、
自意識過剰なまでの勝利の笑みが湛えられていた。
敵を完膚なきままに叩きのめした。
そんな勝利宣言、と云ったところか。
ゴンダワラ
「……ああん?
ほら、答えてみろよ!
……そこんところ、一体どうなんだよ、競売屋さんよぉ!」
この男は、感情の起伏が、分かりやすいほどに分かりやすい。
この男以上に、感情が表に出る人間など、
この世の中にいるのだろうか……。
ゴンダワラこそ、この世で一番感情の分かりやすい男だ。
まあ、そんなことは今は、いい。
ゴンダワラの発言を無視し、ワタシは、
ハヤシバラ婦人の向きへと視線を変えた。
ワタシ
「……ハヤシバラさん、今の、会長さんの発言、
ちゃんと聞いてましたよね?」
ゴンダワラ
「……おい!
今、話をしているのは、オレの方だろうがっ!
オレの質問に、ちゃんと答えろよっ!」
もちろん、何事かワアワアと喚いているだけに過ぎない、
ゴンダワラのことなど、完全無視を決め込むワタシだった。
……ハヤシバラは、何も答えない。
構わず、ワタシは、続けた。
ワタシ
「ハヤシバラさん……。
いいですか、世間ってものはですね。
結局、この程度のものなんですよ」
ワタシは、彼女の目が、
微かに大きくなったのを見逃さなかった……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
7/15 9時
このペースでお願いします。
このペースでいけるんでしょうかね?
自分的にすごく疑問です。
7/15 11時
最近更新のペースが速くて感動ものです。
でも、あんまり無理なさらないでね。
倒れない程度に頑張ります。
ただ、リアルな自分はすっかり風邪をひいてしまいました。
2008.7.16 水曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十七話 「物事の裏を読む」
――ハヤシバラ婦人は、ワタシの言葉に、
僅かながらではあったが、反応を見せた。
彼女の反応の色は――焦り、動揺。
ワタシの想像していた通りの色だった。
そして、ワタシが思うに……。
彼女の持つ、この色は、ますます濃いものになっていく、と。
ワタシは、再度、云った。
ワタシ
「……いいですか、ハヤシバラさん。
今、会長さん、そして、こちらの法律家のセンセーが云ってることは、
まさしく、その通りのことで、
ワタシも異論を挟む余地など、これっぽっちもありませんよ」
この場に居るワタシと対面していた三人は、
しばし、唖然とした顔をしていた。
「連帯責任だ、だから、一緒に責任を取らなければならない」
と云っていた人間が、
モリのただ一言、「連帯責任を負う必要など、ない」と云う一言で、
これまでの主張をいきなり、180度転換したと云うのだから。
ゴンダワラにせよ、モリにせよ、
ワタシがどう云った形であれ、反論してくるのは間違いない、
と踏んでいただろうに、それをまったくしなかったのだから。
それどころか、だ。
反論しないどころか、「それはその通り!返す言葉もございません」
とばかりに、相手の云い分を全面的に肯定しているのだから。
もっとも……。
通常の思考回路を持つ人間であれば、
敵対している相手が急遽、自分の意見に追従してくることがあれば、
その言葉の裏には、少なからず、何らかの意図がある、
と訝(いぶか)しむだろう。
物事は表面だけじゃない、必ず裏がある。
その裏にあるものは一体何なのだ?
こう云った思考パターンが、「物事の裏を読む」と云うヤツだ。
しかし、訝しむどころか、多少なりの疑義すら感じ取らない、
まっすぐ直線的にしか物事を捉えようとしない、考えようとしない、
頭の中が、おめでたさで一色の男がここにいた。
そう、ゴンダワラである。
ゴンダワラは、唖然とした顔など、これまた一瞬の出来事。
まったくの第三者が傍から見たら、憎々しいほどの傲慢さだ、
としか思えないような表情でワタシを指差し、笑った。
ゴンダワラ
「ぐわはははははっ!
そうか、競売屋のあんちゃんも、そう思うか?
そうか、そうか。
そうだったら、そうだな、うん。
それだったら、もう、話は終わりだよな?
