レフォルマ 不動産競売必勝攻略法

    

 




対決!追い出し屋G 対 抗告屋 編

好評連載中!


物件: 木造二階建 戸建

場所: 東京都下

家賃: 15万円

占有者: 老夫婦

占有認定: 賃借人



  

 

2005.08.13 土曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第一話 「抗告屋」



――あなたは、抗告屋を知っているだろうか?



知っている人もいれば、知らない人もいるだろう。

当然のことだ。

だが、そんな言葉なんて、初めて耳にした、

なんて、知らない人の方が断然多いはずだ。

抗告屋は、商売のひとつである。

しかし、駅前のビルに看板を掲げている訳でも、

商店街に店を構えている訳でもない。

普通に生活している分には、

ほとんど関わり合いがない商売だから。



世の中には、いろいろな商売がある。

ある人からある人にモノが渡り、

その対価として金銭が支払われる。

モノは別に形ある物質でもなくてもいい。

目に見えないサービスと云う形で提供される場合もある。

商品として、モノないしはサービスが与え、

その代わりにカネを頂戴する。

それが商売の本質である。



もちろん、商売の種類も多種多様だ。

多額のカネが動く大きな商売があれば、

ちょこちょことした小遣い程度の小さな商売もある。

誰もが知ってるようなメジャーな商売があれば、

あまり知られていないマイナーな商売もある。

陽の当たる王道を突き進む商売があれば、

日陰の内で蠢(うごめ)いている、ニッチな商売もある。

抗告屋はすべて後者にあたる商売である。

一言で云い切ってしまえば、

アンダーグラウンドな仕事だ。



抗告屋――彼らが扱う商品は、

”執行抗告”である。

執行抗告とは、簡単に云ってしまえば、

裁判所の判決に対しての不服申立てのことだ。

それでは納得がいかないから、

到底承服出来ないから、と裁判所にもう一度、

判断するよう、申し立てる。

抗告屋はあらん限りの法的手段や、

実力行使を用いて、可能な限り、

占有者が競売不動産から、

立ち退きされるまでの時間を引き延ばす。

それがこの商売のキモである。



裁判所に執行抗告を訴えることは、

法律行為に当たる。

したがって、執行抗告が出来るのは、

当事者である本人か、その代理人である弁護士だけだ。

では、抗告屋は、弁護士なのか――。

その答えは、イエスであり、またノーでもある。

抗告屋の全員が全員、違うとは断言出来ない。

時として、弁護士が抗告屋の役割を果たす場合もある。

もっとも、そのような弁護士は、

自分が抗告屋だと思ってはいないだろうし、

そのようなことを云われる筋合いは、

全くないと思っているだろう。

彼らは彼らなりの、正義を基にして、

法律を武器にしている。

正義は我にあり。

ただ、その正義は、相対する人間からしてみれば、

正義と呼べる代物ではない。

状況が異なれば、立場も異なる。

弁護士であろうが、なかろうが、

抗告により実害を食らう側としてみれば、

抗告屋は抗告屋だと云うことだ。



では、抗告屋は少なくとも、

占有者にとって、利益をもたらす存在なのだろうか。

その答えは、果たして……。



今回は――そんな抗告屋と、占有者たる一組の老夫婦。

そして、追い出し屋との物語である……。



……続く。



<おまけ日記>


新シリーズのはじまりです。

今回、追い出し屋は、執行屋と対決します。

ただ、更新速度は、

ちょいとまったりとしていると思われます。

気長にお待ち下さい。

また、近々、メルマガも発行します。

それではお返事です。


8/13 14時
まってました!


いよいよ、新シーズンがはじまりました。


それでは引き続き、ご愛顧の程、宜しくお願いします。

 

2005.08.14 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第二話 「追い出し屋」



――ワタシは、ヒガシタニ ゴロウ。

不動産会社に勤めている、サラリーマンだ。

もっとも、サラリーマンと云っても、

実力主義の世の中を先取りと云った感で、

報酬は歩合の割合が多い。

その意味では、サラリーマンの色より、

独立事業主の色合いが、だいぶ強いと云えよう。



また一口に不動産会社と云っても、

その実、さまざまである。

不動産会社としてスタンダードなのが、

不動産を売りたいとする売主と、

不動産を買いたいとする買主を結びつける、

仲介と云う形である。

他にも、不動産会社自らが、売主となって、

自社の新築物件やリフォームした中古物件を売る、

と云うデベロッパーや再販業者がある。

メインとする業態を何にするかによって、

不動産会社としての呼び名が変わってくるのだ。



ワタシの会社は、この中で、再販業者にあたる。

中古物件を安く買い取り、

新築同然――とはいかないまでも、

きれいにリフォームして、再販売する。

買ったときと売ったときの差額が、利益となる。

そんな商売だ。



再販業者のなかであっても、

その仕入れ先は多種多様である。

普通に市場に出ている、不動産を安く買い求めたり、

銀行案件や相続絡みで手放す不動産を購入したりする。

ただウチの会社の仕入れ先は、

そのどれでもなかった。

主たる買い先は――競売であった。



競売――不動産競売とは、

金を返せなくなった債務者が、

借金の担保とした不動産を、

裁判所が胴元となって、

強制的にオークションして換金化するシステムだ。

その入札に参加する、不動産会社のひとつが、

ウチの会社だと云うことだ。

競売で落札した物件には、

大抵、誰かの影がある。

所有者であったり、賃借人であったり、

占有屋であったり……。

そのひとつひとつの不動産に、

誰かの思惑が必ず、色濃く残っている。



とは云え、基本的には裁判所から、

そこに住み続ける権利があると認定されなければ、

競売で落札した人間から求められれば、

退去しなければならない。

たとえ、どんな理由があったとしても、だ。

しかしながら、世の中には、

自分なりの理屈や理由をあれこれつけて、

なかなか退去に応じない人間――占有者も現実にいる。

普通に考えて頂ければお分かりになって貰えるとおり、

不動産の中に人がいたら、再販が出来ない。

不動産商品として、顧客に提供することも不可能だ。

占有者に理解を得て貰い、

退去して貰わなければ、商売が成り立たない――。



そこで登場するのが、ワタシである。

占有者から如何に不動産から退去し、

明け渡して貰うか。

その一連の仕事を一手に引き受けるのが

ワタシである。

占有者と根気強く交渉の機会を持ち、

あくまでも任意での退去を求める――。

ただ退去して貰うと云っても、

時間や金が掛かっては仕方がない。

それではワタシの立場など、いらないに等しい。

出来うる限り、速やかに、

出来うる限り、コストを掛けず――。

それがワタシが仕事を行う上での、

モットーであり、会社がワタシを雇う目的でもある。



人は、そんなワタシをこう呼ぶ。

追い出し屋、と……。



……続く。



<おまけ日記>

毎日、暑いですね。

余波が体にじわじわと来ています。

残暑のあたりが、一番、体が弱るみたいで。

この時期は、ほんと、体調管理には、

普段のとき以上に、気をつけなければ、

と思う今日この頃ですね、はい。

 

2005.08.18 木曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第三話 「ある雨の日の交渉」



「簡単に出られる訳ないだろ。

オレはただ、あそこを借りて住んでる訳だから」



男は云った。

タバコを持つ手が、苛々と震えている。

ワタシは彼から視線を逸らし、答えた。



「まあ、ねえ。

そうですねえ。

ご本人さんの気持ちとしては、

もっともだと思える部分も少なからず、

あるようにも思えることもあるかも知れませんが……」



我ながら、回りくどい云い方だ。

それは、まるで窓から見える景色のように、

鬱陶(うっとう)しいものであり――。



「そう云う風に思えるって、

ちっとはそう思えるのだったら、

そう思って貰えないと。

こっちだって、困っちゃうんだよ。

そんなこと、云われたって。

そうだろ、なあ、おい?」



彼もまた、鬱陶しい返事を寄越す。

彼は云い、ワタシも云う。

彼はまた同じこと云い、

ワタシもまた同じ事を云う。

しかも、言葉の端々に、

ねちっこい余韻が漂っていて――。

ああ、先程から、同じ事の繰り返し。

エンドレスにリピートだ。



ワタシは思う。

これが、だ。

高速をぶっ放しつつ、

ガンガンとお気に入りの曲をかけ、

オマエら、オレ様の歌を聴けとばかりに、

車内をジャイアンばりの

ワンマンライブ会場に変えてしまえば、

気分爽快になるのだろうが、

この手の不満を何度も何度もぶつけられても、

ワタシにはどのようにも解消することは出来ない。

不満を投げられれば投げられる程、

その暗闇に潜むモノは蓄積し、

こちらのストレスとして、

重くのしかかってくるだけだ。

暗雲の重さは、息苦しさをも与える。

ちょうど、この時期の天気のように――。



窓の外は、雨が降っていた。

行き交う人々は、一様に不機嫌そうな顔立ちで、

傘を差していた。

憂鬱(ゆううつ)なまでの長雨だった。

ほどよく空調が効いている、喫茶店の店内だからこそ、

まだ雨は風景の一部として見ることが出来るが、

しかし、一歩、外に出てしまったら、最後。

じとじとと体に絡みつくような、粘っこい空気と、

油みたいな雨の滴(しずく)が、神経を苛立たせるだろう。



梅雨時の雨には、

なぜか、途方もない嫌悪感を感じる。

六月の雨は悪い気を世の中に満たす。

その最たるものが――カビだ。

雨の水滴には、カビの成分でも含んでいるのだろうか。

ところどころ黒と緑が入り交じったカビが、

食パンの白さをいやらしいまでに浸食する。

食べ物だけでなく、無機質なスーツにすら、

カビは、ふわふわと綿毛のような触手を伸ばす。

我、征服二成功セリ!