おい、あんちゃんよ。
じゃあ、オレの云ってることが正しいってことならば、
それ以前に、今回の話について、前向きに考えろよ。
……この意味、分かるよな?」
……物凄い、主張である。
物凄いとしか例えようもないほどの、云い分だ。
仮に、ワタシが裏もなく、心の奥底から、ゴンダワラの、
そして、モリの云ったことに対して、
「それはその通りです」と答えたところで、
それが何故ゆえにこちら側の全面的降伏であると思えるのだろう。
――非常に不思議である。
その不思議さは、ある意味、不思議キャラとされるポジションで、
テレビやらラジオやらに出ている、不思議養殖ものの芸能人よりも、
よっぽど、飛びぬけている不可思議さ加減だと思った。
ゴンダワラは、ボクシングジムのオーナーであるのだが、
ガッツ石松あたりをもっと、短絡的思考にさせたような人物だ、
と称するのが適当な表現なのだろう、きっと。
ワタシ
「……はあ、凄い仰りようですね」
ワタシの方こそ、唖然呆然ですよ、はい。
一応、続く言葉は、ワタシの胸の内に閉まっておいた。
大人だし。
ゴンダワラ
「……だから、分かったんだったら、
分かりました、とだけ云えばいいだろ?」
更に追い討ちをかけるように、まくし立てるゴンダワラ。
考慮するのは自分のことだけ。
こちらのことなど、一切考えてない。
そのゴンダワラの考え方については、
いやはや、ここまで来ると、脱帽の一言だ。
だが、流石に多少は、ワタシの発言に対して、
疑問を持ったのだろう。
それを口にする男もまた、この場にいたのであった……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
7/15 18時
攻撃ターン楽しみすぎ!!早く更新してくれー!!
攻撃します。
でも、また相手がどう反応するのでしょうか。
そのあたりは、続きを待っててください。
2008.7.17 木曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十八話 「ジャイアン的発想」
――単純な引き算だ。
ワタシと対面しているのは、男ふたりに女がひとり。
今、ノリノリでワタシにまくしたてているのが、
ゴンダワラだとしたら、そこから引き算すれば、
男はひとりしか、残らない。
もちろん、モリである。
モリ
「……ねえ、彼?
彼は一体、何が云いたいんだ?」
「センセー」だの「法律家の先生」だの、
そんな風に云われている男である。
流石に、何かあるのかもしれない、と踏んだのだろう。
もっとも、別にセンセーだろうが、センセーじゃなかろうが、
普通の人程度の常識と経験があれば、
物事の裏を読むだろうが……。
ワタシが答える前に、ゴンダワラが遮る。
ゴンダワラは、モリに向かって、笑いながら云う。
良いも悪いも、豪快としか表現できないような、
そんな笑いであった。
ゴンダワラ
「ぐわはははははっ!
センセー、何もないんだよ、何も。
このあんちゃんには、なーんもなくて。
なーんも云えないから、オレの云ったことに、
はいはい、その通りでございます、
としか云えないんだよ!!」
ゴンダワラ……。
この男と云うヤツは……。
先程、「連帯責任」と云うキーワードで言葉を詰まらせたことなど、
もうすっかり忘れてしまったかのようだ。
それどころか、オレの云ったことだ、
とすべてが自分の手柄のように云い切る、ゴンダワラ。
おめでたいと云うか、何と云うか……。
全部がジャイアン的発想なのだ。
オレのものは、オレのもの。
オマエのものも、オレのもの。
そして、オレの手柄は、オレのもの。
オマエの手柄も、オレのもの。
そんな発想。
そんな全力疾走でポジティブシンキングできる、
ボクシングジムオーナー。
……ある意味、うらやましいかもしれない。
モリ
「……オーナー。
もうね、そりゃあ、オーナーの仰ることが、
そのまんま、一番正しい、ってのは、
太陽を中心として地球を回っているくらい、
当たり前と云えば当たり前なのですが……。
だけど、まあ、彼の方もね。
何か云いたいことがあるのではなかろうかな、と。
そんな風に思ったりするわけなんですよ」
ゴンダワラ
「ぐわははははははっ!