勝利の歓声を上げるカビが至る所で蜂起する。

自らの勢力拡大のみを望んで――。



「それで、どうなの?

どうしたいの、さ?」



男は、ワタシに再度、訊ねた。

先程からリピートされているカビ臭い言葉だった。

ワタシは答える。



「ですから、それは何度も云った通り……」



ワタシもまたカビの臭いのする息を吐きながら、

同じ言葉を繰り返していた……。



……続く。



<おまけ日記>

最近、疲れ目になってるかも知れません。

視力は大事な器官だから、

大切にしてあげないといけないですね。

たまには、休ませてあげないと……。

それではお返事です。


8/14 22時
日曜更新おつかれさまです


更新はすごい不定期ですよね。

8/15 16時
楽しみにしております。


この話は興味深い話にはなると思いますよ。

8/17 20時
新章開幕!!更新待ちわびてます


また新たな話を幕開けしました。

8/18 18時
楽しみにしています。頑張ってください。


ほどほどにがんばります。

 

2005.08.20 土曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第四話 「逃げ出したい光景」



男は、冷え切ったブラックコーヒーを一口飲んだ。

ガラガラと喉を鳴らし、彼は云った。



「大体さ。

オレは、もう、ここから出られないんだよね。

だから、何云われても、出ることは出来ないし。

出るつもりも、ない」



冷めたコーヒーをもう一口飲んだ時、

褐色の液体が気管に入ったのか、

男は、ゴホゴホと咳き込んだ。



「……もう、さ。

オレも年なんだよね。

年だからさ。

他に行くところもないし。

あてもないんだよ」



急に弱気な発言をする男――。

彼は、その干からびたような手の甲で、

額をぬぐった。

まだ夏の汗の時期には早いのに、

かいているのは、冷や汗なのだろうか。



ワタシ
「……何を云っているのですが、

まだそう、年だ年だと云うような、

そんな年じゃないですよ」



男は首を振る。

否――。



「オレは、もう、70過ぎだ。

十分過ぎる程に年を取っているし、

もう働く気力もない。

せいぜい、細々とした年金を受け取って、

それを当てにして暮らしていくだけだ。

それに、このところ、体調が悪くて、

毎日のように、病院に行ってるし。

今日だって、何時間も待たされた挙げ句、

ものの五分で終わった診療の帰りに、

アンタと会ってるんだよ」



ぐちぐちと不満をぶつける男は、

年の割には大きな体を、

よれによれたジャケットでくるんでいた。

時折、痰の絡んだような声と、

苦しげな咳の音を発する。



「オレは――オレは、婆さんと一緒に、

ただ、この家を借りて、住んでいる。

ただそれだけじゃないか。

それなのに、なんで、

オレたちが出て行かなくてはならないのだ?

なんで、オレたちが……」



そう云うと、男は悲痛な叫びにも似た声を上げ、

項垂(うなだ)れる。

男の残り少ない頭頂部を間近にしたワタシは、

その彼の髪の毛と同様、

如実なまでの悲壮感を感じるのであった。

すぐにでも椅子から立ち上がり、

この場から――。

悲しさや憤りを感じている男の前から、

ピンポンダッシュ並に全力疾走で逃げ出したい。

ゴーホームしたい。

ウチに帰って、頭から布団でも被って、

体育座りでもしたい。

そんな、居たたまれない気持ち。



しかし、現実として、目の前にいる男は存在し、

ワタシは彼の前から逃げ出すことなど出来ない。

ワタシに出来ることと云えば、

根気強い交渉を行うことだけである。



ワタシは、アイスミルクティをすする。

すでに氷が溶け、

水っぽいだけの甘い汁を飲み込んだワタシは、

俯(うつむ)いている男に、云ったのだった……。



……続く。



<おまけ日記>

先日、久々にメルマガ「不動産競売必勝攻略法マガジン」

を発刊しました。

前回発行したのが、今年の三月ですから、

五ヶ月ぶりといったところです。

いやはや、長かったですね。

メルマガでは、「対決!債権回収屋編」を連載してます。

興味があれば、

メルマガを取ってみるのも、

また一興ではないでしょうかね。

それではお返事です。


8/18 21時
今日、不動産屋から家賃の督促がきました。

イヤッホウー 払いたくないなー

14万貸してくれませんかね?


家賃は払わないと。

トイチで良ければ、貸しますよ?

8/19 10時
>ジャイアンばりのワンマンライブ

→ジャイアンは、やっぱ、リサイタルでしょう。


それはそうですねえ。

リサイタル会場は、空き地と。

ほげ〜。

 

2005.08.21 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第五話 「賃借人の可能性」



――男は賃借人である。

東京都下の、ある借家を競売で落札したウチの会社は、

すぐさまその家の賃借人である彼とコンタクトを取るべく、

住所地に手紙を送った。



当社は、先般の競売において、

貴殿が住む借家を落札した会社です。

ついては、今後の家の件に関して、

賃借人である貴殿と話がしたいと思い、

手紙をお送りした次第です。

早々にご連絡頂けるよう、お願いします。




内容はことさら、複雑なことを書かない。

こちらの要望も、書かない。

すべては実際に会ってから話す。

それが、ワタシ流の、

相手側へのアプローチ方法である。

もっとも今回、会社が落札した家に住む人間が、

賃借人であるからこそ、

このような文面を送ったのであり、

これが所有者である場合は、

また違ったアプローチ手段を用いる。

すべてはケースバイケースである。



ただ、賃借人であれ、所有者であれ、

ワタシの仕事はただひとつである。

落札した家に利益を乗せて転売するために、

その家を売り物にすることだ。

そのためには、中に誰かが住んでいては、駄目だ。

早々にでも退去して貰い、

空き室になったところをリフォームし、

徹底的に磨かなければならない。

中に人が住んでいたら、商品になる訳がない。



ここの家には付属品として、

家族四人がすでに住んでいます。

一緒に仲良く暮らしてみてはいかがでしょうか。

今、核家族化の問題があちこちでなされています。

テレビや新聞で盛んに喧伝されていますから、

お客様もご承知の通りでしょう。

ですが――ですがですよ、お客様。

いみじくも核家族であるお客様ご一家も、

先住のご家族と一緒に暮らせば、あら不思議。

一瞬にして大家族の出来上がりです。

是非とも、大家族の素晴らしさを、

存分に味わって下さい!



……などと云ったように、売れるセールスマンが、

どのようなセールストークを展開しようが、

「分かった」と云って、契約書に判子を押す、

お人好しは流石にいないであろう。

夫婦ですら、仲が悪くなって、

離婚になることも少なくないと云うのに、

縁もゆかりもない、

赤の他人の家族同士が暮らせる訳もないし、

そんな同居するなんて発想すらも、

思い浮かべることはないだろう。

結局、この家を商売にしようとしている、

ウチの会社にしてみたら、

早々に退去して貰わなければならないのだ。



しかし、何事にも例外はあるように、

こう云ったケースでも、

こちら側が相手を退去させなくても済む状況が、

たったひとつだけある。

そんな難しいことではない。

今、住んでいる人間が、

その住んでいる家をウチの会社から、

買い戻してくれればいいだけの話だ。

だけれども、元々カネがないからこそ、

住宅ローンや債務を返済することが出来ず、

競売になってしまったと云う経緯を持つ所有者の場合、

果たして買い戻しを行えるだけの資金を持っているか、

と云えば、非常に疑問である。

中には必死になって、親戚縁者友達から、

カネをかき集めてくる人もいることにはいるが、

買い戻しに必要な大金を揃えることは、

まず難しいと考えた方がよい。

だが、賃借人の場合は、所有者のケースとは、

また勝手が違う。

彼らの場合、家賃を支払って住んでいた家が、

競売にかけられてしまったというだけの話だ。

資産を差し押さえられている訳でもない。

購入するだけの資金を持っていることも、

十分に想定できる。

真っ当な職にさえ就いていて、

他で金銭的に焦げ付いていなければ、

ローンだって組める可能性が高いだろう。

気に入っている我が家であれば、

自分のモノにしたいという賃借人はざらにいる。

このまま、賃料を支払って借り続けていても、

それこそ、柱ひとつ、釘一本すら、

自分のモノにならないのだから。



それ故、落札した家を占有をしている――

いわゆる、その家に住んでいると云うことだ

――人間が、賃借人である今回の状況において、

相手側に送付した手紙に、

こちらの要求は書かなかったのは、

かような理由があったのだ。

仮に家を買ってくれると云う場合には、

その人は、ウチの会社にとって、

占有者から、お客様に大変身する。

そのような可能性を秘めている人に対して、

とりあえず、機嫌を損ねさせるようなことは、

慎んだ方がよいとする――いわば、大人の判断である。



果たして、この文面を受け取った彼は、

ワタシが手紙をポストに投函した、翌々日には、

ワタシに連絡を寄越したのだった……。



……続く。



<おまけ日記>


今日も今日とて、眠いです。

 

2005.08.22 月曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第六話 「アポイント、そして……」



――男は、ハヤシバラと名乗った。

電話の向こうから聞こえる彼の声は、

ひどくしわがれていた。

時折、痰を絡ませたりもしている。



ワタシ
「お電話頂戴して、ありがとうございます。

早速ですが、今、ハヤシバラさんが、

住んでいるご自宅がありますよね。

借りている家。

その家が……」


ハヤシバラ
「はあ?