センセー、それは、ないない。
ないよー、そんなの。
そんなのあったら、もうすでに何か云ってるよ!
なーんもないから、云ってないってこと。
何だっけ。
こういったのは。
パーっとも云えないだったっけ?
パーの音も出ない、ってヤツ」
……それを云うなら、グーの音も出ない、だろ?
そりゃあ、グーとパーでは、パーの方がじゃんけんで勝つ、
と云うものではあるが……。
しかも、わざと間違えていると云うのではなく、
本気で云っているところが、何とも、薄ら寒いものだ。
モリ
「いえいえ、オーナー。
僕もね、問題はまったくないと思いますし。
先程云いましたとおり、
彼はオーナーにノックアウトされたも同然だと、
そこのところは、オーナーの仰るとおりなんです、が。
でも……でもです、ね。
やはり、気になると云えば気になるんですよ」
ゴンダワラ
「……気になるって、なにが?」
モリ
「ですから、彼の、発言ですよ、発言。
彼が分かりましたとか云ってること。
そのあたり、全般について、ですよ」
ゴンダワラ
「そんなに、気になる?
気になるかぁ?
だって、この男はね、認めてるんだよ。
オレの云ったことが全部正しい、って。
その通りです、って。
それのどこがおかしいんだ?」
モリ
「だから……」
モリとゴンダワラの間で、
頭の悪そうな会話が繰り広げられている。
行き違う言葉の多いことよ。
しばし、ふたりの男たちの、
不毛な言葉のやり取りを目の前にしていたが……。
自分の思い通りに話が展開しているな、
とほくそえむワタシであった……。
……続く。
<WEB拍手のお返事>
7/15 20時
かんばれがんばれ追い出し屋G!
死なない程度に頑張ります。
2008.7.18 金曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百三十九話 「特性」
――ふたりの、不毛なやりとり。
そんなやりとりを不安げに見つめる、ハヤシバラ婦人。
意味のない会話は、そのまま立ち消えになれば、
無駄にしたのは時間だけと云う結果になろうが、
しかし、そう単純なことには納まらず……。
ゴンダワラは、自分の意見が何故分からないのだ?
とでも云いたげに、モリに詰め寄っていくのであった。
ゴンダワラは、隣に座っているモリに、云う。
ゴンダワラ
「……センセー。
いや、モリさんよ。
ちょっとなんで、オレの云ったことに対して、
そう突っかかってくるのかな?」
……ゴンダワラは怒りの色を浮かべていた。
怒っている。
この男は、怒っている。
モリ
「……はあ。
いや、だけど、オーナー。
こっちも商売としてやっている以上は、
万全とした体制で行わなくちゃならないし。
そのためには、相手方の意図ってのをしっかり知らないと……
」
モリの云い分はもっとも、だ。
対立姿勢を取っているワタシの目からしても、
モリは、ゴンダワラに対して、
表面上においては、牙を向けてはいないだろう。
でも、ゴンダワラは、納得しない。
まったく納得しない。
これまでのモリとゴンダワラの会話を振り返ってみると、
モリは、ゴンダワラを効果的に利用するために、
褒め殺しかと思うくらいに、褒めて褒めて、褒めまくっていた。
心の中では、ゴンダワラのことを小馬鹿にしていても、
形上は褒めたり、なだめたりすることで、
見せかけだけかもしれないが、
パートナーシップを築くことには成功している。
……少なくとも、モリはそう思っていたはずだ。
ゴンダワラ
「…・・・相手方の意図?
何、それ?
そんなもの重要なんか?
オレだってさぁ。
忙しいところを、こうやって時間作って、話したりしてるんだからさ。
競売屋のあんちゃんが、分かりましたってんだったら、
それでよくないか?