ヒエってなんだ、ヒエって?

肥(こえ)か?」



……何故ゆえ、

ワタシが肥だめの話をしなくちゃならんのだ。

当然、そんな風に思いつつも気を取り直して、答える。



ワタシ
「いえ、ヒエでも肥でもなく、

ご自宅です。家です、家」


ハヤシバラ
「ああ、家ね、ホームね」



ワタシが言葉を発する度に、

聞き返していたりもするから、

耳も相当、悪いのだろう。

電話の印象だけではあるが、

かなり、年輪を重ねている人物だと思った。

でも、無駄に英単語は出てくるところは、

一体、何なのであろうか。



ワタシ
「そうです、お家のことですよ。

家のことに関して、

とても大事なお話がありまして……」



ワタシは、ハヤシバラに出来得るかぎり、

簡単に概要を話す。

難しい用語を駆使したところで、

相手にその意味が伝わらなかったら、

全くもって意味がなかろう。

それこそ、難しい言葉をオレは知ってるんだ、

と云う自己満足に終わる。

特に、老年に差し掛かっていると思われる人物に対して、

自分の専門外であろう業界の、

難解な用語を理解して貰おうとは思ってはならない。

相手の年齢や環境に合わせた言葉遣いで話す。

――それは、人と話す上での、最低限の鉄則である。



ワタシ
「その家は、ご承知の通り、競売にかかってしまって、

それで、ウチの会社が落札したのですよ。

ウチが買ったんですね。

それで、所有者が変わるので、

まずはお会いして、

お話しなくちゃならないと思うのですよね。

今後のこともありますので……」



ワタシの話にハヤシバラは、生返事ではあるが、

「まあ、そりゃそうだろうなあ……・」と返した。

少なくとも、ウチの会社――ワタシと会わなくては、

ならないと云う、その一点については、

彼に理解して貰ったと思った。

ワタシはそう思ったのだ。

ハヤシバラは、三日後の昼に会いたいと云う。

場所は、池袋の東口にある”いけふくろう”の前。

新宿のアルタ前、渋谷のハチ公前みたいな、

池袋における待ち合わせスポットだ。

時間の指定を自ら行い、ワタシはそれに同意した。

お互いの連絡先――

相手は携帯電話を持っていなかった。

固定電話だけだ――を教え合って、

電話はそこで終わる。

これでハヤシバラとのアポイントは取れた。



ここで重要なことは、電話口でも、手紙の時と同様、

内容について、深くは掘り下げないと云うことだ。

とにかく、相手の顔を見て、

しっかりと話をしなければ、

こちらの云いたい要旨が、

間違って伝わってしまうこともある。

得てして、文字だけで、

もしくは声だけで相手に正確に物事を伝える、

と云うのは難しいものだ。

ワタシが今、行おうとしている、

住んでいる住居からの立ち退き、

または不動産の買い取りのどちらかの要求

――利害関係が絡む話であれば、尚更である。

やはり、会って相手の声や顔、仕草、

その他トータルで考え、その微妙なさじ加減でもって、

話を進めていかなければ、

話を上手くまとめることなど出来ない。

それがワタシの持論でもある。



そして、ハヤシバラとの約束の日がやって来た。

だが、しかし、彼は約束の日の当日、

一本の電話だけで、

アポをキャンセルするのであった……。



……続く。



<おまけ日記>


今、指がつってしまったー!!


8/21 20時
家に釈由美子が付属してくるなら大歓迎!!


奥さんとかいたら、結構大問題になりますよね(笑)

 

2005.08.23 火曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第七話 「ドタキャンは許さない!」



ワタシが、世の中で二番目に嫌いなこと――

それは、ドタキャンされることである。



ドタキャン好きと云う人間なんて、

あまり聞いたことはないが、

敢えてここで、断言させて貰う。

断言するなと云われても、言い切ってしまう。

ドタキャンをするな、このヤロウ!!

皆聞け! とばかりに声高に云っちゃうぞ。



そんな風に――だ。

ドタキャンが二番目に嫌いなワタシが、

一番嫌悪感を感じる行為は、もちろん――。

キャンセルの電話一本寄越さず、

人々が行き交う雑踏の最中、

妄想へと旅立つ時間を過ごしつつ、

次第に薄れゆく世界の中で、

究極的には無我の境地を目指すと云った

――まあ、一言で簡単に云ってしまえば、

待ち惚けを食らわされることである。



ワタシは、面と向かってハヤシバラに告げたかった。

いや、告げると云うよりも説教をしたい。

それはもう、カツオをガツンと叱る、磯野波平のように。



おい!

ちょっと、いいから、こっちに来て、ここに正座しろ!

そうだ。正座だ、正座!

あぐらかくなよ、あぐら。

ぴしっと背筋を伸ばして、正座だよ。

日本人の心――正座だよ。

正座が嫌?

だったら、空気椅子しろよ、空気椅子!

空気椅子の上に、乗っちゃうぞ!

ゆったりと、座っちゃうぞ!

寝そべっちゃうぞ!



あー、いいか、今から説教をする!

ワタシは、な――あれだ。

オマエさんには、

人の約束をすっぽかす程、急を要して、

片付けなければならない用事など、

絶対にないだろうが……とまでは云わないが、

別に一分一秒刻みの予定を立てている、

スーパーサラリーマンと云う訳でもないだろうに、

自分の予定を組むことすらままならないのか。

それに、約束をした場所に来ることが出来ない、

その時点で、スケジュール管理のルーズを

思い切り露わにし、しいては、

自分の甘さをも、他人に露見していることに、

全くもって、気付いていないのだろうか。

第一に、自分から組んだ予定である。

その程度のことくらい、きっちりと守れ!

せめて、前日辺りに、キャンセルをする詫びの言葉と、

代替え日を相手に伝えることこそ、

人としての生きる道だろう?

いいか、分かったか?



――読者の中には、もしかしたら、

こう思っている人がいるかも知れない。

ハヤシバラの今回のケースでは、

一番嫌いな待ち惚けを食らわされることが

なかっただけマシだったじゃないか、と。

だが、彼の場合、待ち惚けを食らわされるのと、

嫌悪感の同率一位になる程の、

憤りを増幅させるような、

オプショナルが付属していたのだ。



ハヤシバラから、キャンセルの電話があったのは、

時間潰しに池袋の繁華街を歩いていた時だった。

約束時間の20分前になったので、

そろそろ、待ち合わせ場所である、

いけふくろう――池袋駅の東口に、ふくろうの石像ある。

これがナウでヤングな若者たちの、

待ち合わせスポットになっている――

に向かおうかと思った、その矢先のことだ。

携帯が鳴った。

ディスプレイを見てみると、

ハヤシバラの自宅の電話番号が浮かんでいる。

嫌な予感がした。

「はい」とワタシが電話に出た途端、彼は云ったのだった。



「やっぱ、来れない」(原文ママ)



彼の言葉はこれだけだった。

有無を云わさない一言であった。

「やっぱ、来れない」……。

その「やっぱ」って、何が「やっぱ」なのだろうか。

と云うか「やはり」だよな。

続く「来れない」って、「来られない」ってことだよな。

いわゆる、「ら抜き」言葉。

日本語の破壊だな、これ。

身も蓋もないメッセージを伝えられたワタシは、

思わず、美しい日本語について考えてしまった。

いやいや、そんなことを考えている余裕はないはずだ。

とりあえず、日本語文化については、脇においておこう。

今はそれよりも、いきなり約束を破ろうとする、

彼への対策を立てなければならない。



何故だか、普段は気に止めようともしない、

日本語の崩壊に関する考察をしていたワタシは、

「いや、もういるのですよ、現地に――」

とハヤシバラに、無駄な倒置法で、

こちらは約束した通りに、

約束の時間に約束の場所にいることを主張した。

まあ、正確に云えば、目的の”いけふくろう”まで、

向かっているところなのだが、あと二分も歩けば、

到着する距離なので、許容範囲であろう。

しかし、彼はこともあろうか――。



「ふーん。

じゃあ、行けないことは伝えたんで。よろ」(原文ママ)



そう云うと、電話をガチャ切りしたのだ。

ガチャっと云う耳を突く音の後に、

ツーツーなる無情なる音が、

いつまでもワタシの携帯から鳴り響いていた。

ワタシは、折り返し彼に連絡を取ろうとしたものの、

「ただ今、留守にしております。

ピーと鳴りましたら……」

無情なる、留守番電話の声が流れ――。

何度電話しても、

無機質な応答音が繰り返されるばかりだった。



……って。

たった今さっき、長くても三十秒程度前に、

相手側の自宅から電話が掛かってきたと云うのに、

もう留守番電話が仕事をしているのか?

電話を切った途端、どっか外に出掛けて、

留守したっていうのか、ハヤシバラは!?

そんな訳がないだろう。

そんな訳がない!



目的を失ったワタシは、一旦、

会社に戻って作戦を練り直す必要がある――か。

だが、ドタキャンは許されない!