……違うか?」
だが、モリの考えとはだいぶ異なり……。
ゴンダワラにとっては、そんな関係など、
金魚すくいのポイみたいなものだとしか思ってないのだろう。
水に入れたら破れてしまうくらい、
薄っぺらな……そんな程度のもの。
センセー、センセーと云っていたところで、
少しでも自分が気に入らないところがあれば、
すぐにへそを曲げて、ムッとする。
へそを曲げて、不機嫌な顔になるくらいだったらまだしも、
ことはそれだけでは納まらない。
味方にまで牙を剥き、攻撃してくる……。
そして、ここがポイントだ。
攻撃をしかけてくる怒りの沸点が、
あまりにも低すぎだし、しかも、どこに着火点があるのかが、
普通の人の感覚と外れ過ぎているところが、
ゴンダワラの持つ、特性のひとつなのだ。
ワタシは、ゴンダワラのこれまでの言動を見ていて、
この攻撃的な特性を見抜いていた。
視野の極端に狭い、猪突猛進型思考回路の人間に、
よくありがちなパターンだからだ。
この手のタイプの人間は、敵に対してはもちろんのこと、
味方に対しても、何かあれば、これまでの関係とは一転して、
攻撃態勢に入る。
しかも、何かあればの何か、は、ちょっとしたことでいい。
云い争いのきっかけなど、何でもよく。
むしろ、仲間だからこそ、怒りの炎の増幅が図られる。
火種さえ作ってやれば、後は勝手に燃え上がってくれるのだ……。
……続く。
2008.7.22 火曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百四十話 「……る、さい」
――ゴンダワラは、不機嫌だった。
そして、モリも不機嫌だった。
不機嫌な者同士が話をすると、更に不機嫌の度合いが色濃くなる。
彼らは、仲間だと云うのに、こんな有様である。
モリ
「いやいや、オーナー。
良いとか悪いとか、そういった問題ではなく……」
ゴンダワラ
「だったら、どんな問題だって云うんだ?」
モリ
「先程も云いましたとおり、
ここにいるのは、ひとえにオーナーのためにいるんですよ?
だから……」
――争いの火種は、小さな種火から、大きくなりつつある。
もっとも、その種火を作り出したのは、ワタシではあるが……。
ゴンダワラ
「……オレのため?
オレのためにいるんだったら、それだったらさぁ。
もっとさぁ、こっちの云ってることを、ちゃんと、
それこそ、ちゃんと理解してもらいたいんだよね。
モリさんよぉ……」
モリ
「……」
ゴンダワラ
「……ちゃんと、理解したか?」
モリ
「……る、さい」
ゴンダワラ
「……何だ?」
モリ
『……る、さい、って、云ったんだよ」
ゴンダワラ
「……はぁ?」
モリ
「うるさいって、云ったんだよ!」
モリは、バンと机を叩き、立ち上がった。
にらみつけている。
にらみつけている相手は、ゴンダワラである。
モリはオーナーに反旗を翻したのだった。
モリ
「……さっきから、ガタガタガタガタ云いやがって!
しかも、こっちが喋ってるんだから、アンタは黙って、
はいはい、はいはい、云ってればいいんだよっ!
だから、最初からオレは、アンタみたいなヤツを、
引き込むってのは嫌だったんだよ!
アンタみたいな、筋肉バカは、黙ってればいいの!
筋肉だけ鍛えておけば、それでいいんだって!
下手に考えるようなことをするから、
話がさあ、あっちに行ったり、こっちに行ったりで、
ふらふらふらふらしちゃうんだって!
だから、オレが訊いてるんだから、
アンタは黙って、うんうん、頷いていればいいんだよ!」
ゴンダワラを「オーナー」と云っていた先程までとは、
打って変わって、モリは、ゴンダワラに対する、
罵倒の言葉を一気にまくし立てた。
彼からしてみれば、突然とも云える出来事に、
ただただ唖然とするゴンダワラ。
ゴンダワラのくわえるタバコから、灰がポトリと落ちた。
灰皿ではなく、机の上に落ちたが、気づかないようだった。
それだけの、呆然っぷりであった。
ハヤシバラ婦人も、驚きのあまり、目を見開いている。
ワタシだけが、驚きもせず……。
口元が緩むのを、何とか隠していたのだった……。
……続く。
2008.7.28 月曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百四十一話 「想定の範囲内」
――反旗。
謀反。
下克上…・・・。
ゴンダワラの頭の中には、その手の言葉が色々と浮かんだろう。
通常の場合、自分が手下だと思っていた人間に、
いきなり手のひら返しされたように、
「うるさい、黙っていろ」と云われたら
、そう考えるだろう。
これは裏切りである、と。
自分を敵に回している行為だ、と。
もっとも……。
ゴンダワラは、ボキャブラリーが貧困そうであるので、
そのような言葉など、頭の引き出しになさそうだ。
それ故、そう云う言葉自体は、思いつかなかったかもしれない。
だが、ひとつ云えることは、茫然自失の状態から、
いまや、怒り心頭に発したゴンダワラの顔色は、
赤を通り越して、黒くなりつつある、と云うことだ。
ワタシの起こした小さな火種は、
ゴンダワラとモリとの間を隔てる、大きな炎の壁となった。
ワタシは、程度の差はともあれ、
彼らの間を決裂させるきっかけは作るべく、話をした。
だから、ワタシは、この状況がこうなる……。
今の事態を想定していた。
今更ながら、恥ずかしげもなく云ってしまうと、
いわゆるひとつの、想定の範囲内。
それに尽きる。
だが、ここまで大きな、大きな壁を作ることができ、
効果的に、仲間割れを誘導させるだなんてことは、
思ってもいなかったのだが……。
大きな成果に、ワタシは笑いを押し殺していた。
ゴンダワラ
「……」
モリに向かって、何か云い返す言葉を見つけようとするが、
頭の中を幾ら巡らせても、思い通りの言葉は見つからず……。
ただ、ギョロギョロと世話しなく、目の玉を動かすばかりであった。
そんなゴンダワラに対して、モリは、
自分の言葉が過ぎた、云い過ぎた、と思ったのかもしれない。
しかし、この場でゴンダワラに詫びを入れても、
状況は変わらないと思ったのだろう、恐らく。
いや、むしろ、ゴンダワラを刺激し、悪い方向へと向かう、
と踏んだのだろう、恐らく。
モリは、大きく咳払いをした。
ゴンダワラの件はこれで終わりだ。
この場の雰囲気を変える、と云わんばかりに……。
モリ
「……あー、それで、なんだ。
大体、その、彼が云ったこと……」
モリは、ワタシに向かって、云う。
モリが着こなすアイビールックの、
金のエンブレム・ワッペンが光ったように思えた。
何に照らされて、光ったのだ?
それは、憎しみの炎、か。
ワタシ
「……ワタシの云ったこと、ですか?」
ワタシは、すっ呆けてみた。
悪意の欠片もないですよ。
善意の人間ですが、アナタの云っていることは、分かりません、と。
モリは、苛立たしげに、云う。
モリ
「さっきの……彼の言葉だよ。
ほら、彼が、オーナーの言葉を丸呑みして、認めた……」
ワタシ
「あー。
はいはい、あれですか、はい」
ワタシはゆっくりと答えた……。
……続く。
2008.7.31 木曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百四十二話 「真の意図」
――ワタシはゆっくりと、答えた。
ワタシ
「……大したことではありませんよ。
ゴンダワラさんの云ったことが、その通りだと思ったからこそ、
そうですね、その通りですね、と。
ただ、それだけですよ」
そして、ワタシは――。
それに対して、深い意味はないです、と付け加えた。
モリは非常に怪訝そうな顔をする。
そんなことはないだろう、と。
意味があっての、同意だろう、と。
モリの表情から考慮するに、そういうことだ。
ワタシは心の内で思う。
――そりゃ、そうだよ。
時に言葉には、何らかの意図があって、発せられる場合がある。