ましてや、このようなキャンセルの仕方など、

ないだろう。

ハヤシバラのあり得ない行為に対する、

腹立たしさがムクムクと沸き上がり、体中を突き抜ける。

携帯電話を握り締める力が強くなる。



――よし、決めた。



いけふくろうに向かおうとしていたワタシは、

会社に戻ることなく、その足を都下に向けた。

ハヤシバラのいる、彼の――落札した家へと……。



……続く。



<おまけ日記>


なんか、今日はいつもと比べても、

比較的多く文章を書いてしまった……。

読みにくかったら、すまんです。

さて、お返事です。


8/22 22時
約束は守んないとねー NOドタキャン


本当、そうですよね。

せめて、前日にキャンセルですね。

8/23 13時
案外と短いお休みでしたね。新作楽しみにしています。


我ながら、意外と早い新シーズンの発表だなあ、と。

そう思ってみたりしてます。

 

2005.08.24 水曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第八話 「憤りとノスタルジー」



――東京都下。

新宿ターミナルが起点となる、

ある私鉄に乗車すること二十分で、

ハヤシバラの住む自宅の最寄り駅に到着する。

車窓からの空を見上げると、

うっすらと灰色の雲がキャンバス全体を覆っていたが、

その駅に近付けば近付く程、

灰色が変色し、黒みを帯びていった。

電車が最寄り駅に滑り込み、

ワタシがホームに降り立った時には、

ポツリポツリと雨粒が落ちていた。

ワタシは思わず、舌打ちをする。

雨、か――。



本来、ワタシは雨の天気と云うのは、

嫌いなものではなく――むしろ、

雲と青空が混在する、ごくごく普通の空よりも、

好きであったりする。

しかし、この日は、先程、

約束をすっぽかされたことに対し、

非常なる憤りを感じ、敵地に乗り込むが如く、

ここまでやってきたと云う思いがあるせいか、

いつもだったら好ましく思える雨粒までもが、

ハヤシバラの顔に光る、

汗の玉のように思えてきて、

腹立たしさが増していくのであった。

もっとも、この段階では、

ハヤシバラとまだ会ったことがない。

――にも関わらず、彼の汗の滴を連想するのは、

どうなんだ? 適切な例えなのか? 

だなんて一抹の疑問を感じたりもするが、

まあ、それはそれで、

そのように感じたのだから仕方がない。

脇に置いておこう。



駅のキオスクで

青色の不透明なビニール傘を買い求めた。

雨脚は次第に、本降りに近付いていっている。

駅の軒先で、傘を広げた。

花開く傘を見たワタシは――。



ふと、幼稚園児の頃合いなら、

新しい傘をおろす時だなんて、

「おニューだ、おニューだ!」

などと、ちょっと愉快な気持ちになって、

はしゃぎ回り、黄色いゴムの長靴で、

わざと水たまりを飛び回っていたもんだなあ……。

なんて、幼少の頃を思い出し、ちょっとばっかし、

しみじみとした気持ちを持った。



不思議な感覚であった。

憤りや腹立たしさと同時に、

ノスタルジックな思いが同居する、この思い。

なんだろう、この感じは。

むず痒(がゆ)さを持ったまま、

ワタシは、有名デパートやスーパーが軒を争って並ぶ、

駅前の繁華街を歩いていたのだった。



彼の家は、繁華街を抜け、住宅街を奥に行ったところ。

駅から大人の足で歩いて、二十分程度の立地にあった。

この家を落札する以前に、

不動産の調査に来たことがあるから、

場所は分かっている。



微妙な思いを胸に抱きながら、

賑やかな繁華街を抜ける。

大通りから一本も二本も入った、

路地裏に入る頃には、古き良き時代を思う、

ノスタルジーの欠片は消え、

ドタキャンを食らわせてくれた、

ハヤシバラのオヤジに対する、

憤りで埋まっていた。



――そうだ、今は幼稚園児の頃だなんて、

そんな遠き日々の空想に浸っている場合ではない。

今、重要なのは、

ハヤシバラのドタキャンを問いつめること。

ただ、それだけだ。

ワタシは心からしみじみとした感慨をすべてなくし、

彼の家に向かっていた。

傘を差しながら歩くこと、

二十分と二分を超えたあたりで、

ようやく目的地に辿り着いた。



ハヤシバラが借りている家――。

かつては輝くばかりに白い外壁だったろうに。

最早、当初の面影など残すことがないくらいに、

モルタルはひび割れ、黒ずんでいた。

雨の模様と相まって、更に暗いものに見えた。

敵地だ――。



ドタキャンの電話があって、

もうかれこれ、五十分は経過している。

果たして、彼はまだ家にいるのだろうか。

確かに天気は雨ではあるが、

どこか出掛けてしまったかも知れない。

もしかしたら、ワタシがここに来たのは、

無駄足に終わるのかも……。



だが、考えても仕方がない。

ワタシが彼の家の前に、もういるのだ。

迷うくらいだったら、最初から、

ここに来なければいい。

来た以上は、余計なことを何も考えず、

仕事をしなければならない。

まずは、今回ドタキャンしたことは、

かなり重い罪なのだ、

と云うことを相手にしっかりと理解させる。

そして次に、彼がドタキャンせずに来た時と同様、

退去交渉を前進させるべく、

話を推し進めなければならない。

それが、ワタシの仕事である。

遊びではないのだ。



ワタシは、外壁と同様、

薄ら汚れた塀に備え付けられている、

古いタイプの呼び鈴を鳴らす。



さあ、出てこい――。



くぐもった呼び出しの音が、

傘に当たって砕け散る、雨の音にかき消された……。



……続く。



<おまけ日記>


明日から関東あたりに台風が直撃するとか。

気をつけないと、ですね。


8/24 12時
すっぽかされる。

関西では、スッポンかまされる、と言いますな。


スッポンですか。

どうでもいいことですが、

一度スッポンを食べてみたいですね。

 

2005.08.27 土曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第九話 「日本語の分からん夫婦」



――はあい。



降り続く雨の中に、

間の抜けた声が聞こえきた……ような。

家の窓は、二階はすべて閉まっていたが、

一階の玄関ドア脇の小窓は僅かではあったが、

開けっ放しにされていた。

しかし、呼び鈴に答える声が

聞こえてきたと思ったのに、

玄関ドアが開くことはなかった。

さっきの声は気のせいかと思い、

もう一度、呼び鈴を鳴らした。

すると、今度は先程よりももっと大きな、

空耳ではない声が家の中から聞こえた。



――ちょっと待っててー。



どこか、のんびりとした底の声は、

電話一本でドタキャンを食らわされた、、

あの正しい日本語を話さない男のものではなかった。

女の――年配のオバサンの声だ。

恐らく、ドタキャン男の奥さんといったところか。

ワタシは呼び鈴を再度押すことなく、

待っていた。



――だから、ちょっと待っててー。



「だから」と云われても、どの言葉に続く、

「だから」なのだろう。

これが「すいません」だったら、分かる。

何か理由があって、例えば、

天ぷらを揚げていると途中なので、

手を離すことが出来ない。

だから――「だから」とは、かような文章の接続に

使われるべき接続詞ではないか――

玄関ドアを開けるのを待ってて欲しい。

これなら、意味が分かる。

もしくは、彼女が「待ってて」と

云っているのにも関わらず、

ワタシが堪(こら)え性もなく、

呼び鈴ボタンを連射したと云うのでも、分かる。

抗議の意味での、「だから」だ。

だが、先程の声が家の中から聞こえてきてから、

ワタシはただボーッと突っ立っていただけだ。

「だから」と抗議される、いわれはない。

ここの家の住人は、日本語が分かっていない。

理解していない。



頭に疑問符を浮かべながらも、

ワタシは云われた通り、

玄関の門扉の前で、傘を差しながら待っていた。

雨は止まることを知らない。

ザーザーと雨の勢いは、前より強くなっている。



キオスクで500円を投じて手に入れた買った傘は、

傘幅の狭いものだから、

どうしても、片側の肩が出てしまう。

右の肩をカバーしようと思ったら、

左の肩が雨にまみれ、

左の肩をカバーしようと思ったら、

右の肩が雨ざらしとなる。

ワタシは交互に傘を持ち替え、

少しでも両肩に掛かる雨を防ごうと思ったが、

無駄な労力が掛かる割には、

効果があまり見込まれなかったのは、

云うまでもなく――。



彼女の「だから」発言の意味不明さ加減と、

滴(したた)り落ちる雨のおかげで、

ワタシの心はすっかり荒んでいた。

もっとも、ワタシの心の荒廃原因ナンバーワンは、

この家の主の土壇場キャンセルなのだが……。



彼女の声がしてから、早五分。

ジトジトとした雨で、ワタシの肩も存分にぬれ、

心の中も雨しぐれ。

長い長い時間が経ち、

流石に、もう一度、呼び鈴を思い立ったその時、

ようやく、玄関扉が開いた。



初老の域に差し掛かっているだろう、

女が出てきた。

家の中の声は、彼女だろう。

ワタシを一目にした女は、一言。



「なあに?」



妙にのんびりとした口調で返すのであった……。



……続く。



<おまけ日記>

いい話がないかなーと日夜追い求めている、

そんな状況です、はい。


8/26 2時
台風直撃ですね  Gさんは占有者の家を直撃


直撃したはいいものの……。

そして、どうなるのでしょうか?

みたいな。

 

2005.08.31 水曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十話 「名刺、受け取り拒否!」



――「なあに?」って、

それこそ、そっちより、こっちの方が

「なあに?」と問い掛けてみたくなるくらい、

「なあに?」って感じだよ!



スーツの肩から袖に掛けて雨に濡れたワタシは、

おばさんの空気を読んでいない応答の仕方のせいか、

殺伐とした気分に陥っていた。



それに――だ。

「なあに?」じゃないだろ。

その前に「お待たせして、すいません」とか、

「まずはこちらにお入り下さい」とか、

そう云った多少なりとも気遣いを見せるのが、

人としてのあり方だろうが、

そこら辺、ちゃんとわきまえろやっ!!



殺伐だ、殺伐――。



「なあに?」と云ったきり、彼女は何も口に出さない。

しびれを切らしたワタシは、

「こう云う者ですが……」と自己紹介を兼ねて、

胸ポケットから取り出した名刺を渡そうとした。

傘から伸びる袖や、その先の名刺に、

雨が容赦なく、襲いかかる。

しかし、彼女は、

なかなか名刺を受け取ろうとはしない。

ワタシの腕は、手は、名刺を持ったまま、

雨のなかにさらされている。



ワタシ
「あの……」



いや、もう、雨で濡れまくっているんですけど。

袖が、手が、腕が。

水含みまくってるんですけど。

そのように主張したいところを、

グッと我慢して、ワタシは続けた。



ワタシ
「あの、名刺なんですけど……」



片手を伸ばしたままの形で固まっている

ワタシを前にして、彼女は、のんびりと云った。



おばさん
「濡れてるじゃないの、名刺が……」



と見た通りのままを云い、

受け取る素振りすら見せなかった。



おばさん
「だから、いらないわよー」



……。

あー、そうだよね。

雨水の中、名刺突き出していたら、

そりゃ、雨に濡れるよね。

それはこっちが悪いよね。



……って。

そりゃ、雨の中、名刺突き出してたのは、

確かにこっちだけど、

その名刺を受け取らず、

みるみるうちに、雨水でぐしゃぐしゃになったのは、

ただただ、ボーッとした感じで、

一向に名刺を受け取らなかったせいだろうがっ!!



「――いいから、受け取ればいいだろ!」

と云う言葉が、喉の先まで出かかったが、

あともうちょっとで、

言葉に発するところまで来ていたが、

瀬戸際で何とか飲み込み、

渡しは雨でびしょびしょになった名刺を、

ポケットにしまい込んだ。



ワタシ
「……」



もっとも、彼女には彼女なりの云い分があるだろう。

どこの馬とも分からない人間が、

雨に濡れまくってたとしても、

そんなの自分の知ったことではないし。

第一、用件は何なのだ?

何か、リフォームやら布団やらソーラー電気や、

営業を仕掛けに来たのか?

それとも、その濡れた名刺を渡しに、

わざわざ雨の中、来訪しているのか?

そんな思いが、彼女のなかで交錯しているのだろう。

のんびりとしたその表情に、

複雑な感情の行き交う様など、

微塵も垣間見られないが、そうだと思い込むことにする。

でなければ、あまりにも自分が可哀想だ。



ワタシ
「名刺を受け取らないのは、構わないです。

別に営業するために、雨の中、

わざわざこちらまで来た、

と云う訳ではありませんから。

ましてや、ただ単に名刺を渡しに来ただけ、

と云う訳ではありません」



「営業ではない」と云う部分と、

「名刺を渡すことが目的ではない」と云う部分の、

ふたつを強調して、ワタシは云った。

だが、おばさんの表情は少しも悪びれることなく、

先程と微塵も表情が変わらなかった。



あくまでもマイペース。

あくまでものんびり。

あくまでも我関せず――。



その彼女の表情が、

ワタシをますます暗澹(あんたん)とした気分に、

追い込むのであったが、

でも、ここで暗い怒りを抱いていても、仕方がない。

ワタシの本来の目的を達するべく、

気を取り直して、ワタシは、彼女に尋ねた。



ワタシ
「あの、今日、ワタシがここに来たのは、

他でもなく――。

ハヤシバラさん、いますよね。

恐らく――ダンナさんですか?」



彼女は表情を崩すことなく、頷いた。

彼女は、やはり、ハヤシバラの奥さんか――。

その時だ――。

ふと、ワタシはどこからか視線を感じた。

注意深く、目だけを左右に動かすと、

家の庭先へと続く、

吐き出し窓に黒いシルエットが見えた。

人影である。



この家には、少なくとも奥さん以外に、

誰かがいる……。



……続く。



<おまけ日記>

今日、昼にラーメンを食べたのですが、

スープが熱かったのか、

未だに舌がヤケドでひりひりしています。


8/28 18時
私も4月に抗告をだされ最近、代金納付通知が来ました!

どんな理由書を出したのか?迷惑な話です。


基本的に、理由書は大したことが書いてないですよ。

全部が全部そうだとは云いませんが。

8/31 10時
早く続きが読みたい、ただ今度は、2年も連載しないで(>_<)


そこまでは長くはないと思いますが、

ペースにも寄りますよね。

出来うる限り、更新していきますが……。

 

2005.09.04 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十一話 「嘘」



オバサンは、ワタシの問い掛けに、

「いいえ」とだけ、間延びした口調で答えた。



ワタシ
「ご主人さんは、いらっしゃらないですか?

ワタシは、てっきり居るものだと、

思って、この天候の中、ご自宅まで伺ったのですがね」


おばさん
「そうは云われても……。

居ないものは、居ないんですよ。」

今、ここには誰もいません」


ワタシ
「そうですか……。いらっしゃらない」



またもや、人の影がチラリと見える。

居るだろうが、誰かが。



ワタシ

「えーと、今、ご自宅にいらっしゃるのは、

奥さんだけ、と。

そう云うことですかね。

同居している、息子さんとか娘さんとか、

そう云う人もいない?」



おばさん
「ここは、アタシと主人だけで、住んでますから。

他には誰もいないです。

あの……。

もういいですか?」



「もう」の部分のイントネーションが、

若干強めに発音された。

のんびりとした人間であれ、

雨の日の突然の訪問者に対応するには、

十分の時間を費やした。

これで終わりにしたいのだが、と云いたいのだろう。



ワタシ
「そうですね」



と云った後に「じゃあ、ご主人さんに今日の訪問の件。

ヒガシタニが来たことだけは、必ず、お伝え下さい 」

と一言、付け加えた。

おばさんは、「ええ」と軽く頷(うなず)き、

ドアを閉めようとした、その時――。

ワタシは、閉じ掛けのドアノブを掴み、

自分の側へと引っ張った。

おばさんは、思わず前のめりになり、

ワタシをちょっと驚いた顔で見る。



ワタシ
「あ、もう、ひとつだけ、

聞きたいことがあったんですけど……。

いいですかね?」



少し、のんびりとした彼女の顔に、

影のようなものが見えた。

だが、その影を残すことなく、

彼女は、答えた。



おばさん
「あ、はあ、一体、何でしょう?」


ワタシ
「いや、他でもない、ダンナさんのことなんですがね。

今、この家には居ないとのことですが、

では、今日は、いつ、お出掛けになったんですかね?」



おばさんは「うーん」とうなると、

あごに右手を持って行き、考えている風を装っていた。



おばさん
「そんなことが、何か、関係あるのですか?」


ワタシ
「いや、ワタシも上司に報告するのに、

いろいろと事実関係を教えてもらわなければ、

ならないんですよ…… 」



ことさら、自分の意志ではなく、

物事を事細かく聞いてくる上司のせいにする。

そんな上司など、実際に居るかどうかは、さておき……。



おばさん
「今日は、もう、午前中から、いないですね」


ワタシ
「午前中?

それは、朝から?

八時とか九時とかから、ですかね?」



おばさんは「ああ、確か、そうです」

と答えた。

ワタシは繰り返し、尋ねる。



ワタシ
「本当に、ご主人は、朝に出掛けたんですか?」



おばさんは、ワタシの云い草に、

ムッとしたのであろうか、

やや、ワタシを睨むようにして、

「本当に、本当よ」と云った。



ワタシ
「そうですか……」



ワタシは、顔色ひとつ変えずに、続けた。



ワタシ
「奥さん、今、嘘つきましたね?」



……続く。



<おまけ日記>

今日はゆっくり寝ました。

んでも、寝過ぎると、健康的とは逆効果で、

それはそれで気持ち悪くなりますね。

 

2005.09.07 水曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十二話 「嘘ってなあに?」



おばさんは、ちょっと目を目を見開いた。

「嘘」という単語に、過敏に反応したようだった。

それはある意味、当然のことだろう。

図星を突かれたのだから。

だが、敵も然る者だ。

ひとつ咳払いをすると、彼女は聞き返してきた。



おばさん
「嘘?