モリに云われるまでもなく、ワタシの言葉の裏には、
確かに意図は、あった。
大体、隠されている真意があったからこそ、
その見えない意図に導かれるようにして、
今の事態が起きているのではないか。
仲間内での不信感を増大させる――それが真の意図。
ワタシに訊くまでもなく、
言葉の内に意図が含まれていてしかるべき、
と考えればいいのに……。
更に云えば、ゴンダワラの性格までを考慮して、
自分の我を抑えてでも、発言すればいいのに。
ってか、それくらいのことだったら、察しろ、
と敵のことながら、思うワタシであった。
モリ
「……ふん、まあ、いいや」
モリは、大げさに手を上げ、天を仰いだ。
アメリカ人並みの、オーバーリアクションだ。
顔には、納得いかない、苛立ち気な色が浮かんでいた。
ワタシは、ゴンダワラの発言に対して、
表面上とは云え、全面的に認めましたよ、と云ったのだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
そのようなワタシの対応に、モリは「もう、いい」としか、
云いようがないのは、ある意味、仕方のないことである。
だけれども、そのモリの発言に、
更に納得のいかないような顔をしている男がいた。
もちろん、ゴンダワラである。
ゴンダワラは、先程から、盛んにタバコに火をつけ、
口にくわえたと思ったら、灰皿で揉み消し、
またタバコに火をつける、と云ったような、
苛立ちが引き起こしているとしか思えない、
無駄な無限ループを繰り返していた。
肺ガンルート、一直線である。
彼の視線の先には、ワタシでもなく、モリでもなく、
ましてや、ハヤシバラ婦人がいるわけでもなく……。
ただただ、そっぽを向き、誰もいない宙をにらんでいた。
モリ
「それはそうと……彼さ。
ここから、この話し合いの決着は、
どうつけよう、って思っているんだ?」
ワタシは、これまたゆっくりと答える……。
……続く。
2008.8.6 水曜日
対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編
第百四十三話 「無理!」
――ワタシは、モリの目を捉え、云った。
ワタシ
「……これからの決着?
ワタシが、ウチの会社がどう考えているか?
それは先程から、と云うか、ずっと前から云ってることです。
この話は、とても単純な話なんですよ。
ただ単に、ウチの会社の所有物にいらっしゃる、
ハヤシバラさんにご退去願う。
それ以上でもそれ以下でもありませんよ」
モリ
「おい、おい、おい、おい……」
モリは、またもや、オーバーリアクション気味に、
手のひらをそよがせた。
自分には、アメリカ人の血やらDNAでも入っている、
とでも思っているのだろうか。
よくは分からないが、顔も行動も……。
やることなすこと、すべてくどい。
モリ
「もうさ、そう云うことは分かってるわけじゃん。
お互いにさ。
それで、単刀直入に、ズバっと、これを解決するに、
どうするんだ?
ってことを訊きたいわけよ、こっちは」
ワタシ
「ですから、退去してもらえれば、
それでいいですよ、ってことです」
モリ
「だから、分からないのか?
さっきから、ってか、前々から思ってたんだけど、
彼はちょっと、鈍チンなんじゃないか?」
もちろん、相手が何を云いたいのかは、分かっている。
相手の要求は至ってシンプルだ。
今は亡き占有者ハヤシバラが交渉に臨んできたときから、
再三再四、云っていること。
要求しているモノ。
――金、だ。
それも多額の、金。
幾ら金を出して、出て行かせる?
だけど、こっちにはこっちの都合ってものがあるから。
金があっても、あっても、全然足りない。
金を貰わなければ、こっちも出ようがないから。
で、金は幾ら、出す?
この手の人間は、いつもそうだ。
色んな表現や感情を使ったとしても、
とどのつまりは、金を遣せ、と。
これだけしか、ない。
金、金、金、金、金……。
これに尽きる。
ワタシ
「はぁ……。
まあ、そちらが何を要求したいのか、
それは無論のことながら、分かってはいますけれども。
だけど……。
それは無理ですね。
無理!」
あと、もう、ひとつ付け加えてるならば。
そんなアイビールックにバラ一輪みたいな、
時代錯誤なんだか、宝塚男バージョンなんだか、
コンセプトの分からないファッションの男から、
これまた「ナウでヤングな」みたいな云い方の、
「鈍チン」なんて言葉を使って貰いたくは、ないよ。
まったく……。
……続く。