嘘ってなあに?」


ワタシ
「……」



ずうずうしい、おばさんである。

あくまでもしらばっくれるつもりのようだ。

ワタシは、視線に眼力を送り込み、

彼女に云い放つ。



ワタシ
「嘘は、嘘ですよ。

アナタが云った、意図的に作った話ですよ。

その話の謎――いや……」



この程度の話で、コナンくん並に「謎はすべて解けた!」

とかいっていたら、これを読んでいる人から、

石を投げ付けられたり、殴られること必死だろう。

もっとも、読者の目を気にした訳ではないが、

「こんなのは推理でも何でもないですがね」

と云い直して、話を再開させた。



ワタシ
「嘘――それも、ふたつの嘘をついてるのですよ。

確実に――」


おばさん
「ああ……?」



ワタシの断言調の言葉に、

おばさんは口を半開きにして、

あわあわと声にならない言葉を発していた。

聞こえるのは、流れゆく雨脚の音だけだった。

彼女は明らかに、焦っており、

その様からして、アタシは嘘をついていました、

と自ら告白しているようだな、とワタシは思った。

彼女の動揺を更に誘うように続ける。



ワタシ
「まず、ひとつめの嘘。

奥さん、ダンナさんは今日の朝から出掛けた、

って言ってましたよね?

でも、ね――」



ワタシは胸ポケットから、携帯電話を取り出す。

ボタンを二回ばかり押して、

今日、約束の時間ぎりぎりに掛けてきた、

ハヤシバラの自宅の電話番号と、

その発信時刻をディスプレイに表示させた。

明確な証拠を彼女の目の前にぐいっと突き出す。



ワタシ
「ほれ、この通り。

ダンナさんから、電話が掛かってきたのは、

今から、一時間ちょっと前なのですよ。

従って、到底、朝だとはいえない時間ですよ」



ほれほれとばかりに、携帯のディスプレイを、

これ見よがしに見せ付ける。

印籠の葵のご紋とまではいかないものの、

証拠を突き付けられたおばさんは、

少し、後ずさりした。

しかし、黙って認める訳にはいかない。

彼女は、今までの間の延びた声ではなく、

少しばかり上ずった声で反論するのであった。

往生際が悪い――。



おばさん
「あ、じゃあ、そのぅ。

あ、そうだ。朝じゃなかったのかな。

そうよ、朝じゃなくて、昼間あたりだったわね。

あの人が出て行ったのは――」


ワタシ
「どこにお出かけになられたのですか?」


おばさん
「んんー。き、聞いてないから、分からないけど。

多分、パチンコに行ったんじゃないかな」


ワタシ
「パチンコですか。なるほど。

じゃあ、いつもご主人が行っている、

行き付けのパチンコ屋ってどこですかね?」


おばさん
「え、あ、うーん。

ど、どこっていわれてもねえ。

いっぱいあるから……」


ワタシ
「じゃあ、ひとつひとつ、そのパチンコのお店を、

思いつく限りに行ってみて下さい。

そこにひとつひとつ、あたってみますから――」



あたってみるっていっても、

こっちは声は分かったとしても、

姿形は全く把握していないというのに……。

我ながら、勢いで喋っているじゃん!

実際、「じゃあ勝手に行けばー?」とか云われたら、

どうにもこうにも為す術がないじゃん、自分!

……などと、自分で自分に突っ込みをいれてみる。

しかし、彼女にとってみたら、

この程度の言葉の応酬であっても、

疲れを感じているようだった。

この期をワタシが見過ごす訳にはいかない。

これで終わりではないのだ。

そうだ、彼女に突き付けなければならない、

嘘はこれひとつではない――。



ワタシ
「それにね、奥さん。

あともうひとつ。

奥さん、今さっき、ダンナさん以外の人とは――

例えば、息子さんとか娘さんとか、

そういった人たちは暮らしていない。

他に同居している人はいないって、

そう仰いましたよね?」



おばさんは、「……そうだけど」と小さく呟いた。



ワタシ
「でもね、奥さん。

ワタシは見たんですよ。

奥さんは、玄関先にいるから、

死角になって見えないでしょうが、

ここからはバッチリと見えるのですよ。

庭先の窓から覗く、人影を――」



奥さんは、「ああ……」と落胆の声を上げる。



ワタシ
「今、奥さんだけで、

しかも、唯一の同居人だという、

旦那さんが出掛けているとしたら……。

果たして、その人影は一体、誰なのでしょうかね?」



……続く。



<おまけ日記>

急ぎで依頼される仕事が増えておりますが、

キャパシティ的には、大丈夫です。

まだまだ壊れるー!!

仕事いらないー!!

という状況ではありませんので。

ご依頼いただければ、全力でおつきあいさせて貰います。

 

2005.09.08 木曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十三話 「タナカさんはいるの?」



――おばさんは、口を開けたまま、

しばし、呆然としたかのように思われたが、

しかし、呆けた姿をいつまでも見せられないだろう。

彼女は、ワタシの云い分に反駁するのであった。



おばさん
「ああ、あ、そうだ。

あれよ、あれ。

今ね、確かにいるのよ。

ウチにね、あの、三軒隣のタナカさんが、

遊びに来てるのよ」



いきなりのタナカさん登場である。

どう考えたってタナカさんなる存在は、

彼女が咄嗟(とっさ)に出した名前だろう。

話に脈絡がない。



ワタシ
「はあ、タナカさん、ですか?」



あからさまにおかしなことだろう、

と云う思いを胸に、

ワタシは彼女に尋ねた。



おばさん
「そうよ、タナカさんよ、タナカさん」



ワタシは、おばさんが開けた扉の隙間から、

玄関の三和土(たたき)を見た――やはり、そうだ。

タナカさんは、この家には、いない。

いる訳がない――。



ワタシ
「今、タナカさんがいらっしゃるのですか?

さっき、誰もいないって云ってたのに?」


おばさん
「そ、それは、あれよ。

今、ウチにいる主人がいないってことを云った訳で、

お友達のことをいってる訳じゃないわよ」


ワタシ
「そうですか、タナカさんねえ……。

タナカさんがいらっしゃるのですか」



疑惑の眼差しで彼女を見る。

彼女は目をそらした。

そして、大きなため息をつくと、

彼女はワタシではなく、あたかも、

自分に云い聞かせるようにして、云った。



おばさん
「いるわよ、そうよ。

タナカさんがいるわよ。

いるのよ、待たせてるのよ」



彼女は続けて、不服気に云う。

これで終わらせたいとばかりに――。

無理矢理、会話を閉じようとした。



おばさん
「あの、これくらいでいいですか、

もう、待たせてますから。

タナカさんを待たせていて、悪いですから――」



云い切るや否や、彼女は会話ばかりではなく、

扉まで閉じてしまおうとしたが、その瞬間、

ワタシは傘の中から手を伸ばし、

グワっと扉のへりを掴んだ。

一瞬、ワタシの脳裏には、

手で掴むのではなく、「マルサの女」ばりに、

扉の隙間に足を突っ込む姿が描かれていたが、

ワタシの履いている靴は、

マルサのように厚い鉄板の入った安全靴ではないので、

思いっきり挟まれたら痛いこと、この上ないだろう。

とにかくワタシは、

彼女が話を打ち切ろうとしたのを止めた。

出来るだけ、落ち着いた声で彼女に話し掛ける。



ワタシ
「ちょっと待って下さい。

奥さん――アナタ、また嘘つきましたね?」


おばさん
「嘘――?

アタシが何をどう、嘘ついたっての!?」



不満が爆発したかのように、

彼女はワタシに聞き返した。

先程までの、のんびりした口調では、ない。



ワタシ
「ええ、そうですよ、嘘ですよ。

タナカさん、でしたっけ?

その人はいませんよ、確実に」


おばさん
「な、な、なんでよ?

なんで、いないなんて、断言するよの?」


ワタシ
「じゃあ、ここに呼んでみて下さいよ。

タナカさんを――」


おばさん
「呼べる訳ないじゃないの!?

なんで、アナタに命令されて、

アタシが呼んでこないといけないのよっ!!」



彼女は怒りの表情を露わにする。

ワタシは、このときはとばかりに、

落ち着いた声で話す。



ワタシ
「まあ、そう云うでしょうね。

そう云うしか、道はありませんものね……。

でもね、奥さん。

ここに、タナカさんがいないという、

明確な証拠があるのですよ」


おばさん
「しょ、証拠?

証拠があるんだったら、見せてみなさいよ!」


ワタシ
「証拠は、奥さんの足下ですよ――」



ワタシは掴んでいた玄関扉のへりを、

ぐっと手前まで引く。

ドアノブを握っていた彼女は、その反動で、

アっと声を上げ、前のめりになった。



ワタシ
「ほら、この玄関の三和土を見てくださいよ。

アナタが履いている、そのサンダル以外、

靴もサンダルも、履き物が一足も置いてないのですよ」



彼女は、顔を歪め、しまったと云う顔をする。

ワタシは構わず、続けた。



ワタシ
「玄関に、いつも履き物を出しっ放しにしない。

すべて靴箱に入れておく、

と云うことなら分かるのですよ。

この玄関の三和土をみれば、分かります。

奥さんは、きっとそんなタイプの人間なのでしょう。

でもね、普通、その手のきれい好きな人であっても、

幾ら友達であると云っても、

他人の靴まで、外に出ているのが嫌だからと、

靴箱にしまってしまう人は、いませんよね?

ま、今、ワタシを家の中には上げてくれないでしょうから。

それだったら、今から三軒隣のタナカさん家まで行って、

確かめて来ましょうか?」



彼女は、答えない。



ワタシ
「……それとも。

まさか、まさかですよ。

近いからと云って、タナカさんが裸足で歩いて、

ここまでやって来たとか、云わないですよね?

しかも、この雨の中を――」



その時、ミシミシと廊下の板張りがしなる音がした。

顔を前に上げると、そこには、男がいた。

初老は超えているだろう、

痩せて、頭のはげ上がった男が、

ワタシを睨み付けていた――。



彼が、そうだ……。



……続く。



<おまけ日記>

最近、ニンバイのお問い合わせが多いです。

ケーバイになる前に、ニンバイしましょう。

 

2005.09.11 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十四話 「再び、喫茶店にて――」



――薄暗い家の中から姿を表したのは、

喫茶店のテーブルの向かいに座っている男だった……。



あの時、ハヤシバラは、不服そうな顔をして、

ワタシに云った。

強い口調である。



ハヤシバラ
「雨の中、わざわざここまで、来て。

こっちにもこっちの予定ってのがあるんだよ。

だから、こっちはわざわざアンタに連絡をしたってのに、

それを無にするようなことしやがって。

アンタはそれを分からないのか? 」



横に降る雨に身を打たれながらも、

ワタシは彼に云った。



ワタシ
「理由はどうであれ、こちらがこうやって出向いているのに、

居留守だか、雲隠れみたいなことをされない方が、

よろしいのではないか、と思いますがね――」



荒い口調同士がぶつかる。

無論のことながら、場は険悪なムードとなり――。

このような場合、

相手方は決まったセリフを云うのであった。



ハヤシバラ
「もう、いいから。

アンタと話すことはない。

だから、帰ってくれ! 」



ハヤシバラは、奥さんに向かって、

扉を閉めろと云わんばかりに、

ワタシの方にあごを向ける。

主人の云う通り、奥さんは玄関ドアを閉めようとした。

ワタシはそれを止める。

ここで閉められたら、元も子もない。

ドアを押さえながら、ワタシは云った。



ワタシ
「ドアを閉めるんだったら、閉めるので、構いません。

でも、ひとつ云っておきます。

ここで閉めたら、もう終わりですよ」



「終わり」と云う部分で、ハヤシバラは、

眉を少し、引きつらせた。

彼は、自分の妻の肩に手を置き、

一端、ドアを閉めようとするのを止めさせた。



ハヤシバラ
「それは、どういう意味だ?」


ワタシ
「どういう意味も、こういう意味もないですよ。

話し合いが出来ないと云うことでしたら、

こちらとしても、そちらとの話し合いを打ち切って、

そちらの云い分は、一切聞かない――。

そういうことです」



ワタシはいつも以上に、力強い口調で云った。

相手に説得力がある言葉を吐く時は、

特に自分自身が自信を持った言葉でなければならない。

弱々しい声で相手に云ったところで、

説得力の欠片もないだろう。

ハヤシバラは、しばし、彼女の肩に手を置き、

考えていたようだが……。

答えは決まったようだ。



ハヤシバラ
「分かった。

だけれども、今日のところは、まだ心の準備が足りない。

だから、また今度、日を改めて、ではどうだろうか?」



ここで、無理に詰める必要もあるまい。

ワタシは彼の申し出に了解し、

具体的な日時と場所だけを決めて、

その場から立ち去ったのである――。



そして、その約束通り、ハヤシバラは、

決められた場所と時間にこの喫茶店にやって来た。



再び、喫茶店にて――。

彼とワタシは向かい合って、話をする。

しかし、話し合いを進めれば進める程、

ワタシとハヤシバラとの間の溝は、

ますます 深まっていくばかりであった。



すでに氷が溶け、

水っぽいだけの甘い汁を飲み込んだワタシは、

俯(うつむ)いている男に、云った。



ワタシ

「出て行かないといけないのは、

もう、決まっていることなんですよ。

決定路線です。

もし、これを覆すとしたら、

たったひとつの方法だけです――」



ハヤシバラはワタシにその顔を向けるのであった……。



……続く。



<おまけ日記>

明日から、また更に忙しい日々が待っています。

頑張っていきましょう。

それではお返事です。


9/9 14時
最近お忙しいのか お疲れなのか

のんびりがんばってくださいね


疲れているというよりも、

忙しいですねえ。

書き物にしても、

ちょっと他のモノを優先して書いてたりします。

9/11 15時
だらだらだね。お気に入りから削除します。バイバイ


はい、ご自由にどうぞ。

 

2005.09.18 日曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十五話 「買い戻しの話」



――ハヤシバラの目がワタシに向けられる。

その目には、微かな期待のようなものが感じられた。

彼らが退去することなく、

このまま、家に住んでいられる条件。

それは――。



ワタシ
「――簡単なことですよ。

ハヤシバラさんにお金を出して貰って、

この家を買って頂くことです。

いわゆる、買い戻しってヤツですね 」



当たり前の話だ。

会社としては、彼が住む家にリフォームを施し、

それを一般市場で転売しようとしているのだから。

今住んでいる人に買い取って貰うのが、

こちらにとって、最も都合がいいのは、

リフォームをする手間暇も掛けずに済むし、

買い手を見つける時間も削除出来る。

一石二鳥なことは、明白である。



しかし、ワタシは云った条件は、

彼ら老夫婦にとって、

現実的なものではなかったようだ……。

ハヤシバラの目は一瞬にして、曇った。



ワタシ
「……そうして頂ければ、

まあ、家から出る必要はなくなりますよね。

ワタシどもにしても、

ハヤシバラさんは、契約した時点で、

お客様と云うことになりますし……」



ハヤシバラは、大袈裟にため息をひとつ、ついた。



ハヤシバラ
「そんな、家買うなんてことがあったら、

オレだって、そうしてるよ」



僅かではあったが、期待を持っただけに、

自分にとって無理な話だとすると、

それだけ落胆の色が濃くなると云ったところか。

ワタシは彼の落胆に対し、

別に感慨のひとつも持つことはなかった。

端から過度な期待は、していない。

あったら、いいなあ、と思う程度だ。

占有者の側から買い戻しの申し出があったとして、

それに過剰な希望を持ってしまうと、痛い思いをする。


期待だけが膨らまされるだけ、膨らまされて、

結局、 ただ無駄に時間を引き延ばされただけ、

なんてことは、ざらにあるのだ。

そんな時間稼ぎを目論まれないだけ、

マシであったとも云えよう。

ただ、全部が全部とは云わないが、

買い戻しの申し出があり、

それが成功するケースもあるから、ややこしい。

どの線で最終的な見極めを行うか――。

踊らされず、かといって、すべてを否定せず、

的確な状況判断をするのが、ポイントであろう。



ワタシ
「ただ、ハヤシバラさんは、

あそこを借りてらっしゃるんですよね。

えーと、家賃は――幾らでしたっけ?」



この質問をした後、裁判所の資料に記載されていた、

あの家の賃料を思い出した。

賃料は、月々15万円。

当該エリアの賃料相場からは、はずれていない。

ストライクゾーンである。

一応、裁判所の資料――三点セットと呼ばれるものだ

――には、ある程度の家賃などの数字や、

権利関係について指摘されている。

競売物件としての基本的な部分が分かるだけに、

重要な資料群であることは間違いない。

しかし、その資料をきちんと読みこなさなければ、

「競売で落札しなければ、よかったのに……」

と事故さながらの、トホホなことも起こりうるから、

気をつけなければ。



ワタシが、「あ、家賃は15万円でしたよね」

とひとりボケひとりツッコミのように答えようとした時、

ハヤシバラはワタシの問い掛けに、

曇った目で、やや投げやりな答えを返した。



ハヤシバラ
「ああ、えーと、なんだっけかな。

いいや、分からんよ、知らん」


ワタシ
「え、ご自宅の家賃のこと、

大まかであっても知らないのですか?」


ハヤシバラ
「……知らないものは、知らない。

それに、答える気にもならない」



やはり、投げやりな感じで、

目尻に右の人差し指を持っていく。

ハヤシバラは、目やにをいじっているようだった。



ワタシは、「そうですか」とだけ述べると、

ハヤシバラに買い戻しの話をするのは、止めた。

彼は、買い戻しが出来ない。

これ以上、そのような話をしても、

無意味の極みであろう。

話を軌道修正する。

これは、話を元に戻すことと、同義だ。

すなわち――。



ワタシ
「じゃあ、もう道はひとつしかないですね。

アナタには退去して頂きます」




……続く。



<おまけ日記>


今日、車で高速走ってたら、

他の車に当てられてしまってみたり。

とりあえず、渋滞だったんで、

怪我することなく、それが不幸中の幸いだったり。

それではお返事です。


9/14 1時
いつも楽しく読んでいます。

そんなGさんに贈ります。ZARD『負けないで』

一緒に歌いましょう。さんハイ


♪負けないで〜

ザードは懐かしいですねえ。

9/14 6時
ネットっておもしろいね

朝までやっちゃったよ

今日、一日しんどいやろね しかたないんだけど


その日は仕事だったんですか?

それは大変だったですねえ。

ワタシ、徹夜はつらい年頃になってきました。

9/15 4時
最近は忙しくなってきた。景気が回復してるのかな。


忙しいときと、時間が有り余るときの、

その差がちょっと、イヤーンですね。

9/15 10時
今日こそ新規あげるよー Mr,G 

オラに新規顧客をくれ!!!


仲介業も大変ですねえ。

いやはや、この業界のどの職種も大変だわ。

9/17 15時
忙しいのかなぁ、更新が遅い・・・はよ続きがよみたい・・・


申し訳ないですねえ。

ただ、一週間以上は開けずに更新しよう、

とは思ってます。

更新するときは、連続して続く、かも。

 

2005.09.21 水曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十六話 「金は、ない」



――目前の男は、ワタシが彼に最後通牒を突き付けた

先程から、黙(だんま)りを決め込んでいる。

視線は下を向いたまま、

ただ、彼の手だけが握ったり開いたりと、

盛んに動いている。

ワタシはそんな彼の方を向かず、

あごに手をつき、黄昏(たそが)れるようにして、

古びた喫茶店から窓辺の景色を眺めていた。



止むことなく降りしきる、六月の雨。

梅雨時の雨粒は、

粘り気のある糸をひき、後から後から落ちている。

そんな光景を引き込まれるようにして見ているワタシは、

何故だか、どこかしら、雨は納豆に似ている――

なんて、愚にも付かない連想をした。

それにしても……。

雨を納豆に例えたヤツなんて、

自分の他にいただろうか。

これがホントの雨納豆――か。

我ながら、バカな例えだ。



仕事中――ましてや交渉中だと云うのに、

納豆の思いを胸に抱き、

不思議とセンチメンタルな気分に陥っていた。

空想の世界へ向かう、

空飛ぶ猫バスに乗り掛けようとしていたワタシを、

現実世界に引き戻したのは、

ハヤシバラの咳払いだった。

わざとらしく大きな咳を立てられ、

ワタシは、窓から彼の方へと、

夢から覚めたばかりのような、虚ろな視線を向けた。



ハヤシバラ
「で、結局、出ないといけない。

そうしないといけないって云うのか?」


ワタシ
「……そうです。

その通りです、ね」


ハヤシバラ
「何とか、ならんものか?」



ワタシがハヤシバラに返した答えは、

彼にとってみたら、冷徹であると云う一言でしか、

表現出来ないものだったかも知れない。



ワタシ
「ハヤシバラさんが、ずっと住み続ける、

と云う点では、無理ですね。

こちらとしては、仮に今まで通りの賃料である――

ええと、15万円ですか――を支払って頂き、

賃貸借契約を存続させると云うことは、

本意ではありません」



ハヤシバラは、テーブルに頭をぶつけるのではないか、

と思われる程、うつむき――。

うなり声を上げるのであった。

そして、しばしの静寂の後、彼は云った。



ハヤシバラ
「オレは、そこから、出られない――。

そんな金は、ない」


ワタシ
「金は、ない、と云いますと?」



ハヤシバラは、実際にお金を借りて、

返済が滞ってしまった債務者ではない。

この家の所有者ではなく、賃借人と云う立場だ。

言葉が悪いかも知れないが、

借金のカタで、家屋敷を取られると云う訳ではないのだ。

単純に、賃借権と云う権利を認められない、

そんな立場になっていたから、

競売で物件を落札した側としては、

賃借権を存続することなく、

退去を申し出ている、と云うだけの話である。

だから、”彼が金がない”と云われても、

だけれども、そんなことを云っていたって、

月々15万円の家賃を支払えるだけの、

余力はあるだろう、と訝(いぶか)しがるのも、

当然の話だろう。



ハヤシバラ
「そのまんまのことだよ。

金が、ない。

一切無い――」


ワタシ
「いや、でもですね、ハヤシバラさん。

今、現在、ご夫婦で15万円と云う、

相当なお家賃を支払っていらっしゃるじゃないですか」


ハヤシバラ
「今、オレは――十年以上前に、

会社を潰してしまって、それ以来、無職だし。

病院通いの身だから、

そんな人間を雇ってくれるところなんて、

どこにもない。

それに、ウチのだって、

所詮は、パートみたいな仕事やっているだけで、

そんなものは、たかが知れてる。

小遣い銭稼いでいるようなもんだ。

だから、そんな金など、ない」


ワタシ
「いや、でもですね――」



ワタシが質問したことと、

それに対するハヤシバラの答えが、

ちぐはぐに食い違っている。

ワタシが云っていることは、

今の身分を聞いているのではない。

確かに、会社を潰してしまったと云うことと、

今、病院通いを続けていると云うことは、

あながち嘘ではないのだろう。

しかしながら、その窮状を聞かされたところで、

現に支払っているだろう、月々の家賃を考えたら、

全く金がない状況だとは云えないだろう。

年金だって貰っている年頃だろうし……。



ワタシ
「それだけの家賃を毎月支払われると云うのなら、

今現在、ご収入の道が限られているとしても、

それだけ、過去の――」



ワタシの言葉を遮るようにして、彼は云った。



ハヤシバラ
「――過去?

過去に、何があるって云うんだ?」


ワタシ
「いや、ですから――。

過去の貯金がある訳ですよね?」



ワタシがそう云うと、ハヤシバラは、

顔を上げ、一瞬、間の抜けたような、

弛緩した顔をワタシに向けたのであるが、

途端に、シワだらけの顔を崩し、笑った。

白黒映画時代の、アメリカの喜劇を見ているような、

大げさとしか云いようのない、笑いだった。



ハヤシバラ
「――ちょ、貯金?

そんなもん、どこにあるんだ?

あったら、教えてくれよ。

今すぐにでもさ、本当に。

そんなもんがあったら、

オレは、こんなことをしなくたって……」



大げさな笑いを続け――。

しかし、その反動が来たのか、笑い声がいつしか、

ゲホゲホと、具合の悪そうな喘息に変わっていた。

ハヤシバラは苦しそうに、自分の胸をさする。

はあはあ、となんとか息を整えようとしているが、

だが、なかなか上手くは、咳を止めることが出来ない。

ワタシは立ち上がり、「大丈夫ですか?」と訊ね、

彼を案じたのであるが、

ハヤシバラは苦しげな顔をしつつも、

「心配して貰わなくて結構」と云わんばかりに、

右手でワタシが着席するよう、促した。



ハヤシバラは、依然として、

いかにも苦しそうな咳が止まらぬ様子である。

老人が自分たち夫婦の将来を心配して、

興奮した結果であるかも知れない――。

流石のワタシも、

今回の交渉は一時、取りやめし、

また次回改めて、話し合いの場を持とう――。

そのように思うのであった……。



……続く。



<おまけ日記>


ワタシの家のパソコンがぶっ壊れてしまったのですが、

まだ買って一年目だと云うのに、四回目の故障で、

すべてウインドウズが立ち上がらないと云うもの。

流石にサポートセンターの人間に、

この窮状に関して、憤りを込めて「交換」するように、

伝えたところ、「修理しかしない」と云っていたところ、

更にこちらの主張を伝えたところ、

何とか「交換」して貰える運びになりましたとさ。

やっぱ、云うときはきちんと云わなければ――。

そんな感じです、はい。


それではお返事です。


9/19 6時
来年は落とすぞー、何とか。Gも頑張れ!


とりあえず、今年落としたいです(笑)

 

2005.09.23 金曜日


対決! 追い出し屋G 対 抗告屋 編


第十七話 「交渉は、続行」



――突如として発作に襲われたようにして、

咳き込むハヤシバラであったが、

徐々に落ち着きを取り戻してきたようだ。



彼は、無造作にズボンのポケットに片手を入れると、

そこから、使用感に溢れんばかりに、

ヨレヨレになったハンカチを取り出した。

唾と唾液で濡れた唇をぬぐう。

そして、たらふく酒を飲んだ後の締めは、

やっぱり豚骨ラーメンだよね、と云うのと同じだろうか。

ハンカチを取り出したら、最後は鼻をかまないとね、

と主張したいのか、したくないのかは分からないが、

いずれにせよ彼は、ハンカチを使った後の締めのように、

鼻をチーンと鳴す音を、静かな喫茶店に響かせた。



横を向くと、通路を挟んで隣のテーブルに座っている

サラリーマン風の男が、露骨に嫌そうな顔をしている。

それはそうだろう。

おそらく営業の途中、ちょっとした心の癒しを求め、

こぢんまりとしたこの喫茶店を訪れ、

会社や営業先での鬱憤をしばし忘れるために、

コーヒー――いや、このサラリーマンの場合、

チョコバナナパフェ、か――をゆっくり楽しんでいる。

それにも関わらず、

隣では、なにやら不穏な空気の中、

時折、興奮した面持ちで、

大の大人がふたり、話をしているのだ。

心の安息が、殺伐とした会話で、台無しにされている。

しかも、駄目押しで、じいさんの鼻をかむ音だ。

デリカシーの欠片もない――。

きっと、そう思っているのだろう。

周りの客は、たまったものではない。

そう云えば、喫茶店のマスターも、

すっかり困惑気味な表情で、時折チラチラ、

こちらを見ている。

店の主は、他の客の手前からも、

いいから、早く帰れ、と心の内で念じていることだろう。

先程のサラリーマンは、

フォークの先でパフェのバナナを

何度も何度も突いていた……。



ワタシは、咳が治まって来たハヤシバラに対し、

「一度、仕切り直して、また再度お会いしましょうか」

と提案した。

多分、具合が悪くなってきた彼は、

一も二もなく、同意するものと思ったのだが、

しかし、ハヤシバラは、予想に反して、

ワタシの提言を拒否するのだった。



ハヤシバラ
「次に会うことなど、ない。

決められるんだったら、ここで決める。

決められないのだったら、

二度と会わない――ただそれだけだ」



彼は、意を決したように云う。

だが、そこに自らの意思を強く主張しても、

こちらの意見が全く汲み入れられなければ、

互いに